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第七十一話 車内デートの若人達

車で地上を出た。その速度はもう350キロを超えてメーターを振り切ってる。そのままの勢いで車道をぶっちぎって大空へとダイヴ。30メートルは浮いてるんじゃないかってぐらい。このままの速度でガードレールに衝突しそうだ。広い県道の野原が広がる夏の蒸し暑い、田舎特有の匂いが鼻につく。涙が出そうなくらい、ずっと好きだったんだなって思える。隣を見た。ツキコモリさんの目が見開いて鼻の穴も開いておまけに口元も半分開いてる。笑ってるし楽しんでるし、面白いんだと思う。時刻は昼ぐらいだろうか。幸いな事に他に車は走ってない。人っ子一人いないどこまでも田舎なのが幸いだ。


「…あれ?」


そういやお腹減ってるような。脳から不思議な汁が出てる。時間の感覚がおかしい。車が宙に浮いてる。時速350キロをぶっちぎって、坂道の登りのまま一気に飛び出したせいだと思う。両親のふざけた顔が浮かんだ。僕を好きだって言ってくれた大胆な子の顔が浮かんだ。ユーチューブで今度生放送しようと思う。どうでもいい。誰でも関係ない。今度生放送して世界的にヴァミリオンドラゴンも一緒に撮影だ。世界初の地球一周の記録を塗り替えてやる。マッハ4だかマッハ5だとか、ヴァミリオンドラゴンはできるだろうか。正直に言ってここに来て半分とさらにその半分、異性の事を考える。女の子と男の子が分かれた。太古の時代は雄雌なんて無かったのに、どうしてわざわざそんな手間取るようなことをしたのだろうか。それであぶれてる男は一生童貞のまま過ごすヤツだっているっていうのに。ご先祖様はそこらへんには厳しいのか。それとも、ちゃんと努力して頑張れってことなのだろうか。そもそも男子校のヤツなんて。大体女子高とかもあるじゃないか。社会に出たら出会いがあるのか?ヴァレンタインデーなんてくそったれだ。好きとか嫌いとか肉体関係とか、お前らマジでいい加減にしろ。


「これって―――走馬灯じゃん」


好きな子と、なんでこんなハメに陥ってるんだ。悪いの誰だ?責任者を問いただす必要がある。一体どこのどいつなんだ?分かってるのか?いや、分かってるさ。大体一番僕のせいさ。生きてる限り、他の何かに原因を求めてどうしようもない。自分で行動を起こさないと。起こした結果がこの様なのだ。でも。死にたくないなぁ。


「昇天」


目の前に、虹が架かった。虹に車がすっぽり乗って、そのままの速度で突っ走ってる。虹を走ってる。虹って現象じゃなかったっけ?目の錯覚じゃなかったけ?物質じゃなかったっけ?


「このまま行こう」


「…」


ひ。ひえぇえぇぇぇ。田舎の山々の連なりをぶっちぎる。どこまでも広がるのどかな田んぼも、鳥の群れも、集落も、あっという間に過ぎ去ってく。BGMがハイウェイスターからバーンに変わった。どうやらディープパープルリミックスらしい。


「結婚する時は男からだって」


「そうなんだ」


は。はわ。はわわ。はわわわわわわ。無理むりのカタツムリ。乗り物酔いがきつくなってきた。


「ケジメつけた後、大体終わったら、映画行くって約束、まだ覚えてる?」


脳みそだけは一応なんとか動いてる。


「うん」


「最悪家でDVDコースでいいかな」


「家に呼ぶんだ」


やべー事を口走ってる。やっちまった感がある。その場のノリと勢いでとんでもないことを言ってしまった。


「そういうの止めたほうがいいよ」


「そ、そうだよね!ごめんごめん!」


虹の彼方で、僕達は何を話してるんだろうか。こんな空で、本当にくだらない、この上ないことを喋ってる。ずっとこういうのが続くといいなって思う。


「マッキー自宅に女の子呼ぶの初めて?」


「いや。初めてじゃないけど。その、友達とかさ」


「そう」


「勝手に上がり込んでくる連中とかいてさ!デートとか、したことないから。言っとくけど」


「そう」


速度にも段々と慣れてきた。僕達はどこへ向かって走ってるんだろうか。何のために生きてるんだろうか。今感じてることが、ずっと続いてくんだろうか。わからないまま死んでくんだとしても、せめて納得はしておきたい。結婚したり、子供が出来たり、孫が出来ると、納得できる人生の死を迎え入れる事ができるんだろうか。この一瞬のまま、ずっとこうやって生きてくのは、どうやら耐えられそうにない。一人じゃ怖過ぎる。


「結婚前提に、付き合って欲しいかも。全てが終わったらさ」


吊り橋効果ってヤツがある。多分それだと思う。正気じゃなかったらこんなこと言わないんじゃないかって。言ってる本人が良く分かってないんだから、まだ頭はどこか酩酊しててラりってて、脳みその芯の部分が麻痺して、こんな状況で暴走してるのかもしれない。


「うん」


うん?それから??それから???それから????


「…」


十分待った。その間に太平洋をぶっちぎってる。速度もヤバイし、心臓も慣れてきた。心はぶっ壊れそうな一歩手前。それから。それから?


「魚、何が好き?」


「銀鮭かな。ノルウェーサーモンじゃないやつ。青森県産とか」


反射的に答えてしまった。魚?魚??フィッシュ?ここにきてフィッシュ??うんの後にお願いしますとか、宜しくとか、そういうのないの!?うんって、とりあえず発言を受領しましたってこと?うんってとりあえず聞いておきましたのうんってこと??


「毎朝作ってあげるよ、銀鮭の焼き魚」


ま。ま。おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。


「おおおお。おおお。おおお。お。おお。お、おう…」


わけのわからない声がお腹の中から聞こえてきた。ハッピーの絶頂で、どうにかなってしまいそうだ。もう一生分の射精感を味わってる気分がする。アンラッキーなんてどこかに置いてきた。ずっと幸福しか見えない道程でずっとハッピーのまま。フォーエヴァー…。おいおい冗談だよ。なんて振りは無し。


「お茶漬けでも…いいさ」


「鯛が好き」


「いいね」


「めでたい」


「めでたい」


ハモってるし、やっぱしぴったり。ぴったしなんだ。どこまでも突っ走っていけそうだし、ずっとこうなってくんだって分かってる。


「スゴイ魔力を感じる。衝突してる。この車は少し遅いね。ドラゴン変化でマッハを超えるよ」


「すごい」


翼を生やして、それから頑張ってドラゴンに。虹色の巨体でガッチリとスポーツカーを掴むと、そのまま超速でぶっ飛んでく。いつの間にか僕は、速度も何かもいろいろと、置き去りにしてしまったらしい。

「ハァハァ…」


ヴィクトリアの後ろには、翼を生えた翼人が300を超えて群れている。


「軍事用のクローン軍団。もちろん、レベルは60ぐらい。どうですかぁ?最高じゃないですかぁ?数の暴力ってヤツわァ…??」


大空の支配者の持つ最大の戦力は、軍事力。そして。弱点を鋭く見抜く力。


「童貞や処女は殺されない…。でしたよねぇ?今もまだ声無き叫びが聞こえてますかあ??」

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