第六十三話 まったりしたいペア
出来れのどうでもいい聞きたくも無い結婚式のスピーチを聞いて、ベストマンの司会を耳から流してると、ようやくパーティも終わりへの運びとなる。
「私は各ギルドマスターにアポ取ってるから。私達のホテルは柱の建物エンタシス。これがカード」
そう言って真っ赤なドレスを着た有名人は行ってしまった。一人でいいのだろうか。こういう時、ノリだったらみんなで会ったりするものだろうし。一応僕は死んでる扱いなんだろうけど。
「こっちはカジノで遊んでくけど、マネージャーも来るか?」
僕は首を振った。人生が破滅する三つの三大要素。これを避ければ人生の勝率がアップする。一つは女性関係。二つ目はお酒。三つ目はギャンブル。
「そうか。じゃあヒマだろうしこれで行ったらどーだ?」
そう言って端末からイベント表を見せてくれる。わくわくパチンコ台血戦と書かれていた。当然僕は首を振る。
「それなら一足早くホテルに戻って、現実に都合のつく友達にいろいろ近況報告したらどーだ?」
「…」
頷いた。確かここは公的エリア。連絡不可能のエリアではないのだ。話せたら嬉しいかも。
「とりあえず、ホテルに行ってゆっくりするか。第三層のエリアってのは張る金額が憶とか兆とかだってよ。やべーよな」
そう言って談笑しながらホテルへと戻ってく。憶とか兆とか笑えない金額過ぎる。もちろん僕は頷いたり首を振ったりするだけ。だだっ広い公道をリムジンで走って、車から降りるとカーペットに沿って歩く。エンタシスの一階は大きな吹き抜けになっていて、奥に白い服を着た受付の女性。
「ハートネット・ラフィアの連れだ。予約は取れてる?」
「三名様のお部屋がご用意されてますが、必要でしたらおひとり様の部屋もご用意出来ますので何かありましたらコンシェルジュにご相談されてください」
「コンシェルジュついてるのか。無しで。あと、部屋のクリーンサービスもベルサービスも無しで。三人部屋って広いの?」
「かしこまりました。スイートになりますので、一軒家ぐらいの広さですね。ご要望はなんでも承ります」
「そうなんだ。ならいーか。中での防音は完璧?」
「はい。Realシステム上の設計であらゆる想定の上で盗聴は不可能となっております」
「へぇ。ならいいな」
僕の方をちらりと向く。僕も頷く。流石に着ぐるみモードも連日だとキツイ。本当にくまモンになってしまう可能性がある。
「他のプレイヤーとのコンタクトが必要なんだけど、連絡カードとかある?」
「お部屋のフリースペースにご用意されてます。そちらのお部屋も鍵を閉めれば室内の防音はあらゆる想定から保障されております」
「へー。サービスいいじゃん」
「ありがとうございます」
「…」
ムゲンさんは少し考えてから言った。
「ここって柱の先はどうなってんだ?」
「分からないです。フロアの管理者お呼びしましょうか?」
「そいつってNPC?」
「いえ、その質問は定義が曖昧ですので受け答え出来かねます」
ムゲンさんは鼻を鳴らした。そしてにやっと笑った。
「なるほど。あなたは雇われているプレイヤー?」
「いえ、違います。Realのシステム上のアバターになります」
「へぇ。面白いじゃん。要は人工知能とかそういう感じか」
「人工知能とは異なります。私はシステムの末端の端末に過ぎません」
「なるほど。そうか。好きな食べ物とかある?」
「お客様。プライベートなご質問は受けかねます」
「ふーん。ここらへんから、少し、NPCのキャラが変わってくるのか。ここはマジで他サーバーへの移動も出来そうだな」
ムゲンさんは僕を見てにやっと笑った。一見すると従業員に絡んでるみたいだけど、いろいろ検証してたのか。でも、スタッフに向かって好きな食べ物ってのは無いね。
「…」
「その質問にも受け答えできかねます」
「ふうん。ありがとう」
僕達はそのまま巨大な吹き抜けの一階に四方の四か所あるエレベーターに乗った。
「へぇ。これってカードキーを刺した後にフロア番号を打ち込むタイプなんだ。泥酔した時やばそーだな」
僕は首を振った。これじゃこの場所が何階まであるのかが分からない。
「ま。とりあえず。マネージャーさんも着ぐるみ脱いで一っ風呂浴びたいだろ?」
大きくぶんぶん頷いた。
「ぉ!」
エレベーターが開くと、そこはもう、部屋の中だった。トロピカルな南国調のインテリアで飾られてる。巨大な窓からはニューベニスを一望出来て、大海原も見える。
「最高かよ!」
僕達がエレベーターから出ると扉が閉まる。背の低いガラステーブルの上にはバイキング風のちょっとした小料理と氷の入った桶にお酒も置いてある。
「サービスいーじゃん。マッキーも脱げよ」
「…」
脱ごうとしたけど、脱げない。
「…」
自力じゃこれって脱げないと気付くと本格的に怖くなってきた。
「脱がして…ファスナー背中にあるから」
「マジで本格的なヤツだな」
そう言ってファスナーを下げてもらってなんとかくまモンの着ぐるみから一時的に解放される。
「はぁ…」
「裸かよ。クローゼット行けよクローゼット!なんかあるだろ」
久しぶりに外気に触れる。なんか、自分が人間なんだという感覚が戻ってきた。
「…」
「喋れよ!」
僕が黙ってバスルームっぽいところを探しに歩いてくとそう言われた。
「なんかずっと着ぐるみだったから、あんまり喋れないんだよね」
「あー。あるある。こっちもバイトでずっと着ぐるみ着てプラカード持ってたけど、マジでぐったりだったからな。夏場じゃなくてまだいい方だぞ。汗の量が違うから」
「そうだね。割と快適に過ごせてたかも」
大きく伸び。大きく深呼吸。
「で。シャワー浴びてツキコモリさんに連絡取れよ。ずっと喋れてなかったんだろ?」
「え。あ。そうだね」
「なんだそれ。ほら!」
ムゲンさんは冷えたワインを手に取って僕に投げて寄越した。
「えー」
「勢いが大事だろ?マッキーみたいなヤツにはさ」
「そーゆー時に、酒の力なんて借りるような大人は嫌だよ」
「おー。言うじゃん!」
大いなる冷やかしを受けながら、浴室を見つけてシャワーを浴びる。ツキコモリさんに何て言えばいいんだろうか。地獄まで付き合ってくれるかなんては言えないし。この旅だって、命懸けになる。どう転ぼうが、おそらく生き死にのマジバトルパートにはなっちゃうし、そんなこと絶対にツキコモリさんにはさせたくない。
「軽い近況報告でいっか…」
そんな事を考えながら、熱いシャワーを浴びる。なんて言おうかで更に悩む。
「うおおおおおおおおお」
シャワーを浴びながら叫んでしまう。気合を入れろ、セカイを救え。根性出せ。
「どうしたマッキー!?」
ムゲンさんが飛び込んできた。
「なんでもないですよ!!」
「あ。わりぃ…」
そう言ってそそくさと去ってく。裸を見られた。シャワールームは防音じゃないらしい。
「ぅぅうう…」
変な涙が出てきた。
「エンタシスはReal史上最高の建物とされており、あらゆる憶測が飛び交ってる正に謎の建築物なのです!右をご覧くださいませ!アラビアの王子、いや王にもうなられましたね。立派な船ですね~!」
「うん。絶景」