今更悔いても許しません。
「やぁ!今日も麗しいね、僕のティア」
花を一輪差し出しながらそう言ってくるのは、婚約者のシューヴェル・ルッツだ。
次期侯爵で、金髪碧眼に甘いマスクがご令嬢達からは人気がある。
まだ齢8歳の幼い子供だが、女性の扱いには慣れているように見えるのはご両親の教育によるものだろうか。
「ありがとうございます。シューヴェル様」
差し出された花を受け取り、花を眺めれば自然と笑みが溢れ出る。
花の香りを楽しみシューヴェルを見ると、ニコリと笑みを浮かべて手を差し出していた。
「お姫様、よろしければお散歩など如何でしょうか?」
「よろしいですわね。ぜひともご一緒させてください」
シューヴェルの手を取り、二人が歩き出せば風がそよそよと優しく吹き始める。
心地良い日差しを浴びて深呼吸をすると草木の香りに顔が綻んだ。
繋いだシューヴェルの手をチラリと見て、一瞬だけギュッと強く握る。
こちらを向いてほしい気持ちと、なんだか照れ臭い気持ちとが混ざり合う。
シューヴェルは少し驚いた顔をしてこちらを見たが、すぐに笑みを浮かべてギュッと一瞬だけ強く握り返してきた。
目が合った二人は照れ臭そうに笑い合い、ほんの少し強く握った手の温もりを記憶に残した。