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第五十六話 着ぐるみと有名人

でっかいくまモンの着ぐるみに入る。


「…」


そういうくまモンって喋ったっけか?少なくとも、ふなじるぶじゃあっっとかはやってない。確か喋らないはずだ。


「…」


寝室から戻ってダイニングに行って、ラフィアさんが。


「似合ってんじゃん」


「…」


そう言われた。


「…喋んないの?」


頷く。


「喋りなさいよ!!」


「はい…」


「とりあえず、それ着てればハートロッカーのレベルマックスだし。外から見ても誰が中に入ってるかは完璧に分からない。超能力でもね。多分。あー。目方が利けるような人間ならひょっとすればマッキーってわかっちゃうかもだけど。まぁわかんないよね。一応特殊な能力はなりきりモードだけだけど、これで大丈夫。これでポーカーとかダメなテーブルもあるけどね。うん。悪くないんじゃない?」


「ありがとうございます」


「っていうか、頭だけ出したりできないの?」


「これはできないみたいです」


「そーなんだ。高そうなヤツっぽいよね。これから行く場所はニューベニス。ラスベガス行ったことある?」


「ないです」


「ないのか。男ってギャンブル好きでしょ?」


「あの!僕二週間前までは普通の中流家庭の一般庶民のただの並みの高校生だったんですよ!?ラスベガスに旅行で行けるわけないじゃないですか!」


これだからVIPは。一般ピーポの事なんかこれっぽっちも気にしてない。


「アンタの親、有名なバンドマンなんでしょ?親の仕事についてくとかないわけ?」


「あるわけないじゃないですか。うちの親はとんでもないですよ。逆に自分達がヤバイからあえて遠ざけてるってのもあると思いますし。だから海外行ったこと記憶無いですもん。一回家で大量のやべーのが見つかって、お父さんが本当にボコボコにされてましたからね。やべーですよ。月に数回連絡くれたりくれなかったりだし」


「ヤバイのって?」


「種類はわかんないですけど、多分、アメリカとかで見つかったら終身刑になるレベルの量じゃないですかね」


「ヤバ過ぎるでしょ!」


「ですよね。うちってハードロックとか、ヘヴィメタルとかが多いんです。下手打てば、その日ラりって演奏できなくなったプレイヤーの代わりに出たりとか、一番多くはバックコーラスとか。音響とか。ああいうのって過激なパフォーマンスするのが仕事なんですけど、アーティストって結構薬物乱用が多いみたいなんですよね。うちの時はプライベートジェットで国内に持ち込んだらしいんですけど。だから、ちょっと、いつ捕まっておかしくないなって思います」


「苦労してんのねアンタ…」


「僕は逆に独り暮らしだから、寂しいって感情すらもなくって。でも、サークルの仲間とかいて、いろいろやってて、まぁそこまで大変じゃなかったし。いろいろあって、そこまで経済的に余裕があるわけじゃないですし。親が刑務所に入ってなくって幸運ってぐらいですよ」


身の上話を打ち明けて、ちょっとすっきりした。僕の方はまだいろいろな成分が身体から抜けきってないようだ。


「なるほどね。っていうことはギャンブルとかもやった経験が無い?」


「一応、三回だけ。中学校の頃に日本じゃスロットっていうのがあるんですけど、緊急の用事でスロット出来なくなったからって、学校を早退して設定最高のスロットを打たされましたよ。サークルの仲間なんですけど」


「そんなサークル辞めた方がいい…」


「僕もそう思うんですけど、なんだかんだですっごい爆発してて。40万とか30万とか。それぐらいにはなりましたよ。確かに学校を早退させて打たせるだけの価値はあったのかもって」


ラフィアさんの露骨なドン引き顔をされてる。わかる。自分でも言ってる事いろいろおかしいとは思うし、ツッコミどころ満載だし。


「スロットって結局はレバー叩く機械相手のギャンブルってこと?」


「ですです。ゴッドって書いてある図柄が三つ揃うと八万円ぐらいなんです」


「それじゃあないんだなぁ。ポーカーとか出来る?」


「一応できますけど、仲間内ではインチキご法度なので、マンガとか映画みたいな、カウンティングとかはできないですよ」


ラフィアさんはやっぱりため息をついた。


「そっかぁ。スーパー高校生じゃないじゃん!!」


「なんですかそのスーパー高校生って!!」


「イケメン高身長、モテモテ、放課後ヒーロー活動。アメコミの典型のそれ」


「あるわけないじゃないですか。そんなの、ドラマの見すぎですよ」


「そっかぁ…。結構そういうイメージだったんだけどなぁ。それデフォルトでしょ?」


「僕の顔の事をそれって言わないでくださいよ!」


「普通。もうちょっと鍛え込んだり、もうちょっと死線をくぐって男らしい顔つきになってね」


「もう普通の人生の倍ぐらいの修羅場をくぐった気がするんですけど」


「足りない。なんていうのかな。持ち前の人の良さそうな顔が前面に出てるのがちょっと違うんだよね」


「人の良さそうな顔でいいじゃないですか!?どう違うんですか!」


「なんかもっと。こう。壮絶な過去が…」


「だから普通の高校生なんですってば!ヴァミリオンドラゴン当てた普通の高校生なんですって!」


「何か隠された過去が…」


「隠された過去?モンハンでサークル内で常にトップ走ってたってぐらいですかね」


「なにそれゲーム?」


「ゲームみたいなもんですけど、ゲームじゃないんです。人生なんです!」


「その台詞、大学中退した時にあたしが教授に言ったセリフだわ…」


「逆に僕も言わせて貰いますけど、大学中退って相当恥ずかしいですからね?あえて言わせて頂きますが」


「う。もうその話題はいいから。古傷その一なんだから」


「古傷その二は何ですか?」


「イケメンを振ってReal選んだこと。今そいつは総務省に勤めてる」


「普通の人生か、セカイを救う人生か。選ぶなら?」


「セカイを救うに決まってるでしょ」


「なら大正解じゃないですか」


「この年になると、いろいろあんのよ…。結婚しましたの通知とか結婚式とか…。全部破り捨ててるけど」


何歳か気になるけど、それ触れたらヤバくなりそうだからあえて触れない。


「で。カジノで僕に何やらせたいんです?」


「いろいろ。好きな映画オーシャンズ11だったよね。なら完璧」


「間違っても人から後ろ指をさされて、銃で撃ち殺されるような人間にはなりたくない…」


「もうなってるしされてんでしょ」


あ。


「それ言わないでください…。完璧に忘れてたのに…」


「アンタって頭が悪い分、なんか人生得してる気がする。ずるい」


「それ誉めてんですか?ディスってんですか?」


「どっちも」


「もうちょっと年上なんだからさぁ。もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃないですか?」


「あんまりそういう事はしたくない。特にアンタはね」


「どうしてですか?」


「対等だから」


予期せぬ事をさらりと言われた。結構重要なことだと思う。


「それって裏切りフラグですか?」


「ぶつよ!」


「やめて!」


「その着ぐるみになんか憎しみを抱いてきた…」


「そうですかァ?」


自分の台詞にビッキーを感じてちょっと吐き気を催してしまう。こういうところが頭が悪いんだと思う。頭が悪いヤツは悪いなりに大変だってことを知らないからそんな事が言えるのだ。ちっきっしょー!


「僕の事は嫌いになっても、熊本の事は嫌いにならないでください」


そう言って、おどけて妙なへんちくりんなポーズを決める。あ。今自分でも分かった。これまだやべー成分が抜けきってないヤツだ。


「ぶつよ!」


「やめて…」


ラフィアさんが手をあげてきたので僕は大きく首を振った。


「…電子駆動音がする」


「え?」


唐突にラフィアさんはそう言った。


「甲板に行ってみよう。PKプレイヤーキラーかも。どっちが多く殺せるかやってみる?」


「多く殺した方の商品は?」


「負けた方が一日奴隷」


多分今後ずっとそういう感じでラフィアさんは僕の事を扱うんだろうなって悟った瞬間だった。


「悲しくなってきた…」


「なんでよ!?」


「プレイヤーキラーの皆さんに同情」


「言っとくけど、完全に赤文字、レッドネームになったプレイヤーキラーは死亡判定の後、猶予過ぎたら完全削除だから。結構やりがいあんのよ」


邪悪な笑みを浮かべられた。この人。趣味ワルイな~~。


「うわあ…」


僕がドン引きするって、相当だよ??


「さてっと」


甲板に一緒に出ると、そこでは、モーターボードっぽいもので二人乗りで男女がきゃっきゃうふふやってた。大海原をバイクで疾走。たまに一回転。たまに半回転。


「ああいうの見ると、鬱になってくるわ…」


「わかる…」


「あのさ…」


「なに…」


「さっきの台詞聞かなかったことにしてくんない…」


「なんで…」


「最強で最高でなんでも持ってる月刊Realの表紙常連のラフィア様の発言としたマズイでしょ…。恋愛コラムとか連載してたし…」


「大人って大変だね…」


「たまにハイにならないとやってけないのよ…。だから…。アンタもあんまり親の事悪く言うもんじゃないのよ…」


僕達は夕陽よりも目に染みる光景を並んで見つめながら、そんな事を語り合った。

「閣下もRealへ行かれてはどうですか?」


「私のIDは五つ前の旧史に作ってあるからサーバーが違うんだよ」


「そうですか。今がとっても楽しいですよ。引き続き監視を続けます」

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