第六十五話 デートへ向かう着ぐるみ
現実でも同じ場所にいるんだし、わざわざRealで会ったりだとか、正直ばかばかしいって自分でも思う。それでもこのRealで会えるっていうのは、なんだか不思議で、初めて会った時の一目ぼれした瞬間を思い出す。あれからいろいろあったけど。本当にいろいろあったけど。
「お。デート?」
「…そんなとこかも」
なんてムゲンさんに一丁前に言っちゃう。ムゲンさん、カジノで暇つぶしするとか言ってたのに、結局ソファに寝っ転がって箱に入ったバニラアイスを直接スプーンで食べてるし。
「そっちはカジノじゃないの?」
「ここは初めてでさ。レート高いから熱くなっちゃうと財布の上限いっぱいまで勝負しそうで」
そういってだらだらしてる。ソファにゆったりと身を沈めて、半分寝ながらアイスを食べてる。それ絶対お母さんに怒られるやつだ。
「ギャンブルって遊びだから楽しいわけ。勝負になっちゃうと、遊ぶじゃないわけだから楽しくないんだ」
「大人だね」
「大人だからな。がんばってこーい。くまモン着るの手伝おうか?っつーか、くまモンでデートとかできなくないか?喋れないんだろ」
「ちょっと顔を合わせるだけです」
「今ツキコモリさんの家にいるわけだろ。現実で顔合わせしろよ」
「現実だと、ちょっと」
「聞いた感じだと、戦力になりそうなんだし、地獄への道連れで」
そう言ってクイーンのアナザーワンバイツァダストを口づさむ。和名が地獄への道連れの曲。直訳で誰かが埃を噛んでいるから、誰かが地面に倒れてるって意味で、死ぬとか床ペロって意訳になる。
「縁起悪いなぁ」
「分かるんだ」
「ああいうオンリーワンの世界観のバンドって好きなんだよ」
ムゲンさんは笑って気をつけろよと言ってくれる。室内にあるサブカードをポケットに入れると着ぐるみを着用してからまたひょこひょこ歩く。
「…」
エレベーターに乗ってエンタシス一階へ行く。そういえば、一層へ行くにはどうすればいいんだろうか。受付の人に筆談で相談する。
「一階へ行くにはどうすればいいの?」
と書くと。
「エンタシスの10階に無料のミニヘリがあるのでご利用ください」
と書いて答えてくれた。頭を下げて再びエレベーターに乗り込んで10を打ち込むと屋上みたいにヘリポートが有り、三台のミニヘリが待機してる。早速乗り込んで。
「今日のイベント会場まで。わくわくなんとかの」
筆談すると。
「カシコマリマシタ」
機械音が了承してくれて、そのまま浮上し一気に一層へと降りてく。変な怖さを感じるが、気にしない。乗り物酔いが少しだけ。人だかりのするイベント会場付近のビル屋上に着陸する。
「ありがとう」
と書いてそのままダッシュ。
「オムカエがヒツヨウなトキハタンマツでオネガイシマス」
屋上のドアを開けてエレベーターのボタンを押す。ホテルの建物みたいで、リッチな匂いがエレベーターの中に充満するのを感じながら、一階へ降りてロビーを早歩き。
「…」
花火が打ちあがってる。派手な衣装のダンサーがステージで踊ってる。イケイケなパーティピーポーで会場は埋め尽くされてる。
「…」
もう夜。立ち尽くしていると、肩を叩かれた。振り向くとツキコモリさんが居た。
「くまモン」
僕は頷いた。九州県産熊本生まれの100%くまモンになった気がした。
「あら、マッキーは?」
「デート」
「そうなんだ。そろそろ暴力が必要だから呼び出さなきゃ」