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ついて ございます
すると、女がまた口元へ片手をそえ、こんどはふつうに口をひらいた。
「 ついて ございます 」
「・・・はい?」
女の声と、しゃべりかたが、あまりにもふつうの様子だったので、ヒコイチはそっと聞き返した。
「・・・なにが、・・・『ついて』るんですかい?」
それは、女になにかよくないものが、憑りついているということか?
それならやはり、このあと出てくるのは、―― 山の化け物か
女が静かな微笑みをのせたまま、てまねいた。
すこし考えてから、足を、一歩進めた。
きっとまだ、さらに手招くだろうと思った女が、その手を腰の紐へのばすと、ぱらりととって、着物の前をあけてみせた。