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第六十四話 恋の通話相手

フリースペースとトロピカル調で書かれたプレートの部屋に入り、先ず鍵を掛ける。これで防音はオーケー。ここでの通話はこの部屋でも聞かれないし、どんなことされたって盗聴不可。超能力とかズルとかでも不可。


「念のため」


ムゲンさんにも聞かれたくないのでロールシャッタ―を下ろして、これで唇から言った事を理解する読唇術も不可にさせる。シャーロックホームズもこれで不可。


「…」


ツキコモリさんへの連絡。端末でログイン状況を確認したところ、間違いなく接続してる。よって連絡は通知される。変な緊張が体に走る。ハッキリと自分で老後までの意識を通しでやってしまったからだろう。無難に近況報告に留める。これが絶対条件。変な事を言わない。


「…一応の念のため」


ショートメッセージを送っておく。これから通話してもいいかな?一応死んだ扱いにしてるから、僕の名前は口に出さないようにお願いしますと打つ。そして送信。


「…」


フリースペースは談話室のような感じだ。背の低いガラステーブルを四方でゆったりとしたソファが囲んでる。テーブルの上にはフルーツの盛り合わせが置かれてたり、タバコの吸い殻入れっぽいのも置かれてる。バナナを一つちぎってほおばる。


「うまっ!」


香り高いバナナの味がワサビのように鼻を通って体を抜ける。なんということでしょう。


「もう一ついけるなぁ」


そんなことをしてると、端末からぴこーんと間の抜けた音が聞こえた。一応端末の設定はいろいろあるらしいけど、初期のままにしてて、マナーモード設定にしてる。着メロとかもできるらしけど、なんかファンタジー感が薄れちゃうよね、現実っぽくなって。なんてどうでもいいことを考えて、心を落ち着かせて端末を開く。


「…」


わかった。いつでもかけていいからと届いてる。


「…」


指先が震える。端末に触れる指先が定まらない。


「…」


静かに、気合を入れる。心を、燃やせ。


「…もしもし」


「もしもし」


マジか。話してる。久しぶりに。


「今一人?」


「そう」


「なら良かった」


「うん」


「こっちの近況だけ伝えるから」


「わかった」


「あの後」


僕が強制的にイースターヴェルからテレポートした後の事。


「ラフィアさんと少し戦って、更にその後にムゲンさんて人と闘って、そこは絶海の孤島だったんだけど、なんか二人と意気投合しちゃってさ」


「うん」


途中何かあった気がするけど忘れた。オモイダセナイ。


「セカイを救うためのギルドをラフィアさんが立ち上げることになって、僕もそれに入ってさ」


「うん」


「今はニューベニスって場所で、大きなギルドマスターと話をしてるところ」


「こっちもそこだよ」


「…え?」


マジかよ。うっそ。まさかのディスティニー。


「会って話せる?」


「会える?」


被った。それがすっごく嬉しく心が躍った。


「えーっと、こっちはエンタシスって塔のホテルに居る。居るけど、どうかな」


ツキコモリさんがマークされてる可能性とか、無いか?まさか。


「ミルフィーさんもまだ一緒?」


「一緒。一緒に追放された」


「マジか…」


そっちがどうなってるのか知りたいけど、あんまりツキコモリさんとは通話で話せない。


「つけられてる?」


一応言ってみる。


「そう」


マジかよ。


「そうなんだ」


「複数」


「うっわ」


話が大きくなってきてる。下手うちゃ死ぬってのは覚悟してるけど、ツキコモリさんまで巻き込みたくない。


「ここでさ」


「まだ一緒に絶景の旅は終わってないから」


「いや」


「今度は私の番」


「えっとさ」


「逆の立場ならって考えて」


僕の気持ちが読めるのか?そういえば、ツキコモリさんは予知が出来る。数秒先の未来が分かる。僕が何を言おうとしてるのか分かった上で、言わせないようにしてる。


「…」


逆の立場ならって。そんな事、考えたくないし。


「合流するから」


「…」


「するから」


強い意志を感じる。なんていうか、言い出したら聞かない人オーラがひしひしに伝わるレベル。だから僕も。


「ありがと」


「どこ?」


「エンタシスだけど…」


ここは第三層だ。普通じゃ到達できない。招待制っぽいし。僕が迎えに行くべきだ。嬉しい反面、とてつもなく後悔しそうな事をしてる。でも、それに抗うほどまで、僕は非情にはなりきれない。僕は命を懸けた。あのダンジョンも、そういう覚悟で踏破した。それを踏まえて、そう言ってくれるツキコモリさんの気持ちが、分かってしまって。


「一時間後、イベント会場で落ち合おう。今三層だけど、一層へ向かうから。端末からニューベニスで確認できる。わくわく台血戦とか言うギャンブルのイベントがあるから。そこで僕はくまモンの着ぐるみを着てるから一目で分かるはず」


「わかった」


「それじゃ…」


「うん」


「…」


「…」


一分過ぎても切ってくれない。


「あの、切っていいからさ!」


「わかった」


そして通話が切れた。


「…」


生きるテンションが跳ね上がった。やる気が出てきた。今僕はようやく人生の支配権を奪い返した気になった。僕の人生はただ操縦席に座ってるだけ。操縦桿を握って飛行機を操作しようともしなかった。だけど、今は違う。絶対に、幸せにしてみせるし。最悪な事は起こさせない。そのための最強。


「…」


多分だけど、ひょっとして、もしかすると、可能性が無いわけでもないんだけど、相思相愛かもしれない。


「…」


僕のターンが、来た。


「思い人ですかぁ?」


「そんなところ」


「応援しちゃいますよぉ!」

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