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まにあわない
ユキゾウが、ああもう平気でしょう、と髭だらけの顔でわらう。
「ここから、モミジの木をたよりにゆけば、すぐに下って街道にもでられるはずだ。 ―― はいるときに、番神様が、いなかったでしょう?」
「 へ? 」
「『隠す』のですよ。気に入った人が山に入ろうとするときに。 どうやら、山神様も承知のようで、そういう人は、たいてい、―― まにあわない」
『まにあわない』?
なにが、ときくのをためらわせるような笑みを、ユキゾウはうかべていた。
子どもの『いたずら』にでも、困っているような、あきれているような、それでいて、
―― どこか暗い笑みを。
囲炉裏のむこうの男と目があい、ヒコイチの背に、なぜか寒気がはしる。