第五十七話 カジノ街に到着した一行
海上街ニューベニスは端的に言ってカジノ街。文字通り海の上に建てられた公的街。プレイヤーによって作られた街、ドゥルーガではなく、ちゃんとした街。だからプレイヤーキラー等のワルイプレイヤー、赤文字プレイヤーなんかは原則出入り禁止。街のエリアは三層構造で、一層は庶民向け。二層は富裕層向け。三層は富豪向け。一般のカジノと違う点は、Real側が胴元である場合、100%の支出が公開されていること。このデータはニューベニスに入った時点で、端末から誰でも確認できる。
「うはー。現実みたいで色とりどりの家々だ。ほんとにガチのヨーロッパって感じだな」
ムゲンさんがそう言う。僕も頷く。
「ムゲン金余ってんなら実際に行けば良いのに。プライベートジェット貸そうか?」
ラフィアさんのやべー発言。なに言ってんだこの人?
「お前プライベートジェット持ってんのか?」
「違う違う。プライベートジェットをレンタルする会社を持ってるだけ」
そっちの方がやべーだろ!僕は首を振った。
「友達価格?」
「いや?どうせ余ってるしタダで」
「マジかよ。くまモン。今度行こうぜ」
「…」
僕は大きくぶんぶんと頷いた。
「っていうか喋れよ!くまモンの着ぐるみ今からとかさぁ!ラフィアもなんとか言えよ!」
「あたしの案だけど?今結構貴族趣味で流行ってて、もうこっから誰と出会うかわかんないでしょ。超能力とか10キロ圏内のテリトリーは喋ってる内容全部聞こえるとか居たらヤバイじゃん」
「いねーよ!………たぶん」
僕は着ぐるみを着る時、いろいろ聞かされたので黙って頷くのみである。
「あのねぇ。それぐらい居るに決まってるでしょ。そーゆーのと闘ったこととかないわけ?」
「いや。うちはそもそもせいぜい化け物退治とかだし。親父は人ともやりあったらしいけど、こっちはまだ人間は斬ったことねーよ」
「意外。犯罪者とかテロリストとかバンバン斬りまくってるのかと思った」
「日本の治安舐め過ぎだろ。ラフィアは殺しはやったことあるのかよ」
「無い。今のところ。でもRealではバシバシワルイ連中を皆殺しにしてるから、多分現実でもいける」
「それは言えてる」
そう言って二人して大笑い。全然笑えないよ??僕は首を振った。
「一応Realに換金しておいた?私はカードでとりあえずいっぱい限度額までやるけど」
「こっちも。といっても、ラフィアの足元にも及ばないだろーけど」
段々とニューベニスがはっきりと見えてくる。まるで巨大な船みたいな街。カラフルな家々の上に近代的なビルが立ち並び、その上は先鋭的なデザインの曲がったビルや浮いてるお城なんかが見える。もう滅茶苦茶。湾岸まで寄せると波止場で停まる。
「上陸っと。とりあえず着ていく服を買いましょう。ここらへんは高級ブティックが並んでるから」
見ると、一見何を売ってるかわからないような建物がずらりと並んでる。この本物っぽい感じ、銀座の通りに似てる。銀座シックスとかを思い出す。
「くまモンはぶらりと見て回って。ただし喋っちゃダメ。デパートでは紙とペンぐらい売ってるだろうから、話すときは筆談でやって頂戴。はいこれ。一応少額だけどいくらか入ってるはずだから」
そう言ってダイヤの色したスゲーっぽいカードを手渡されたけど、首を振った。
「は?いらないの?」
懐からヴィなんとかさんからぶんどったカードを見せる。女に金を出させてたまるかってんだ。僕の最低限度の尊厳と見栄が炸裂した。
「いいの持ってんじゃん。今から夕暮れまでかかると思うから」
「そんないらねーだろ!」
「良いの着ないと。最低でも1万ポンドはするヤツね」
「何でポンド計算なんだよ!」
「ドレスコードあんの知ってんでしょ!」
「たけーよ!!そーゆーかたっくるしーの嫌で家出して高卒なんだよ!」
「それもいいけど、場所が場所でやるべきことがあるから必要なことをするわけ。そこに学歴は関係無いでしょ。それに家出してても、親とかには連絡取ったり金貸してもらったんでしょ。どうせ?」
「う。痛いとこつくな…」
「ドレスコードってだけで拒否反応しない!くまモン、必要なものが揃ったら自由行動だから、現実で何かやれることやってたら?但し、現実で生存が確認できるような事をは絶対控えること。ユーチューブの動画撮影もユーチューバー活動も絶対論外。ユーチューブ編集仲間も絶対に連絡を取らないこと。1000%監視入ってるだろうからね」
連絡取れないのか。でも確かに、僕が生きてるのがバレるのはヤバイ気がする。今はまだ。僕が生きてたら身内や仲間に危険が及ぶ。危ない橋は渡れない。僕は納得して頷いた。
「私達がこれから行くのは三層の更に上、VIPエリア。貴族や王族、国や多国籍企業のオーナー。実は一番多いのが、裏社会の首領。表には出せないブラックマネーの絶好の使い道だからね。こういうのって結構カモれそうに見えるけどバカじゃないから気を付けて。カジノとブラックマネーの関係性の講釈はしないけど、例えば麻薬とか、臓器とか、ITとか、そういう言葉がマックと同じぐらいに並べられるけどビビらないでね」
「たたっ斬る」
僕も頷いた。
「人選間違えたかも…」
ラフィアさんは天を仰いだ。僕はやる気を見せるために右腕でフックパンチを連続した。
真っ黒いでっかい丸いツバの入った帽子に真っ黒なドレス。ところどころに黒い染みが入ってる服は少しボロボロ。そんな彼女もまた、カジノに入った。目つきや顔つきは普通の女性。ただ、その纏うオーラだけが異常に闇がかっている。五時間たっぷり遊んだ後、カジノの表の自動ドアのガラスを飛び蹴りでぶっ壊し、警備員を振り切って全力ダッシュをしているところだった。