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第五十九話 強盗

引き続きくまモンの着ぐるみのまま、ひょこひょこ歩く。少し歩いてイチゴミルクマンゴースペシャルコーヒーパフェを食べて、サンドイッチをもぐもぐすると。さっきの出来事はもう忘れた。


「…」


路地裏から表通りに出ると人だかりが出来ていた。野次馬根性でひょこひょこ出向くと、大型デパートみたいな建物に規制線が張られていた。


「強盗だってよ」


「マジか?ここでか?Realの公用じゃなくってプレイヤーの私立でか?」


「因果な商売だな」


「さっきの警備兵は丸ごと盗まれたって言ってたぞ」


「丸ごとって言えば、Realの私用は必ず現物で金庫に一週間以上の在庫があるってことだぞ。それ全部か?」


「保険会社はつぶれるな」


「犯人捕まったらしいぞ」


「いや、そうでないなら賞金首が懸かるぞ」


みんなおもいおもいに喋ってる。楽しそうに。カジノで強盗なんてRealでも発生するのか。こんな美しい砂浜。気候は最高。ビーチボーイ日和なロケーションで、オーシャンズ11か。


「…」


まさか。


「…」


まさか。ラフィアさん。ラフィアさんなのか?オーシャンズ11とか言ってたよな。やったのか。やってないのか。問いただす必要がある。


「…」


にしても、さっきって。あ。まさか。あの黒服の女性。まさか関係性があるのか。確かセキュリティに追われてたけど。いや。関係性は無いか。レシートを見てみると確かに自動ドアのガラス代請求が主で、そこにいろいろ加算されて300万だし。


「…」


再びひょこひょこ歩く。ちらりと横を見る。自動ドアのガラスが割られていた。…まさかね。いや。あの子確か第三層のカジノの大会がどうこう言ってたっけ。


「…」


端末で確認する。確かにニューベニスでの第三層エリアで年一のビッグイベントが開催されてる。明日だ。明日はあの女性も間違いなく来るんだろう。うーん。行ってみるか?別に金を返してというわけじゃないけど。でも、普通、人に助けて貰ったらお礼ぐらいしてもいいと思う。お礼目的で助けたわけじゃないんだけど。逆にやべーヤツなら関わるべきじゃない。


「…」


冷静に考えたらあの闇深いオーラは只者じゃなかった。やべーヤツ確定。関わるべきじゃない。ならどうして助けたんだって話だけど。まぁ。いいさ。こういうのも縁。再びひょこひょこ。アメリカのカリフォルニアってこんな感じなんだろうなって音楽が大音量で鳴ってて奇抜なファッション集団が躍ってる。ぴちぴちスーツのお姉ちゃん達が躍ってる。


「…」


ヤベーな。Real。…。やべーぜ。なんかRealやってて久々にむらむら来てる。そーいやそーゆーのともご無沙汰だった。エロサイトもどすけべ本ともノータッチだし。んー。ちらっと見るだけで十分だ。これ以上はヤバイな。自重しよう。


「…」


再びひょこひょこ歩き出す。


「あーくまモンだぁ!」


女性が僕に体当たりしてきた。


「…」


「くまモーン!」


僕は黙って頷くだけ。そしてじりじりと距離を取ってダッシュで逃げた。家族でRealに遊びに来てる感じっぽかった。僕は体はくまモンだけど、心まではくまモンに売り払ったわけではないのだ。


「ゆにこぉぉぉぉおおおんんンンン!!!」


「がロぉぉぉおオオオ!!」


砂浜でひたすら水平線に向かって泣き叫んでる二人組が居た。見知った顔だったので足早ひょこひょこ。


「…」


「あ!くまモンだ!」


「おいくまモンが居るぞ!!」


見つかった。


「おぉぉおい!!」


僕は振り向かず全力ダッシュで走ったが、あっという間に二人が僕の前を通せんぼした。


「くまモぉン…」


「くまモン…」


「…」


「金貸して…」


「お金貸してください!!」


「…」


「頼みます!!お願いしますぅぅ!」


そう言って二人は全力土下座。


「靴舐めればいいんですか?舐めれば貸してくれます??」


僕は後ずさった。しかし二人は土下座のまま水平に移動する。


「お願いしますぅぅ!!5万!5万でいいんですぅう!あとちょっとで天井なんですぅぅ!」


「お願いします!絶対出るんです!大分凹んでるから!大分凹んでるから!大分凹んでるから出るんですぅぅ!お願いしますぅ!」


僕は首を振った。


「そこをなんとか!」


「どうにかなりませんかねぇ?」


更に後ずさるが、二人は距離を離さず土下座のまま水平移動。どうやってんの??


「お願いしますぅ!」


「十万!十万あれば出るから!もう飲ませてるから!ガロのお腹いっぱいだから!もう少しでゲぼ出るから!ゲぼ出しするから!!」


僕は首を振った。


「お願いしますぅぅ。ここで引いたら。駄目な気がするんですぅ!お願い!お願いお願い!」


「十万でいいから!ほんっと十万!絶対十万だけでいいから!あ!靴舐めます!全部!二足舐めますよ!二足!!二足とも!」


「…」


…。


「…」


「え?なにこれ。え?これ。くれるんですか?」


僕は頷いた。


「は?え?神!神じゃん!神様!ありがとうございます!ありがとうございますぅう!!」


「十万入ってますよね?十万入ってますよね!?」


僕は頷いた。


「やったぁあ!!ありがとうございます!ありがとうございます!」


二人は僕に握手をして、靴を舐めようとしたので僕は再び全力ダッシュで逃げた。


「…」


ムゲンさんの船までひょこひょこ歩きつつ、風を感じながら、訳の分からない、かつてないほどの疲労感を覚えながら。船に戻った。


「…」


船に戻った。くたくただ。大理石のテーブルでぐったりする。


「…」


足音が聞こえた。振り返ると、あの黒服のやべー女性。


「…」


心が疲れたので、買ってきたホワイトプレートに紐を通すと、テーブルに置く。筆談の準備はばっちり。気が進まないけど。


「…」


再び振り返ると彼女は消えていた。玄関口には札束が丁度四つ。返しにきてくれたらしいけど、もうちょっと何か言う事あるんじゃないかって思うけど。


「…」


みんな、くまモンの扱い雑過ぎるよ。

「ともちゃんだけ逃げられちゃったかぁ。怖いなー」


「自動ドアは壊れないはずなんだがな」



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