地獄の先導
大きな帽子の全身ブランド女性はポシェットっていうのか、小さなバッグからスマホを取り出すと指紋認証で解除してからチラリと見てからまたしまう。一瞬ロゴが見えたけど、エクスペリアを使ってるようだ。
「…」
ソニー信者となら上手くやってける希望が持てる。音楽好きとソニーは親和性が高いのだ。アイポン?これ見よがしにアップル信者アピールが激しいからね。アイポッドよりも、MD世代なんだよなぁ。なんて懐かしい思い出に浸ってると。
「ここって電波届くんですか?」
「んー。これは私の能力ね。キャッチザレインボウ。虹や魂や電波を掌握する力。電波程度が行き来する程度なら、私にも次元を超える事が出来る。こう見えても私、忙しいんですのよ。とってもね」
「一応地獄の規則で人間界への干渉は強く禁じられてるのだけれども、彼女は特別でね。地獄と人間界の橋渡し役なのだよ」
「古い時代のルールですけどね。本当はそこいらの悪魔だって今時パソコンで違法ダウンロードしまくってるっていうのにねぇ」
むかっときた。漫画家、エロ漫画家、イラストレーターだって、ちゃんとご飯を食べて生活してるのだ。
「ちゃんとお金は支払ってくださいね」
こういうのは、ちゃんとしないといけないところだ。
「もちろんよ?だけどね。最近は違法のページも増えてきたでしょう?マンガやアニメだって、無料で見れるところも多いんです」
何故か自分の持ってる情報に誇らしげに胸を張られて言われる。まるで、お前らの世界の本来大切に管理されなければならない著作権がそこらの往来にほうっぽりになっているぞ。お前らの世界ではクリエイターの人生なんて何の意味も価値も無い著作権フリーなんだぞ。お前らの世界なんてたかが知れてるなって言われてるようで。腹が立ってきた。殴られてもいい。刺されてもいい。殺されそうになっても構わない。それが僕一人で終始するなら、それは僕の人生で完結している出来事だ。どれだけ酷い事をされそうと、例えば地獄に落とされたとしても恨みっこなんて無しだ。僕の人生だ。他の誰でも無い、僕の。最高の、最強の、絶対の、僕の物語だ。精一杯やってるんだ。
「僕が世界を救ったら、一つだけ約束します」
「あら?」
「国内外の違法アップロードサイトに関わる連中は両脚をねじ切ってやります。観たヤツ見ようとしたヤツがもう二度と見ようなんて意志を持たせないようにちゃんと処罰もする」
「マッキーキレるとこ違くない?」
ビッキーがなんか言ったようだけど聞こえない。
「知ってる人がイラスト描いたりマンガ描いたりしてるんだ。頑張ってんだよ。多分寿命削ってる。そういう頑張ってる人が報われないのはおかしい話だからね」
「マッキー私の時よりキレてませんかぁ?」
「き、き、キレてないよ!」
あ。自分でもちょっと感情が沸いてる感じが分かった。
「この世の中、少なくとも公正さは必要だからね」
「…気が合いますね。同意見です。報われる世界でないと。一方的なものは許されませんよね」
「そうだよ。その通りだよ」
「マスター。君はどうやら東雲君の地雷を踏んだようだね」
「どの世界にも、ルールが存在し、そのルールが破られるのも、少なからずある。それを正す努力を正しく継続的に行う必要がある。ですよね」
「その通りだよ。僕が世界を救った後、ちょっとぐらい世界に干渉してもいいかもしれないね」
変なアイディアが沸いてきたけど、悪くない感じがしてきた。
「例えば?」
ビッキーが聞いてきたのでお答えしよう。
「マジで聞いてる?」
一応聞く。
「そうでもない。話が長くなりそうだし、ビッグハット。地獄王の使用出来る天界へのゲート付近まで行きたいの。後学のために地獄の見物もしたいのもやまやまだけどね」
こいつ…。そうでもないって何だ?モノ申したい事がたくさんあるのに。著作権フリーと勘違いした外人が日本のアニメやマンガを知ったような風に利いてるのを言われて、滅茶苦茶腹が立つのだ。コンビニに立ち読みするレベルじゃない。
「地獄王の領土は広大ですよ。地球の平面図とは比べ物にならないくらい」
僕の激情はほっぽいて、話題は物語のメインストーリーへと修正されていった。
「へぇ」
「…」
少し考える。
「滅茶苦茶広いじゃん!」
そしてさらに考える。
「…そうでもないかな」
いや。どうだろうか?今の僕の飛行速度はどれくらいだ?100キロは出せてるか?多分出せてない。80キロぐらいか?それでも一時間で80キロ。地球の平面図で一時間80キロを移動出来たとしても、全然進めてない事に気付く。
「うーん」
本気を出したら、どれだけ早く飛べる?マックス。全開で。500キロいけるか?いける自信が無いし、時速500キロって何だよって思っちゃうけど。マックス1000キロ。時速1000キロって何だよって思うけど、スーパーマックスならそれぐらいいけるか?赤道の長さが4万キロだっけ。おおよそ。時速1000キロで頑張っても最長で20時間。
「地球の平面図持ち出されるレベルで考えるなら、ゲートを通って地獄王へ向かった方が現実的かな」
結論。アバウトに生きてて物事を曖昧に考えて人生進めてきた僕の珍しい計算式思考算段の結果、導き出された答え。
「…今ちょっと珍しく考えてたんじゃない?」
ビッキーが言う。褒めてくれるのかな。
「そういうのいらないから。マジ」
「僕の立ち位置どのへんなんだよ!!ビッキーこそ、そういう感想いらねーですから!」
「…ちょっと髪をかきあげながらキメ顔で言われたのが何か癪に触って」
「別にいいでしょ!」
こいつ、マジで僕をどう思ってんだ。僕は頭が悪いと思ってる馬鹿だけど、ちゃんとするところはちゃんとする、マジでね。
「おやおや。君達もしかして番なのかな?」
「違います!」
「違います!」
「おやおや。おやおや」
「友達です」
「友人です。多分死ぬまで付き合ってくれる腐れ縁の一つですね。まぁありがたいことですけど」
大きい帽子の女性は手を叩いて大笑いしてる。この関係までもってくのに、地球が滅びかけた話をしてあげたい気分になった。マジで全然笑えないからね。