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第八十一話 地獄のグレイ

彫刻が何百とおびただしい数が飾られている。鉄製の門を抜け、先の城へと向かうための庭園は圧巻の光景が広がっていた。全てが真っ白いマネキンのようだ。でも、不思議と見覚えがある顔や姿かたちだった。それらは、歴史上の人物の等身大で出来た彫刻だった。リンカーン、アメリカ初代大統領。モーツァルト、偉大なる音楽家。野口英世まで飾られてる。千円札でお馴染みの医学者。


「…」


壮観だった。美しい南国を思わせる瑞々しい庭園。地獄は灰色しかないと思ってたけど、この城だけは違う。噴水もあるし、植物もある。しかもきちんと剪定せんていされ整ってる状態がキープされてる。その中での真っ白な彫刻達がおもいおもいの格好で設置されている。


「…」


ビッキーはまだ寝起きモードだ。車の助手席で重低音で唸ってる。薄目でどこからか飲み物を取り出してカップとソーサー出して飲んだかと思えば、ぼーっとしてげほげほ言いながら車にあったメンソールを吸ってるし。正直、話したくない。話しかけるオーラ全開でぼーっとしてる。半分寝てるのかもしれない。良く分からないけど、今のビッキーには絡みたくない。なんかあったら殴られそうっていうか、殺すつもりのマジ攻撃仕掛けられそうで怖いしおっかないのだ。


「でも今の状況でビッキーと一緒に歩けないしな…」


仕方がなく一人で本丸まで足を運んでる次第だけど、この彫刻、動いたりしないよね。普通城には衛兵が居たりする。ガードは必要だ。っていうか、この地獄でガードって必要なのだろうか。一般論で言うなら、何かしらのヒトがいるはずだし。だから。絶対動くと思う。


「…」


一歩足を伸ばしてみるべきだ。鉄柵の向こう側に青い車から紫煙が立ち昇る光景が見える。ビッキーマジでタバコ吸ってんのか。


「…はぁ」


しょーがないヤツだと思いながら、更に一歩踏み込んでリンカーンの彫刻をまじまじと見る。


「触りたくないよな」


触った瞬間ここにある彫刻全部が襲ってくるとか考えちゃう。まぁ楽勝だし戦力的に問題は無いとしても、メンタル的ダメージはデカいと思う。ドラクエのラストダンジョンの魔王の城をガチリアルで再現してるみたいに感じる。勇者はすんごいよ。マジで今怖いから。戦闘で言えば無敵だとしても、こういう雰囲気はちょっと気持ちに刺さっちゃう。


「魔力の反応は無し…っと」


完璧な彫刻だ。少なくとも、今現在は。だから視線をずらすとちょっと動いて近づいてくるのだけは止めてくれと思う。それ以外は本当に美しく素晴らしい庭園なんだから。


「動物は居ない…か」


植物は多分生きてる。少なくとも本物に見える。庭園をつっきって、本丸の中央正面玄関に辿り着いた。びくびくしながら後ろを振り返る。一応変化はない。一応。アハ体験でちょっぴり動いてる可能性もなきにしもあらずだけど。


「叩くヤツがあるな」


呼び鈴ではなく、ノック方式。ライオン型のノックでコツコツやる。別に泥棒しにきたわけじゃない。堂々としてればいいのだ。道を聞きたいだけなんだし。可能ならゲートを使わせて貰いたい。


「…」


少し経つと正面玄関が開いて、真っ黒なヒトっぽいモノが出てきた。


「はい」


テレパシーで頭に届く。女性の声だ。しかし、目の前はホラー映画に出てきそうな全身真っ黒な彫刻である。覚悟して来なかったら、先制攻撃を仕掛けてるか、ガチで瞬時に車まで距離を取って臨戦態勢に入ってた。顔が無い。これはマジのマネキンだ。ホラーゲームによく出てくるマネキンそのもの。


「あの、ここの主人はおられますか?」


「現在当主は20年前からゲームをされて、留守にされております」


「そうなんだ…」


もしかして。


「Realですか?」


「はい」


「そうなんだ…」


地獄の悪魔も熱中しちゃうのか。っていうか、悪魔?なのか。


「…」


黒いマネキンの頭が少し動いた、まるで僕の肩越しの誰かを見てるようだった。振り返ると、噴水から銀色の水銀みたいにねっとりとした液体がこぼれ出てきてる。それらがぬぬっとヒト型がになって立ち上がってこっちに来た。いちいちびびらせに来るのは止めて欲しい。


「予見通り。救世主一行を待ってたよ」


水銀のヒト型はどんどんと形を変え、僕のよく知ってる姿かたちに変貌を遂げてしまった。


「…グレイ?宇宙人?」


宇宙人でお馴染みのグレイである。灰銀の目が巨大で頭がでっかいのっぺりとした、グレイ。


「気にしないでくれ。これは遠方から操作するためのインターフェースの一つに過ぎない。アバターだと思ってくれ」


「…そうですか。わかりました」


全然わかってないけど、なんか小さいころからの憧れがぶち破れた気分に軽くなった。サンタが実在しない事を知った幼少期のショックの再来である。


「黙示録を回避するために天界へ向かうため、王の元へと移動したいんだろ?」


話が早い。言葉を解せず、テレパシーで会話できるのがなんかスゴイし。


「その通りです。予見って分かってたんですか?」


「その通りだよ。行動の指針を占いで決定するんだ。っていうか一人?」


「城の外にもう一人います」


「へぇ。そうなんだ。それにしても。君なんかオーラ無いね。うーん。君ってパーティメンバーの一人かな?」


「え?」


質問の意味が分からない。


「ま、まぁそうですけど」


「ふーん。じゃあちょっとテストだ。オーラ見せてよ。趣味の一つでさ。魂の残り香から、人生を想像しながら人形を作るんだ。この庭園の人形は趣味の一環でね」


「そうなんですか」


瞬時にドラゴン変化をした。第一形態。


「…マジかよ。信じられない。どーなってんだそれ。ドラゴンなのか?」


「人間ですよ。ただ、ドラゴンの魂が少し混ざってるって感じです」


「ひゃー。ドラゴン。ドラゴンねぇ。うーん。無理。これは無理だよ。フィギュア化は。テストは合格。勇者様ご一行様と認めましょう。っていうか。ドラゴンでしょ?ジャンプすりゃいいじゃん」


またジャンプ。空間をぶち抜いて移動する出鱈目な技だ。


「やったことないんですよ。皆言うけど、それやったことないんですよねぇ」


「そういうの違うんじゃない?ゲームで初期メンバーのまま全クリするタイプ?」


「え?あ。ああ。そうですね。大体そうですね」


思い入れや愛着のあるキャラクターを使い続けるのが、とっても楽しみ。って。


「地獄なのにゲームとか知ってんですか…」


「うちWi-Fi通ってるから。地獄王には内緒でね」


「マジかよ…」


じゃあ地球の地上に連絡出来るじゃないか。


「いや。冗談だよ…?」


「…そうなんですか」


がっくし。


「ただ、ゲームは出来る環境にはいるからね。同じ技でずーっとやってて、新しい技出ても試さない感じ?」


「そういうこともありますね…」


「マジかよ…。だめ。だめだめだよ。試さないと。どんどこ」


「えーっと。機会がありましたら…」


空間どころか次元をぶち抜いて修復不可能で地獄どころか世界崩壊すら起こしかねないような事態になりかねない。


「そう?簡単なのになー」


「そうなんですか?」


「便利だし、天界に行くんでしょ?天使大変だよ?何万何十万といるような大軍を真っ向勝負できる戦力があるなら別だけど」


「数はあんまり関係が無いですから」


にしても結構親身になってくれてるな。もっとドライで尊厳重視でやたら形式ばったやり方が多いんじゃないかって思ってたけど。


「意味わかんない。それ。言っとくけど、マジで最強って思ってても、十万の天使が一億年祈り続けた結界なんて、破壊出来ないからね?」


「ちょっとやってみないことにはなんとも言えないですね…」


根拠の無い自信が僕の心から溢れてる。ワンパンさ。だって最強だもん。そんな適当な、いかにも頭が悪い脳筋キャラのようなノリで返答してしまってる。十万の天使が一億年祈り続けて作った結界?冷静になってちゃんとよく考えてみると、結構堅いかもしれない。


「でも、確かにそんな結界は壊せないですね。そんな大切な想いの象徴、ワンパンで壊れちゃったら、それってすっごく切ないですもんね…」


誰かの大切な想いは壊れて欲しくないって正直願ってる自分がいた。あんまり、相手の事考えたくは無いんだ。だってそういう事知っちゃうと、実戦中、どうしたって壊せないよ。本当にね。

「私なんでマッキーにそこまで入れあげてたんでしょうかぁ…」


恋の熱から醒めたヴィクトリア。賢者モード突入。

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