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第六十七話 八月頭の狂想曲の演者

ビルの改修工事と称して議事堂の周囲を防音テントで覆い隠した。戦争を司るベクトルのパワーの集合体を閉じ込めた特別な檻と称する部屋は丁寧に扱われ、運ばれる。核兵器を輸送するかの如くの最重要指令で軍は動き、滞りなく最寄りの軍事基地に移送され、そこからダミー含むヘリ七機の大出動。最大出力で太平洋、ハワイ州へ向けられ飛び立つ。問題が発覚したのはミッション完遂後、帰投したパイロットが未知の魔力に覆われている状態からであった。箱が太平洋某所に設置され、自動で開閉する二時間前のことだった。仕掛けたジョンが気付いて90分前。あらゆる想定を凌駕する非常事態に直面した。何故。どうして。ありえない。理解不能の状態が発生する中、究明に奔走するも、遂には祈ってしまう状況にまで陥った。


「神よ…」

Realからログアウトしてラフィアさんの連絡があるまで待機モード。相変わらず洞窟はせわしく防護服を着た一団が調査してるし、やっぱり僕は軟禁状態。人に会うの禁止モードである。代わりにプレステを持ってきたり、DVDプレイヤーを持ってこられたりした。ちなみに中に一枚のDVDが入ってたけどこれはアウトなヤツだった。無難なAVで八時間たっぷり詰まったナンパもの。どこまでも現実を地でいく夢も希望もないような内容である。


「こういうのじゃなくてジブリなんだよなぁ。こういう夏休み直前って。金曜の九時とか見れなかったヤツで」


とかぶつぶつ言ってると、内線が鳴った。


「はい」


「マッキー。今大丈夫?」


「大丈夫だよ」


声はイケメン。超イケメン。ブラピ風イケメン。いわゆるイケボ。自分でそう思ってるぐらい自由じゃないかってぐらい頑張る。


「何か必要なものある?」


そんな事を言われた。ラブアンドピース。今の君で大丈夫さ。そんなキザったらしい台詞が喉元から出かかる辺り、今の僕は相当に調子に乗ってる感じかもしれない。


「ないよ。ありがと」


「何かあったら言って。届けるから」


「気持ちだけで嬉しいよ。ほんとありがと」


「なんでも言ってね。届けるから」


「ありがと。別に何かしてもらいたい事もないんだ」


声が聴けるだけで、それだけで。男はもう、十二分っていうものなのです。あれ?もしかしたら…。いや。ばかな。そんな。適当な口実を付けてツキコモリさんを僕の部屋に呼ぶなんて。そんな悪趣味というか卑怯というか、そんな事はできっこない。フェアじゃない。正々堂々じゃない。


「そうなんだ」


「そうだ。マッキーネットでニュース見てる?」


「見てないよ。何かあった?」


「東京の銀座でガス漏れだって。銀座の周囲一帯が非常事態宣言を出されてる」


「へぇ。そうなんだ。大丈夫?」


「大丈夫。死傷者は居ない。ただ。ビルの部屋を一つ一つ確認するぐらい大がかりな事をしてるみたい」


「そうなんだ。大変だね」


「多分、私達にも関係してくるかもしれない」


「どういうこと?」


「銀座で戦うマッキーを夢で見た」


僕の事を夢で。うっそ。マジか。鼻息が荒くなる。胸が熱くなる。嬉しい。マジで嬉しい。生きてて良かった。お爺ちゃんお婆ちゃんお父さんお母さん。末樹。やりました!


「そ、そうなんだ。ふーん。へぇ。そう」


「だから、ひょっとすると、何かが起こるのかもしれない」


「大丈夫。ワンパン太郎とは僕の事だから」


「あと」


「はい」


「偉大なるギルドのトワイライトが、全滅したって」


「え?そ、そうなんだ」


「ヒリヤ同盟ってプレイヤーキラーギルドとエクスターミネーションってとこと手を組んで潰したんだって」


「ミルフィーとか大丈夫?」


「ミルフィー退職金も振り込まれたみたいでほくほくしてたよ」


「そうなんだ」


あの間延びしたもちもちぽんぽんぽん野郎が、いまになってはひどく懐かしく感じてしまう。


「これから勢力図も大きく変わってくるみたいだから。慎重にならないと」


「そうだね」


「それじゃ」


「うん。また」


そうやって通話が途切れた。今度は早くに切れた。もう八月一日が始まって、夏休みになっている。あれからいろいろあったけど、頑張るのはこれからだ。


「よーっし」


とりあえず、テーブルに置かれたたけのこの里三つと冷凍庫にしまってあるハーゲンダッツ季節限定セレクションミニカップ六個入りのやつ2ボックスを丸ごと平らげてやろう。男には、やるべき時が来るときがある。今はその時だと思う。その後、また豪華絢爛な夕食を食べて、ハッピー絶頂でお布団へ。


「…」


ラフィアさんの事が気にかかるけど、多分大丈夫だろう。想定外のアクシデントなんて、そうそう起こらないものなんだし。

ヴィクトリア・ローズは難なくその箱を空けると、出てきた吹き溜まりベクトルの結晶、強大なるエネルギーを自身の魔力で覆いこんだ。予見によってソレが何であるかを理解すると、愛用していた人形ドールにソレを注ぎ込む。そうして動き出したソレはつぶらな瞳でヴィクトリアを見る。命令が欲しそうに見えたヴィクトリアは進行を命じた。目標は、東雲末樹の住む日本。


「マッキー殺して私も死ぬ」


ヴィクトリアの目は、狂気を孕んでいた。

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