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第八十話 地獄の住人

身長が40メートルだろうか50メートルだろうか。巨人のような高い身長に、頭だけはそれぞれが動物の頭にすげかわっている。牛や馬、豚といった一目でわかる動物もいれば、よくわからない動物や近現代では見られないような動物の頭を持つヒト達。彼らの、全てが大きすぎる街へと足を運んだ。不思議な事に、誰も喋れない。無言で貨幣制度があるらしく、何かと交換している。巨人の街。


「…」


遠くでそれらを確認した。目を凝らせば視力が望遠鏡のようになる。視力も強くなってるし、やろうと思えば聴力だって強化できるだろう。そういえば、ミルフィーさんが以前レベルが上がると聴力も上がると言ってたっけ。あの街に僕達が入ることは無い。彼らは彼らなりの日常があり、生活があるのだ。物見遊山で立ち入るべきじゃない。確かに彼らの纏う魔力には生命力が付与されてあり、オーラみたいなものも見える。だけど、地球からやってきた人間に対して、どういう反応があるか分からない。戦うかもしれないなら、近寄るなんて愚かなことだ。


「ぐぎぎい」


相変わらずビッキーは熟睡してる。あの街、中世の街並みのようだ。Realの初期村みたいだ。領主みたいな人に会えば、王様の居る地域への門もあるって言われてたので話が早いと思うんだけど。簡単に見たとこ、それっぽいのは無い。荒れ果てた灰色の大地に突然街が出現したような、不思議な場所だ。どういう想いで、どういう生活をしてるのだろうか。どういう未来を期待して、どういう風に生きてるんだろう。


「…」


ビッキーが寝入ってもう6時間は経過してる。ガソリンもそろそろ、トランクに入ってた予備から給油した方がいいかもしれない。ここじゃ時間の感覚もあやふやだ。太陽も月も、夜も無い世界。これを望んで世界を創ったっていうんなら、かなり意地が悪いだろう。もっと緑や光輝くものを。そう思ったけど、ここは地獄であって、地獄のようになってなきゃいけないんだから、それもそうかと腑に落ちる。でも。地獄か。


「…」


時折流れる流れ星のようなものが落ちてく。もちろん星じゃない。誰かの魂だろうか。悪い事をした魂が落下してゆくのだろうか。誰が善悪を決めるのだろうか。自分だろうか?だとしたら、善悪の判断ができない精神鑑定が必要な脳髄に欠陥を持つ人間はどうなるんだろうか。そうじゃなくっても、自分が悪くないって考えてる人間は地獄に落ちなくて、自分は悪いと善悪の判断がつくマトモな人間だけが落下するんだろうか。良くある不倫や不貞だって、国によっては一夫多妻だったり、その逆だったりもする。僕と同じように殺人にもすべき殺人と許されざる殺人もある。誰かが裁いてくれるんだろうか。誰かが、ちゃんとその生きてる人生を見守ってくれてるんだろうか。宗教は人それぞれだ。邪悪な宗教だってある。素敵な宗教だってある。考え方も違う。殺されるべき人間が死んで、死すべき人間が殺される現代の世の中じゃないと思う。道端で歩いてる高校生のカップルなんて、とても罪深いと思うけど、多くの人間は微笑ましく感じるのかもしれない。逆にヴァミリオンドラゴンを引き当てた僕もまた、殺されるべきだと考える人間もいるだろう。どういう立場を取っているかが、人生はそれで決定される。誰の味方か。誰の敵になりえるのか。家族か、妻か、友人か、自分か、大切なものか。


「どういう風に生まれたんだろうか」


とても祝福されてこの世に生まれてきたモノは、地獄に落ちるためなんかじゃないはずなのに。何かがきっかけで地獄なんて場所が出来て、王様が君臨しているのだ。地獄なんて場所ですら、王様という大切なモノは必要なんだって思う。王様が地獄を必要としてるか、地獄が王様を必要してるか、僕にはまだ判断がついてないけど、必要だから発生したものなんだろう。


「さてと。ひと眠り…」


するか。ちょっとだけ。ちょっと…。


「…」


窓ガラスをノックする音が聞こえた。


「…」


誰かの足が見えた。変わらず、地獄。


「はい」


車から降りると、二人のヒトが立っているのが見えた。ヒョウの頭とゾウの頭のヒトだ。


「君ずっとここにいるけど、なんでここにいるの?」


テレパシーで頭に響く。それがデフォルトなら話が早い。


「ちょっと休憩です。路上駐車って駄目でした?」


「ダメだよ。停止することは許されてないから。君生身?」


「地球から来ました。多分生身ですね。地獄の王様に会いに来たんですよ」


「そうなんだ。すぐに動かせる?」


「はい」


「なら出して」


言われたまま車を出した。車に備わってる時計を見て驚いた。もう11時間も経過してる。


「ぐがああぎぎ」


ビッキーは相変わらず熟睡してるし。確かに、目もぱっちりして、なんだか爽やかな感じもして、ちゃんと久々に眠ったって感じがする。


「普通だったな」


地獄の住人って、なんか普通だ。あの二人も、普通の警察みたいな感じだったし。魔力を放った特異点まで、あと少し。もう一時間で到着するだろうか。もう二時間かかるだろうか。100キロだから、100キロか200キロか。


「…」


質問をするべきだったか。それとも。僕はただの通りすがり。それだけでいいかもしれない。それ以上でもそれ以下でもない。関われば、きっと口を出したくなるし、手も出したくなる。知らぬが仏で丸くなることだってあるし、僕には優先される目的がある。罪深い事のように感じる荒事だ。決めた。一撃で終らせよう。それがいい。荒野の、更に先へ先へと進もう。心の奥底から、心の灯が燃え盛るのを強く感じる。車を走らせ、進む度に、それは強くなってゆく。心の準備は、そろそろ良さそうだ。ビッキーも、たっぷり寝たら、ぱっちり目も開く。そうすれば、大丈夫。心の準備もばっちりだろう。

ビッキーの寝息が止まって、歯ぎしりもしなくなった。そろそろ起床のお時間だ。

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