第五十三話
「少しハイになってるかもしれないからよく聞いて。スリーサイズって言葉があると思う。広辞苑にも載ってる和製英語なんだよ。スリーサイズ。三つのサイズってことなんだ。これってなんだか知ってる?知ってるよね。もう二人共成人してるんだし。知らないかもしれないから蛇足として無駄な知識が一つ増えちゃうかもしれないけどご了承を。一つはバスト。これは胸の大きさなんだって。よくしらないけど、これって結構どうかな?みたいな基準らしい。小学校の頃にグーグル先生に聞いてみたら画像検索のところですっごい事になってた。よく覚えてる。小学校の頃って結構案外覚えてるか覚えてなかったりかってところあるよね。えーっと。バストの話はしたよね。えーっとウエストだっけか。まぁなんでもいいや。兎に角僕が言いたいのは、それがどういう事なんだよっつーのって話なんだ。腰回りだとか胸囲だとかお尻の大きさだとか、そういうのに意味があるのかって話をしたいんだ。ヤングマガジンにはグラビアが載ってるよ。公的な健全なエロ本なんだ。青少年はこれでおかずにしろって言ってるんだろうね。まぁここは一つ、一次元と二次元と三次元の話は置いておくよ。ラフィアさんは大学出てる?」
「中退。Realにハマって」
「ムゲンさんは?」
「高卒」
「君達とは仲良く出来そうな気がしてきたよ。うちの両親も高卒でさ。絶対大学に行かせたくないって言ってるし、行くなら自分でなんとかしろってね。奨学金とかそういうのでさ。まぁそーだろうさ。んで僕が言いたいことは三つの次元が存在してるってことなんだ。注意深く聞いて欲しいんだけど。二次元だと絵に描いたりモニターの画像だったりするじゃん。一次元だと現実の。んでさ。グラビアの表紙は一次元なのか二次元なのか三次元なのかどっちなのかって話なんだよ」
「それ重要か?」
「重要なんだよ。うちのサークルは上に行くほど厳しくなってくるんだよ、三次元のマスターベーションは禁止とかね。うちのトップはいい年して三次元で一度たりともおかずにしてないって言うし。重要なのはマガジンのグラビアはオーケーなのかバツなのかってところで、そこに付随してスリーサイズとか出てくるじゃん。その数字がグラビア飾ってる女の子によって変化するんだけど、それが何だよって話なんだ。お前スリーサイズに興味あるのかよって話なんだ。っけ!お前はスリーサイズで自分の人生を決めるのかよっつーのって思うんですよ!」
「胸のサイズとか大きい方が好きとかそういうのじゃないか」
「何でマッキー二人いんの?」
「きにしないで」
「そーだよ!一人も二人も同じでしょ!」
「やっば、目が霞んできた」
「でさ。現実的な話としてさ、大体胸のなんて気にならないし、大きいヤツとかたまにいるぐらいで、大体均等でしょ?胸が大きい子が好きとか、なんというかさ。よくいるんだけど、人生舐めてるよね。いねーよ!!!!って言いたいの。ずっと言いたかったの。ずーーーーっと。それが!言いたかったの。そもそも胸ってなんだよって。お前スリーサイズで女性を選ぶぐらいよりどりみどりなのかよっつーか。それを彼女探しの基準にしてるヤツとか、なんというか。殺してやりたいんだよ。おかしい話じゃないかって思うんだ。どうでもいい話かもしれないけどね。本当につまんない話なんだと思うんだけどね」
「マジで微妙な話を持ってくなお前…」
「ずっと誰かに言いたかった事なんだよ」
これまで誰かに言いたかった事を遂に解き放ってやった。今日ぐらいいいだろう。ずっと言いたかった事だった。男に言っても目に見えてる。みんなおっぱいおっぱい言ってて大好きだもんな。僕も分かる。気持ちは分かるんだ。でも、それがなんだってんだ?
「あ。忘れない内に言っておくけど、マッキー死んだ事になってるから。だから今後は着ぐるみ着てね」
着ぐるみ?船に着ぐるみなんてあるのか?正気かい?なるほど。パーティ用か!
「くまモンあるからそれで」
「ムゲンさんどーしてくまモンあるんですか?」
「母方の実家が熊本なんだよ」
「なんか一着以上ありましたけど」
「PR用だな。月刊Realの表紙にはなったことはないけど、くまモンの宣伝やってくれってな」
「熊本。うちは佐賀県ですよ!九州の人間かぁ。牧のうどんとか知ってます?」
「知らないな」
「知らないんですかぁ。マジですかぁ。あーあぁ…。おかわり」
そう言ってパインジュースを注いでくれる。
「っつーかマッキー、そろそろ現実に戻らなくていいのか?聞いた話じゃいろいろ大変なんだろ?」
「そーみたいなんですけどぉ。ぶっちゃけあんまし大人と顔合わせたくないんですよねぇ。あれこれ言ってきそうじゃないですか。あれやってとかこれやってとか。僕は絶対やりますって言っちゃうだろうし、大体大人ってつけあがるから嫌いなんですよね。大人って打算的なところ大きいじゃないですか。高校ですらそーゆーところあるし。大人ってバカだから血を見ないと分からないところあるじゃないですか。そりゃやってくれとか言われたらやりますけど、僕が一度もやり始めると頼られるじゃないですか。大人って口が上手いし。その気にさせるし。だから、あんまりヴァミリオンドラゴンの力は使いたくないんですよね。これは武力だと思ってます」
「うんうん」
「僕が本気になったら、なんでもできるし。だから、これは私用もしない。そりゃ、目の前の誰かを助けるぐらいはするし、アメコミのヒーローみたいに事故とか事件があって、縁があったらなんとかしますけど、それって神様じゃないですか。一種の。その時だけ働く神様。東京に住んでる神様。東京だけとか。今千葉県に住んでて高校行ってますけど、神様本職にしちゃうと、人間の人生じゃなくなりますよね。それってとっても悲しいことだから」
「なるほど。わかるよ」
そう言ってくれただけで、救われた気がした。
「ムゲンさん~~~~~~~~~~~~!!!」
涙が出てきた。ひとしきり泣き終えると、更にパインジュースを飲み干した。ちなみにもう既に高いアルコールっぽい飲み物は切れてる。今は完全にチルアウト状態。落ち着きモード。
「本当は好きな子がいるんですよ」
言ってしまった。ついに言ってしまった。言ってしまったのでしょうがないのでぶちまける。
「Realで一目掘れしたんですよ。なんていうか、ドラマティックな展開で、もう!この人!!みたいな感じで」
「ほう」
「へぇ。その子もヤンデレ属性?」
「違うよ!!普通ですぅ。はぁ。とりあえず、それが、今泊ってるその子の家なんですけど」
「ツキコモリさん?」
「そう!それ…」
「なるほど。で。実際会ってどうだった?」
「どうもこうもないですよ!デフォルト同士なんだから!ちゃんとやってけそうだし、今彼女をあれやこれやと評価することなんておこがましい!おこがましいのである!!でも。なんか。なんかねぇ。どうしたいとかじゃないんですけどね」
「なるほど」
ムゲンさんがひとしきり頷いてくれた後。
「早いうちに決めた方がいいな。相手にもとりあえずお付き合いよろしいですかって確認してオーケーもらえたら、両親へ。でもな。結婚って文字通り家族になるってことだ。それこそ人間関係の大人の付き合いだ。そーゆーところも覚悟しとけよ」
「しますよ!しますってば!そーなると僕お婿かぁ。婿の評判良くないんだよねえ。ますおさんポジションだし」
「サザエさんレベルで大変とか言ってたら話にならねーぞ…。っていうかそういうもんじゃないだろ!人生を捧げるんだろ?それこそ、スリーサイズの話じゃないか。好き合ってんなら、そんなのに関わらず、全部背負うのが男ってもんじゃないか?」
「くうううううううううううううう。そうです!そうなんですよ。そっす。そうなんだよなぁ。そうなんですけど、いざ人生が進み始めるとなると、怖いです。こわいですううう。皆凄いなぁ。人生がどんどん前に進んでるって。ラフィアさんも一言くださいよ~~!」
「んー。私は貴族のイケメンに告白されたけど、Real取っちゃったからなぁ。アドバイスできないなー」
「ゲーム取っちゃったんですか」
「ゲーム取っちゃたんだなぁ」
「人生よりゲーム選んじゃったんですかぁ!!」
「選んじゃったんだなぁ…」
「どーして!?」
「あんまり人生で勝った記憶が無くってね。大学も必死こいて勉強してやっとだし。そんなに頭が良くないし。ヒエラルキーで言えば普通より少し上ってとこ。勝ったことも無いけど負けたこともない。そんな私がここにきて、勝つってことを覚えた。勝ち続けること。勝つ喜び。最高でしょ。それがずっと続いてた。私を暗殺するって話が出てくる迄ね」
しょんぼり言われた。
「ラフィアさんもですか?」
「いずれはってね。うちのギルド、十字教は世界そのものと強く結ばれてた。知らない事も結構あって、知る事が出来た。上になれば、上の人がこぞって私と食事を求めてきた。その中でね。まぁ助言をくれた人もいてさ。エジプトの深くに火星へジャンプする装置があるって知ってる?」
「知んないよ!!!」
ムーかな?インチキオカルト話の与太話百パーセント!
「黙示録到達後の地球は火星で既存人類の再編を図る計画。今もやってるヤツ」
ぶっとんでるとこ持ってきたなぁ。すごい。
「前の時代でも月へ向かったりもしてたって言われた。終末は多分これで、審判の日の前になんとかしなくちゃいけない。ツキコモリって人も多分前人類の月へ逃げ延びた子孫だと思う。おそらく、あの子もきっとそう。共通してるのが、私の知ってる予知よりも遥かに精度の高い予見が出来ているということ。多分、前人類はそういう第六感の能力が当たり前に使用されていた文明だったのかもしれない」
「そういう意見は嫌いじゃない。確かにソレは聞いた事がある。いわゆる、ダンジョンっていうヤツ。ゲームと違って通り抜ける事が困難な地球から切り離された空間で形成された通路」
「ダンジョンってそういうのなんだ」
「一応公的機関でダンジョンが攻略された事例は三件だけ。ローマによる探検隊、アメリカの軍、そして奇跡的な稀有な例で日本の陸自の分隊。全員生還。噂話だとそれがアイツ、プレイヤーキラー第一位張ってるヤツって話」
「あ。その話なら聞いたかも。何十年も異世界放浪しまくって、帰ったら一年ぐらいだったって話でしょ?」
「よく知ってるじゃん。今の異界通路のパンフレットの監修はそいつだって」
「あたしもマジでやったけど逃げられた事がある」
「マジで?」
「殺せなかったのマッキーとそいつとラフィアだけ」
「そーなんだぁ」
「つか、さっきもそーだけど。やる時マジでやれよ。お前のドラゴン使ってないだろ」
「うちの子はちょっとね。まだ練習中。つかマッキー。結構相性良いよね。言う事聞いてくれてるし」
「あいしょういいよ」
「最高だね」
もう一人の僕とハイタッチ。
「やべぇ。目が霞んでる…」
「親愛度はシンクロ率と直結してて、ドラゴンとの同期はそのシンクロ率が大切なわけだって思うわけ。あたしで40%かな。マックス。部分的にだけど。マッキーはどう?」
「どーって言われてもそんなの考えた事もないですよ。でもレベル1299で大体レベル300ぐらいの強さぐらいかなって換算すると、なんとなく、現実で1%から3%の間かな」
「現実じゃなくてRealの話!つか現実でそれなら、もうRealじゃ完璧にドラゴンの力が使える?不便ない?」
「使えるって言っても…ねぇ」
「うん」
「大体使える。やろうと思えばヴァミリオンドラゴンの本体の姿にもなれたし」
「マジかよ。っつーかよくやれるな。怖いとか戻れなくなったらとか考えないわけ?」
「考えた事もないよ」
「ない。ないない。それない。きにしすぎ」
「そっかぁ。じゃー結構Realじゃいいとこいってんだなぁ。なんかショック。暴走とかしない?」
「なにそれ?」
「力がコントロール出来ないで、攻撃部位だけ100%を超えたりしちゃうこと」
「ないよ」
「そうなんだぁ。良い子なんだなぁ」
「いいこです」
「うちの子は結構気性が荒くてね。一度野に放つと全部食い尽くすからね」
「うへ。そういうの!?」
「そういうのなんだよなぁ。これが。まぁ別にだからどうっていう事はないんだけど。そのせいか、使う場面は限られる。逆に頼りになるよ。ここ一番の時は踏ん張ってくれるし」
「そういうもんだよ」
「そういうもんかあ」
「やば。本格的にヤバイかも。一応この船ってオートで走らせてるけど、誰か一人は残って船を護衛しないと、プレイヤーキラーとか出てきたら乗っ取られたり破壊されたらそこで終了だからな。というわけで、落ちるわ。どっちかちゃんと留守任せた」
「はーい、おっつー」
「おつかれさまです」
「お疲れさまでした」
ムゲンさんはログアウト。
「アンタもそろそろ落ちたら?ドラゴンのリンクがマシマシだからって疲労度はマジで残るから。いくら食糧で疲労は取れても、やっぱり人間ベッドで寝ないと」
「ツキコモリさんに顔を合わせるのが怖い…」
言ってしまった。
「臆病風に吹かれてるのは知ってるんですけど…」
「シャラップ!それウソ。アンタ私が居るからって甘えてるだけ。そういうの分かるけど、いい加減男になりなさいな。びしっとするびしっと~!」
「う!」
どきりとした。気付かない内に甘えてたのか、僕は。
「よっしゃ!!男、東雲末樹!ログアウトします!」
「おう!いってこーい!」
「おかわり」
「自分で注ぎなさいよ自分で~!」
「はーい」
「…え?」