かえってこない
「山菜や木になるもんも、みつけるのうまくて、 畑で、すこしの野菜を育てるだけで、あとはおれが鳥や獣をとってくる。 ―― ここでの暮らしは、だれに見咎められることもなく、気にするもんもなくて・・・、ふたりとも気にっておりました・・・。 街におりるのは、煙草がきれたときぐらいで・・・。 それが、 ―― この時期に、いつものように、茸をとりにでた妻が、かえって来なかった・・・」
囲炉裏の火から藁にうつした火を、煙草にうつした。
「・・・山を、 ―― もう、迷うことなんてなくなっていた山の中を、妻をさがして、ぐるぐるまわるようになったら、あそこに着いたんですよ。 あなたも着いたあの場へ。 木々のあいだに、白いものがあって・・・妻が、立っているように見えたのに、 ・・・近づくと、あの、化け物みたいな大きな茸で、笠の下の、ジクになる《網》のなかには、 ―― さがしていた妻がおりました・・・」
網の中、まったくいつもの様子で、うつむくように立っている妻の名をよび、寄ろうとすると、ああ、となんだかしどけない声をあげた妻は、来なさるな、と夫に片手をあげた。