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茸も妻も
「どうした?」
「―― 気持ちが、いいのです」
「なにを言っている、はよう出ろ」
「できませぬ」
「ばかなことを、こんな茸、刃できざめば」
「おやめくださいませ!出たくないのです」
「山のモノノケにとりこまれたか!」
「モノノケではなく、キノコでございます」
「茸など、こうしてくれるわ!」
腰にさした鉈をとりあげ、振り払おうとしたとき、ぼしょっと変な音がして、目の前の妻をとらえた茸がつぶれ、そこからまきあがった白いものでなにもみえなくなった。
せきこみながらも、茸によって妻の名をよび、しおれたような網と大きな笠をどけてみると、
―― ぐしゃりとちぢんだ妻がいた。