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第六十二話 祭りの前のパーティ

遠くで水平線が見えた。どこまでも高く飛ぶミニヘリから下を覗き込むと海上街。ピラミッドみたいに三層構造になってるのが目視できる。大海原に浮かぶ絶海の孤島から、今乗ってるミニヘリのラベンダーの香りは非現実的過ぎるように感じる。二層を超えて、三層。三層目はお城やテーマパークみたいな場所すら見える。デズニ―ランドはもうこりごり。そして、三層目が見える高い位置に見えた時、初めて目視可能になる、円柱状の謎の建物。大空に一本どこまでも続いてる。


「イースターベルの王様が建設したやつのオリジナル」


「…」


「噂じゃ先にはレッドラインって話。他サーバーへ移行できるポートとか。別に腕っぷしが強いから最強ってわけでもなく、ただギャンブルがひたすら強いってだけでレベルの多寡関係無く、異世界への門戸が開かれてるかもってこと。だから腕に覚えるのプレイヤーや財力の有る老人、人が集まるからパーティ好きな数寄者なんかが狙ってる」


「ここへは資金集めに来たんだろ?」


ムゲンさんは言う。


「ええ。今ここにある財源の半分を抑え込めれば、人類の大半を味方に引き込める」


すごい話が聞こえてきた。


「本気で言ってるのか?」


「それも一つの手ってだけ。それも最強の概念の一つでしょ」


「そうかもな」


「なら大した話じゃない」


「…そうかもな」


身を乗り出してどこまでも伸びる塔を見た。本当にどこまでも果てしなく伸びている。怖いぐらい。上空にはカモメではない飛行型のモンスターが群れをなして飛んでいる。一つの個体が何百何千も居て、それが大きな群体へと化しているようだ。あそこに全力ワンパンを打ち込んだら、レベルはカンストするだろうか?


「カジノのトーナメントの席だから分かってるよね」


「…笑顔?」


「そう」


「はぁ」


そう言ってムゲンさんはミニヘリの機械音声を無視してタバコを吸う。


「媚売るの下手なんだよなぁ」


ミニヘリがモンサンミッセルばりのお城に到着すると、ミニヘリから降りた先からフラッシュをたかれた。あっという間にカメラを構えた三人の記者に囲まれてる。


「月刊Real増刊号です、クルセードを脱退された真意は!?」


「新たなギルドはプレイヤーキラーギルドとの噂も上がってます!」


「ノーコメント」


ラフィアさんはにっこりと笑顔でかわした。レッドカーペットの先は花が咲き乱れる大庭園で、更に進むと衛兵が両隣に立つお城の入り口。大広間では人々がワイングラスを片手のパーティ会場となっている。


「マネージャーさんはとりあえず私達の周囲に居ればぶらぶらしてていいから」


僕は頷いた。モーツァルトのアイネクライネナハトムジークが弾かれてる。みんなドレスとスーツでビシっと決めてるのに僕だけ着ぐるみくまモンとかどうだろうかと思いつつも、グラスに手を伸ばす。


「…」


クラッカーとビスケットも。


「…」


気付いたら一皿丸ごと平らげてしまっていた。塩と砂糖だけのビスケットがこんなに美味いとは。ちょっと感動。


「…」


目を引くせいか、意外と声を掛けられるけど、身振り手振りでなんとかかわす。一応、首からプレートでマネージャー、くまモンとでかでかと綺麗な字の楷書で書いてる。


「…」


ラフィアさんの周囲には人だかり。ムゲンさんにも。っていうか男性がすっごい勢いで寄ってる。もててるなぁ。顔は笑ってるけど、目が笑ってない。見てると怖いので目を離す。


「…」


みんな本当に凄まじいほどに飾り立ててる。小道具やらなにやらまで。ここはカジノのパーティだと聞いたけど、この城でカジノの大会を開くのだろうか。ポーカーとかブラックジャックとか。ギャンブルやらないけど、ここの会場の雰囲気からは浮足立つ非日常のお祭り感が確かに有る。


「…」


プレイヤーらしき人は居ないっぽい感じがする。ここは主催者側の前段階のパーティだろうか。あの黒の女性は居ないっぽい。そんな時だった。黒いドレスを着たプラチナブロンドの女性が目の前を通った。


「…」


どこかで会ったのか。いやいや。ふと、思いを馳せる。もし自分がこれまでいろいろな出会いや選択が違ってれば。何かが変わってれば。きっと何かが変わってたのかもしれない。そんな事を考えてると照明が暗転してサプライズで名前も顔も知らない人のプロポーズが行われた。冷めた目で見ながらも、ちょっと考える。来るべき時が来たら、僕もまた。やるのだろうか。ああいうこと。


「…」

晴天の空が、曇ってきた。

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