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妻だったモノ
「妻が、茸とりがうまくて、目が利くのです」
「・・・はあ・・・」
「おかげで、いままで毒キノコにあたったことは、ありません」
「そりゃ、すごい」
こどものころ、じいさんに内緒でたべた毒キノコにあたったことのあるヒコイチは、感心した。
絶対に大丈夫だとおもって口にしたそれは、『にせ』と名のつく本物と見分けが難しいたぐいの茸だった。
「その妻が、 ―― アレです」
「・・・・・・ア・・レ?・・・・っ!?あ、あの、さっきの、」
「茸のなかに、女がおったでしょう?」
「あの・・・」
「あれが、 ―― キノコにとりこまれた、おれの妻なのです。 いや、ただしくは・・・・妻だったもので・・・」
そこで、ひくくわらったユキゾウの声に、女のわらうような声がかさなったようなきがした。
いや、どこにもあんな、茸はない。
ユキゾウは、懐から煙草入れをとりだすと、羅宇まで銀の、こまかい細工がほどこされたそれをつなぎ、煙草をつめはじめる。