地獄の王様
空気が変わるのを感じた。ジャングルのような場所が、まるで深海にいるような。大きなステージの上で真っ暗の中、薄紫の照明を当てられてるかのような。
「…」
談笑してた僕達の空気が一変した。
「…来るようだね」
河童さんは言った。
周囲の風景が燃えるように変貌を遂げていく。まるで薄い天幕を張られていて、それが燃えて向こう側が見えるように、周囲の風景も変わっていった。
「よく来てくれたね。歓迎するよ」
全身が骨と髑髏。まるで骨格の標本のような姿。スケルトンが会釈する。その全身の骨格で僕の知らない部位があった。翼、それも複数ある翼の骨。聞いた事のある声が、頭の中に響く。
「好きに呼んでくれるといい」
「目が、醒めるとはこのことか」
ビッキーは喉元を鳴らす。
「相変わらず術が雑だね、ルシフェル」
河童さんはダメ出ししてる。
「君のようなエレガントさ、機能的優位性で術を見てないものさ」
「あらあら地獄王様。ごきげんよう」
「客人の前だ。楽にして構わない」
ビッグハットは丁寧に深々としたお辞儀から立ち上がって帽子を整えた。
「骸骨…」
魚が泳いでた。海底のような雰囲気のある、夜の世界に、僕達はいた。
「そっちの方が、話しやすいだろう。腹を割って話もあるわけだからね」
「空間そのものを私達ごと、切り取って転移させた…」
ビッキーは言った。
「正確には、君達の存在している空間を侵食させたんだ。我が領域は臓腑と同等だ。好きなように動かせる」
「ここは?」
「遺跡だよ。天界への門の。正確な場所は、地獄の深層、コキュートス、永久停止の世界だね。君達が存在していた有史以前の反逆者達のコレクションさ」
よくよく見ると、巨大なる動物の骨の上に居たという事が分かった。下を見上げると、びっしりと氷漬けにされたモンスターや人が、所せましと並んでいる。壮観な光景だ。
「東雲君。迎えに行けなくて申し訳なくなってね。しかしなるほど。肉眼で確認すると、確かに私の想像してた強さの二個上を超えてるな」
「強さに心が順応してる稀有なケースだよ」
「素晴らしい」
河童さんの答えに素晴らしいと言われた。褒めてくれているのだろうか。
「君なら次元の壁すらも容易に突破出来るだろう。ゲートを使わずともね」
「それ結構言われますけど、ジャンプの類はやらないです。危険だから」
「私がおしえてあげようか?」
思いがけない提案を言われた。
「お願いします」
もしかしたら、死ぬかもしれない。そう思ってた。暗い暗黒の中で、独りぼっちで死ぬ夢を小さい頃に見てた。きっと正夢なんだろうって思ってたけど、テレポーテーションが使えるなら、そんな悪夢も克服できそうだ。
「一応すぐにでも天界へと向かって欲しいが、必要なら休息を与える用意は出来ているが、どうする?」
「地獄のホテルを。後学のために」
「そうか。部屋は同じでいいかな?つがいだろう?」
「なんでですか!?」
「違います!」
「元気だね」