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第七十五話 堕とされたモノ達

ビッキーとコントっぽいものをやって気付いた事がある。僕とビッキーとの間に決定的な溝があるということ。それは結婚生活。幸せな人生設計の上での日々の生活。ビッキーの望みの幸せと、僕の望みは違ってる。僕はどこまでいっても庶民を地でいっていって、ビッキーはどこまでも貴族のように人生を進む。その生活は僕には耐え難いものがあった。なんとか耐えても、いつは壊れる。そうなった時、僕が堕落した時、何が起こるか想像するだけでも恐怖を感じる。自殺してしまうんだろうかって思う。嫌な事をずっと続ける人生が待ってる。目の前にぽっかりと開いた落とし穴がもし見えたら、間違いなく避けるだろう。それに好き好んで飛び込んでみるタイプは結局のところ不幸になっていく。


「だから、この能力なんだって思うんです。相手を自分の望むままに変貌させられば、不幸は誰も感じない。幸せの絶頂でいられる。マッキーは結構………耐性がついてるようですけどね」


「そうかもね。ビッキーにもちゃんとノーが言えてる」


「どうしますか?続けますか?殺し合いますか?私はどれでもいい。結果も問わない。ただ。一つ言えるのは、私は家事をやらない。したくない。マッキーの幸福には添えない。私は一般庶民ではない」


車を挟んで、僕達は対峙する。誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということ。何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。


「マッキーの、想像通りの幸福を掴み取るためには、代償が伴わなければらない。それは、魂の穢れ。純白で真っすぐに進む貴方が、初めて自分勝手の都合で殺害するという代償。それを支払って、初めて貴方は幸福が手に入る。…やりたかったんですよね。幸せ。これまでずっとそのために生きてきた。それを、そのための生涯だった。邪魔者は、排除するしかない」


「…」


「いろいろ考えましたけど、私はやっぱり真っすぐに目を見るのがいい。目をそらさないで、首に手をかけてください」


そうか。そういうこと。ずっとそうだった。


「多分、ビッキーを今殺すと、ずっと後悔すると思う。そうしないとって思ってても、ずっと僕の人生にずっと影を落としてく。それは少しずつ広がっていって、やがてに狂気に至るだろうって思えるぐらい。でも、もう。決めないと」


「それが大人になるってことですから」


「そういうことかもしれない」


僕はビッキーの傍に近寄って、透き通るような白く細長い首に手をかけた。


「本当にこれしかないのか」


男女が決して近寄ってはいけないソーシャルディスタンスをぶっ潰す距離。足元を伸ばせばキス出来そうな距離で、そう言った。


「私の気分次第で、混沌の渦で巻き込めますよ。マッキーの生活なんて。だから、最後のお願いいいですか」


「うん」


「キス」


よごれるという感じる瞬間。けがれを意識する時。貞操であったり、自分のルールや誓いを破った時だったり、誰かを殺してしまったり。今僕は、よごれているのだろう。これが、大人になるってことなのか。これが、人生なんだろう。そして人間なんだって思う。


「…」


冥途の手向け。目をつぶった。ファーストキスぐらいなら。目を瞑った。ヴィクトリア・ローゼスという女の子を自分の意志で、殺す決意が固まった。彼女かそれ以外なら、それで済むなら。僕は業を背負おう事にする。


「…あ」


やろうって思った瞬間だった。間の抜けた声が聞こえたので目を開ける。


「あ」


僕もまた、間の抜けた声がお腹から出た。空に、大空に文字が浮かんでた。そして。空が輝いて僕達を包み込んだ。


「…」


目を開けると、そこは見たことも無い風景が広がっていた。


「…」





永遠の曇りの日が続き、時折酸性雨と稲妻が走る。灰色の植物しか育たず、寿命という概念が無い生物達が、規則を守って永遠に同じ日々を繰り返す。




地獄  ダンジョンレベル333~999 人工世界 エキスパートエリア


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