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地獄の復活者

薄明りの永遠の曇り、それが白昼の白い輝きに侵食されていく。僕達の立っている巨大な骨の化石の上から、僕達の周囲を塗り潰していく。


「先に言っておくが、これは門というよりは穴になる。一方通行で、帰りは東雲君の次元を突破する膂力を使ってくれ」


天界の光景。そこは輝く大空の世界に、まるで人間が干しモノのように、両手を開いて人間が繋がっている世界。それがずっと続いている世界。まるで壁のように。両手同士を合わせた人々は、両手を真横に開いてくっつけてるだけ。ただ、生きてるように感じられた。太陽という光源のあるのか。人間が干しモノのように連なってる、老若男女問わずに、そうなっている。永遠の天国の住人達。


「邪魔ですね。殺しながら進みます?」


「祭殿付近に天使の街があるはずだ。探れば容易にジャンプ出来るだろう」


「いや。殺しちゃダメでしょ…っていうか、一応、ほら。無関係のヒトは極力避けよう。それが出来るぐらいには、僕達は強いから」


「そうですかぁ」


本物のサイコパスを見た気がした。倫理観だとか、罪悪感だとか、絶対正義という大いなる目的のためには、一切の考慮をまるでやらない。英雄の思考に染め上がってる。ヴィクトリア・ローゼスは、そういうヤツなのだ。僕はというと、とっても優しい。病的のように言われようが、民間人や、それに準ずる存在には配慮をすべきだ。僕は、もうそれぐらいやってあげるべき強さがある。


「これ何してんですかぁ?眠ってる?」


「永遠の眠り、眠りの共有だよ」


「脳髄の湖と似たようなものですね」


「もっと上等なものだよ。肉体と魂をセットにしてるからね。私なんて肉体は意志を執行するための道具だと思っているが…。まぁ似たようなものだね」


「将来的には機械の体にとって代わるでしょうね。サイエンスフィクションの世界が現実を追おう社会がやってきます。それに伴って、意志を執行する肉体はアバターへととって変わる。肉体を無数に操る魂が出てくるでしょう」


「怖い事考えるなぁ…」


「何言ってるんですか?私達がそういう社会プロセスを考えていくんですよ。人類をデザインする。昔から支配者がやってきた義務です」


「そういう事はおいおいやっていけばいい。今は終末を回避するためだけの事を考えてくれ」


「そもそも天界でマッキーの次元超越能力は問題無く出来るんですよね?」


「出来るし、そう難しいものでもない。隣接しているからね」


「ゼロと1の間は無限大の差があるんですけど」


「それを塗り潰せる力があるのがドラゴンの力だ」


「証明できない以上、覚悟を決めるしかないですね。私は信用してませんが」


話を聞いてたら、少し怖くなってきた。


「ココから先は僕一人で」


そう言った途端に、思いっきり魔力を込めたグーパンでみぞおちをこずかれた。


「次そういう事言ったら殺すつもりで殴りますからね。そうだ。地獄王、あなたも一緒してください。暇でしょ?」


「私は地獄に楔を打ち込まれている。移動する事は出来ない」


「じゃあその楔を破壊します。どうです?っていうかそもそも、そうやって頼んだりしません?元々人間の味方なら、積極的に助けてどうぞ」


「…なるほど。そうだな。確かに可能だ。私は永遠の腐食で貪られる呪いを受けている。楔が無くなればそれも無くなるだろう」


骸骨。天使の骸骨。それが魔力を込めて、復元されていく。肉付き、血管が出来、心臓が出来て、頭蓋の眼底には血肉が出来て目玉が生まれる。


「…」


凄まじい魔力が放たれている。ほとばしる魔力は風圧を伴う。が。


「私の魔力を全開にすれば…。楔が形を成してくる」


美しい肉体が出来上がってくる。それに伴って、心臓を貫く楔も現れてくる。それはむしろ、槍のようだった。


「へぇ。確かに古代芸術のモデルというだけあって、普遍的な美がありますねぇ」


美しい翼が何枚もある天使がそこに居た。血を吐き苦悶の顔を見せているが、それはやっぱり美術の教科書にも出てくる天使そのものの姿だった。


「楔を引き抜いて破壊してくれ」


楔を掴んで引っ張って引き抜くと、また地獄王を突き刺そうとする力が働いてるので、僕の魔力で楔を覆って、力を込めて粉微塵こなみじんにした。


「…」


「じゃ。行きましょうか。服を着る時間はあるから」


「一年ぐらい待ってくれないか?少し肉体と魂を馴染ませたい」


「あなたさっき肉体は魂の意志を執行するための道具に過ぎないとか言ったよね」


「そうだが…、少し事情が変わった」


「マッキー。今の台詞聞いた?事情が変わったって」


「いや。気持ちは分かるよ。別に地獄の王様が同行する必要はないんじゃないかな」


「あのね。この世の中で、事情が変わったからって建前にするヤツはね、ろくなヤツは居ない。ヴィクトリア家に借金を頼みに来るヤツは大体そんな感じなのね。都合なんて知ったことかっての」


「それこそビッキーの都合の色眼鏡だよね!?いいよ!そもそも…」


「天界の事についてガイドが居た方が便利でしょう。それこそ、無駄な殺傷も減るかもしれない。私は天使は全員皆殺しにしてもかまわないと思ってる。子供も女も。私達を滅ぼす手先なら、欠片も残さず殲滅すべきだってね。地獄王が天界に戻る事自体、それは意味のある事に思えるし」


「確かに、私が天界に戻る事は非常に意味がある事だと思う。ハルマゲドンが天界を舞台に、地獄と天界の戦いの構図が表れるだろう。それに私が号令を出せば」


「そういうのは良いから。終末を回避出来るように、始末すべき業の道しるべだけで構わない。後はマッキーが数秒で終らせる。そうなったらさっさと戻るから」


相変わらずキレッキレに物騒な事語るなぁ。


「私が同行するのなら、それこそ配下の者を軍団で…」


「それ私怨でしょ。戦争が目的じゃない。人類の継続と未来が目的なの。なんなら天界と地獄を両方滅ぼして構わない。ってマッキーは考えてる」


「えっ」


そんな事もちろん考えてない。


「…」


「それに、貴方の魔力の多寡たか、さっきのが全力なら、それこそたかが知れる。私でも勝てそう。言っておくけど、私のバックにはマッキーがついてますの。かしこくも、私の言葉はマッキーの言葉として受け取って頂戴」


「…」


そこまで言わなくても。っていうか、僕はビッキーの言葉に完全に同意したわけでは…。


「でしょ?」


「えっ。あ…っと。うん。まぁ…。そっですね」


美しすぎる顔が歪みきって怖い顔でそう言ってくる。こういうところでこういうことじゃなかったら絶対絡みたくないって改めて感じる。


「なるほど。わかった。…ふぅ。私は大分長生きだが…。年長者の意見は聞くべきだ」


「とりあえず、服が必要だね」


僕は何か禁忌を侵してしまったような気分になった。…簡単に地獄の王を復活させて良かったのか?


「…」


まぁ、あの程度でマックス全開とか言ってるなら、かすり傷もつかないレベルなんだけど。

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