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第八十五話 地獄の番人

脳髄浸る湖の空、雲間に見えた空島を目指して羽ばたいていく。雲間に近づけば近づくほどに、違和感を感じた。背中にはビッキーが完全に武装した戦闘態勢を維持している。背中に乗せてるからか分からないけど、ビッキーの心情が心の中に入ってくるようだった。不安感と義務感、そして勢い。まるで登校に行く前の朝のワンシーンの僕。おそらく、仕事へ向かうための多くのヒトの心境そのもの。彼女はそう、仕事をしに行ってるんだと思った。支配者は被支配者のために尽くさなければならないと言われた事があったっけ。中世では貴族が騎士として戦いに赴く。戦国時代では武家というある種貴族のような特別な地位にあるものが合戦場へと赴いた。ならばこそ、世界を中心に回ってるビッキーもまた、彼女自身の大空を、世界を、地球を、混沌の誰かの狂気を阻止するのもまた、当然の義務のことなんだ。


「そんなんじゃないですよ」


そんな事を言われた。考えてる事が分かったのか。それとも、違ったのか。あえて伝えたのか。いずれにせよ、僕達は一蓮托生。どちらかが死ねば、おそらくどちらかも死ぬ。そんな旅路の不思議な相方なのだ。好きな人だとか、恋慕だとか、気になる人だとか、失恋相手だとか、嫉妬する相手だとか、狂気に引きずり込むべき相手やら、一緒に死ぬ相手すらも、丸ごと全てを超越してる間柄だ。今はもう、恋愛感情は無し。これっていわゆる。そう。やっぱりビジネスパートナーってヤツなのかな?


「上空の大気は少しずつ異常な魔力を含んだ濃度に変わってますねぇ。私達なら全くもって問題外ですが、おそらく何かに作用します」


その大気は、凄まじい速度で、魔力濃度が上がってく。僕の飛行速度が速いだけだろうけど、その色は、オレンジ色の暖色系へと変わってく。不気味な大気。嫌悪感マシマシ。


「…あ」


そんな大気の空に、何かが無数に浮かんでいる。それらは遺体のように見えた。更に上空には遺体で出来た大気が目の前に見える。


「こんな空、湖畔から見た普通の風景からは想像も出来なかったですねぇ」


「なんなんだここ…。ビッキー、地獄王の魔力とか分かる?」


「大分前から消失してましたよぉ」


「異空間に飛ばされたか、それとも出現したのか、元々存在していて見えなかったのか」


他にも考えられることはあるか?


「遺体の大気なんて見えるだけでも気分が悪くなるのに、サービス精神でカーテンで覆い隠してたんでしょうかねぇ」


「死んでるなら、いいかな。邪魔なら排除する。悪魔に会えば悪魔を天使に会えば天使を。ここまで来たんだ。地獄なら、もう落ちてるからね」


こんな有象無象。ただの不愉快にするための口実を与えてるだけに過ぎない。怖いから帰りますが通用する世界なんてもう、とっくの昔に通り超えてる。


「穴を空けます?それともあの大気丸ごと焼きます?」


「どっちがいい?どっちもそう大して変わらないけど」


傷ついた遺体、中世の遺体、ローマ時代っぽい遺体、裸の遺体。人間の、あらゆる死が詰まった壁だった。


「焼くんですか?」


「炎で焼こうかと思うけど、ヴァミリオンドラゴンの姿である程度の出力上げて火を噴けば焼けるだろうけど、そこから先も焼き払ってしまいそうで怖いね」


言われてみて、気付いた。僕は加減が分からない。自分の強さもどしどし上がってる気がする。一番はヴァミリオンドラゴンとのシンクロ率の上昇だと思う。今はもう、完全に繋がった。僕こそが、ヴァミリオンドラゴンだ。この台詞口に出して言うとちょっとゲームのラスボスみたいでちょっと恥ずかしい。それにヴァミリオンドラゴンに乗っ取られたようにも受け取れる。多分、僕の魂とヴァミリオンドラゴンの魂が、重なっている状態だ。そもそも性格だって僕みたいなものなんだし、ただ姿形が違うだけで、魂や意志の力がそっくりなのだ。おそらく、これがヴァミリオンドラゴンを引き当てた因果なのだろう。人生は誰かの助けが必要だ。誰かの冒険が。誰かの導きが。それが、僕だったってだけの話なのだ。ありがとう。純粋に、感謝しかないよ。


「来ます」


遺体の壁が密集し大きな口と目を作った。頭の中に無数の声が鳴り響く。何百、何千、何億、何兆もの、言葉が一斉に耳の中に飛び込んでくる。


「カット」


一秒後の世界を予見し、その攻撃をビッキーが僕ごと究極闘気カリスマで包み込んで防いだ。


「あら」


遺体の壁はばらばらに崩壊し、雲散霧消になって、やがては普通の空へと戻っていった。目の前の雲間に空島が肉眼で確認出来た。


「あっけないですねぇ」



その一瞬を見ていたモノは言った。


「ぶっ壊れてる…」

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