第六十八話 死合い前の人
言われることを言われたまま、そのままの流れでラフィアさんは席を立った。僕も続く。ひょっこひょっこと歩きながら999号室を後にした。自室へと戻ると。
「あの、戦うのは僕ですよね?」
いろいろと言いたい事はあった。だけど、一番は先ずそれ。
「え?いや。私だけど?マッキーは待機。そのまま死んだことにしといて。奥の手は最後まで取っておく」
何言ってんだこの人。
「いや、そもそも。使徒だよ?人間じゃないんだ。黙示録の四騎士といったら、そこらへんのレベルとはわけが違う。それ一つでも人類滅亡レベルの脅威なんだ」
ラフィアさんが、どれだけ強いってんだ。
「たかだかレベル100未満にもならないで、それで現実のレベル500相手に立ち回れるはずないでしょ。僕がやりますよ」
「レジェンドルール知ってる?レベル100以上の生死は現実の死に直結する。だから90後半のいわゆるランカー達はレベル100を決して超えようとしない。それを分かった上で覚悟が足りないってんなら、アドバンスにいつまでも踏みとどまって、せこせことRealウォーカーな物見遊山やってるプレイヤーこそどうなのよって話」
ラフィアさんから反撃。確かにその通り。レジェンドルール。確かそういうのがあったって言われたような。
「レジェンドルールは知らないですけど、生き死にのバトルにラフィアさんを巻き込むことはできませんから」
「気持ちだけ取ってく。でも、局所だけならレベル1000を超える事だって出来るし。最悪ムゲンを人質にしとく。ペアならなんとかいけるでしょーし。最悪死ぬだけ。ここが出来ないようじゃ、話にならない」
「意義ありですよ。僕なら楽勝です。ワンパンで済みますから」
レベル500ぐらいなら。なんとかできる。がんばれる。500がどんくらいかわかんないけど。
「じゃあ、私の次にお願い。どの道暴れ出したらもう平和ではいられなくなっちゃうだろうし」
「自分勝手ですよ、それも。煽ってたし」
「いずれにせよ、ぶつかるなら早い段階の方がいい。ま、お相手さんも一人だけって訳じゃないでしょうけど」
そう言ってラフィアさんは端末を起動させた。ラフィアさんの端末は初期設定からいじってあって、ホログラムの画面が複数ラフィアさんの前に出ていて、両手を使って操作してる。
「こっちも古巣を頼る。知ってる?私ってけっこーブランド価値高いのよ」
「知ってる。プライベートジェット機のレンタル会社持ってるし」
「投機目的で油田とか世界遺産とかも買ったけど」
「どっからそんな資金出てくんですか…」
「Realでドゥルーガを複数持ってるから。税率も自在に決められるし。ランクAのアイテムとか時価でね。取引材料。呪いを浄化する液体や不死の泉といったモノって資産家はオークション形式でも限度を超えて張ってくる。そりゃそうよね。いくら資産があっても、死んだ後は使えないし。世界には
1京を超える資産家なんて珍しくない。ぱぱっとやって2京ゲットとかよくある話なのよ。ドラゴン持ってると特にね」
うわぁ。
「この世のゲームバランスをおもいっきり崩してないですかね…」
「私はマッキーみたいに繊細じゃない。図太く楽しくをモットーに生きる。孤独感けっこーあったけど、アンタ居てちょっと助かったし。…ここらでいいとこ見せとかなきゃ。…でしょ?」
「全部僕がやる。引き受ける。そういうつもりなんだけど」
「それは私の後ね。ドラゴンってファンタジーだと王道だけど。私のドラゴンは違う。びっくりするほど貪欲で、どこまでも喰らい尽くす。どんな攻撃でもモノでもね。あの子のああいうのちょっとどうかわかんないから例外として置いておくとして」
あの子ね。あの子か。あの子例外なんだ。
「それは僕も同意する。例外でいいよ」
「負けてたし。黒星取ってたし」
「なんとでも言えばいいさ」
一度でも負けたら最強とは名乗れないなんてルールは無い。何事にも例外はあるのだ。
「今から米軍の軍用機を全てチェックして目ぼしい場所に向かうつもり。始まったらそこそこ大きい音とかあるかもしれないし。ないかもしれないし。まー。私もワンパンで倒すっていうか、食べるつもりだから」
食べるつもり?食べるつもりってなんだ?
「意味がよく分からない。食べる?」
「そう。食べる。じゃ。今から用意するから。ログアウト。一応いつでも出れる番号を送っとく。それじゃ」
「ちょ…!」
そう言ってラフィアさんはログアウトしていった。
「ちょっと待てよぐらい言わせてよ…」
「ステーツ内部に異常な魔力検知有り、解析出来ません。人工知能による判定は黙示録の使徒との識別結果を提示されました」
「へぇ。Real中の報告はそれだけ?」
「関連項目としましては、ステーツハワイ州軍の動きが戦時並みに活性化。首都ワシントンから最重要機密事項が運搬されているとのことです」
「ふうん。未知の魔道兵器とか?視るから映像を出せ」
「映像、出ます」
「…へぇ。実に興味深い」