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第五十四話 硬派な男の子

久しぶりに現実に戻ると、服からすえた匂いで思わず立ち上がった。頭は変わらず回ってる。何をすべきかは明瞭でハッキリとしてる。今からツキコモリさんの前に立って、お付き合いお願いしますと言う。四の五の、死の後の、考える必要は無い。このタイミングを逃したくない。


「よっし!」


とりあえずシャワーかな。窓を見ると変わらず洞窟の往来が激しく、防護服を着ている人たちでいっぱい。梅田家は多くの事業に参入してあり、いくつもの研究施設を持っていると聞いた。こういう未知の植物に対する人間の知見はきっと乏しく、これから利益になってく。人間の役に立つことだろう。そしてくだらない楔を抜き取った。でも。


「…あ」


この状態で僕がお付き合いをお願い申し上げてしまったら、僕が強制させた形になりやしないか。つまり、ツキコモリさんが断りにくいということ。ツキコモリさんの本心が必要だ。


「…あ!」


そう言えば、心に刻んだ事もある。つけなきゃいけないケジメもある。とりあえず、ツキコモリさんに…。


「…」


恐怖が襲い掛かってきた。本能的な恐怖。嫌われるとか、この思いが夢に、無に、なってしまうような。ツキコモリさんが同情や勢いや義務感で僕と結婚したとして、それでいいのかって話もある。勢いは大切だけど、今は違う気もする。でも、今しかない気もする。これから多くのやるべき事をやってくだろう。危険だってある。そんな中で、斬った張ったの合戦場で付き合うだとか、甘っちょろい感情で、男女として意識するような時間を持つべきじゃないんじゃないか?


「…」


義務や責任、ちょっとした人間関係だってある。馬鹿みたいになって、犬猫みたいに十代で快楽目的でヤッテル人間は、どうしてできるんだろうか。はぁ。


「…」


段々と頭の中が黒く渦巻いてくる。リア充の連中よ。お前らはどうして、付き合うとか付き合わないとか遊べるんだろうか。往来の街中で手を繋いでる整った男と女。君達はどうしてそんな見せびらかすような事をしたいんだい。


「この黒い感情を存分に吐き出し、自分の思いの正しさが証明されたら、どれだけ気持ちいいんだろうか」


Realでやってる暴力。ぶっ壊す衝動。抑えきれない反社会的願望、殺人欲求。全てを解き放てるのがRealであり、それは正当性が証明される唯一無二の場所だ。そして、それを多くの人が、殺される側ですらも望んでる。プレイヤーキラーが、Realの醍醐味。隠し味。贅沢者だよ。Realプレイヤーは。殺されるか否かなんて、現実じゃ酷いものなのに、手軽に楽しめるんだ。


「…」


この好きって感情は、表裏一体の危険な思いだ。こじらせると大変な事になるな。告白って何だ?付き合うって何だ?幼稚園児のやるおままごとの延長じゃないか。なんという低俗極まりない醜悪なグロテスクの猟奇趣味じゃないか。世界は残酷だ。思った以上に狂ってる。僕の正当性が、一体証明されることはあるのか?マスターですら未だ叶わず。一人の人間が一人の人間と出会うためには、一体どれだけの奇跡と時間が必要なのか。ままごと経由でゴールインしなけらばならないのか。


「僕がやりたいことも、そうなるのか」


ブルーもブルー。気分も真っ青。僕はどうすればいい?どうしたらいいんだ。欲求を衝動的に解放するのは小動物の世界に限ったものだ。もっと素晴らしいものや美しい希望に身を任せられるような人生を描けるっていうのか、今の僕が。今の僕が?今の僕が!この僕が!!


「ぉえぇぇえ」


吐き気が込み上げてきた。トイレに駆け込んでくけど、胃酸がちょっぴり口元まで迫るぐらいでなんとかなった。


「…あ。これ今ひょっとして」


バックラッシュ入ってないか!?反動きてやしないか?Realで過剰にやっちゃいけないことをやりまくった気がする。お酒っぽい飲み物も飲みまくったし、ぶくぶくに沸騰した謎の液体からは酩酊するほどにすっごい良い匂いがしてたし、チョコレートは絶品だった。ダウナー系統のドラッグやった感じに今なってないか?広義で言うとお酒なんかもダウナー系ドラッグに該当する。酷くなってくるとマリファナや大麻系ドラッグのバッドトリップに繋がる。意識の混濁で分けがわからなくなるヤバイ状態だ。今の僕は軽くそうなってる。


「最悪だ…」


こういう時は水を飲む。アルコールの場合と同じだ。がぶがぶ飲んで、どんどん出す。水をいっぱいにしてごくごく飲む。


「はぁ…」


なにやってるんだろ。僕は。世界を救うとか。地獄に行くとか。神とか。天使とか。黙示録。


「すーーーーはーーーー」


わけわかんないよ。ぺたりと座り込んで、ちょっとどうしてかわからない涙が出てきた。ここに来て、プレッシャーに負けてるようだ。ひとしきり泣いた後、立ち上がって、Realに繋ぐ。


「今がその時じゃない」


それに、アル中の状態で告白だって?狂気の沙汰だ。僕は、東雲末樹だぞ。


「硬派一直線!」


そしてRealへと。

「ヴァミリオンドラゴン…あんた、何歳?」


「いっかげつもたってないよ。そろそろねるね。おやすみ」


「お疲れ様」

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