第五十一話 試験官
ぶっ壊したドゥルーガの責任者とラフィアさんが話をつけて、僕達三人はムゲンさんの船へと戻った。今気付いたんだけど、僕現実にここ数日戻ってない気がする。昨日とかマジで記憶が無い。
「…」
あの人。マジで怖い。操作系、本当に怖い。気付いたら操り人形とか、ベクトルは違うけど、最強過ぎるだろ。結論、なんだかんだ言って、僕は完璧に負けも負け。敗北。戦うだとか、オーラ出すとか、そういう場面ですらないのに、気付いたらもう終了とか。怖過ぎる。改めてぞっとする。確か、オーラが青色が一番そういう系統が強いんだっけか。思えばあの人。ビ。ビ。もう名前すら出したくない。顔すらも思い出したくない。オーラが青黒だったんじゃないか?オーラの色一色じゃねーのか。思い出しただけで、鳥肌が立つ。僕との相性は最悪。文句なしの最強格。間違いなく。もう二度と関わり合いになりたくないレベル。⑤だよ!⑤!!あの答案で⑤!!思い出したら、鼻息が荒くなってくる。多分、僕という人間とあの子との相性は最悪だということなのだろう。そうに決まってる。多分。
「改めて思うんだけど、あなたってあの、シークレット賞を当てた人なんだよね」
本当に改めてだと思うんだけど。
「そうだけど」
「うーん」
僕をじろじろと見てやっぱりため息。こいつ失礼だぞ。
「何歳?」
そして年を聞かれた。
「16だけど」
お前こそ何歳だよって言いたいけどぐっと堪える。
「はぁ。16歳かぁ。他にもいろいろ聞きたいことあるんだけど」
「なんでもどーぞ」
「じゃ。とりあえず、面識スタイル?居酒屋スタイル?」
ムゲンさんはわけのわからない事を言う。
「面識で」
そう言うと、ムゲンさんは大理石のテーブルを動かした。二人は大理石のテーブルに座って、僕は向かいに椅子だけ。
「…なんですかこれ」
「さ。座ってどーぞ」
「…」
とりあえず座る。面識ってなに?面接?なんだこれ。
「早速ですが、当ギルドに応募された動機を聞かせてください」
ムゲンさんは言う。お前ノリノリだろ。コントかよ。しかもさっき言ったことだよね?
「世界を救うためです」
「なるほど。世界を救うため…っと」
「出勤できない曜日とかありますか?」
「…ないです」
「休日はいらないと…。素晴らしい」
何言ってんだこいつ。ちょっとわけがわからない。
「彼女とか配偶者はいますか?」
ムゲンさんは声を男性風にして言う。僕はオモチャじゃねーぞ。
「居ないです」
「過去にそういった人は?」
「居ないです」
「免許とかもってますか?」
「ないです」
「免許ないのかぁ…」
大分イラっとしてきた。それ言いたいだけだよね?
「童貞?」
「訴えますよ?そうですけど」
年下だからって思いっきりいじられてるのか?僕は?
「童貞ならまだイジれますね。ラフィアさん」
「そうですね。ムゲンさん」
二人してにやにやと気持ち悪い顔を並べてる。圧迫面接かな?そんなとこに就職なんてしたくないんですが?
「好きな食べ物は?」
ムゲンさんさんの質問だが。どういう趣旨でその質問なのだろうか。
「カレーです」
とりあえず無難にかわしておく。
「どうしてですか?」
ラフィアさんの追撃。カレーに理由を聞くのかい!?
「まぁ…。いっぱい作り置きしても日持ちしますし、より美味しくなりますから」
「なるほど。何日ぐらい最長で連続カレーでした?」
カレー引っ張るなぁ。
「三日です」
それぐらいだったはず。まぁぶっちゃけどんだけ分量作っても三日以内。ちなみにこれは中学の頃、佐藤さんがカレーの作り置きをしてくれた時のだ。今思えば、サークルの仲間が一人暮らしをしてた時の僕を結構おもんぱかってくれたんだなぁと思う。感謝しかない。
「カレーの隠し味は何だと思いますか?」
微妙な質問投げかけてくるなぁ。っていうか君達ヒマなの?僕達地球を救いに行くんだよね!?
「にんにくとりんごだと思いますけど」
「なるほど」
「好きなアーティストは?」
ようやくマトモな質問が出てきた気がする。
「狩野英孝」
「…知らない。知ってる?」
「知らない。誰だ??」
「最高なんですよ」
「じゃあ。一番好きなアルバムは?」
ほう。良い質問。うーん。
「綾小路きみまろの爆笑スーパーライヴ、中高年に愛を込めて」
「??」
「なるほど。泣けるよな」
「うん」
「カラオケでの十八番は?」
「ドナドナ」
二回しか行ったことないけど、二回とも歌った。
「冗談だよな?」
「歌うよ?」
「それだけはやめておけ…」
「わっかんないなー。じゃー。好きな映画は?」
「オーシャンズ11」
「間違いない」
「まぁ。ね」
「好きな人とかいるの?」
「長考入っていいです?」
「Realで出会ったヤツか?」
ムゲンさん。鋭いな。僕のかく乱をかいくぐるとは。
「ノーコメントです」
「マジかよ。両想いっぽい?」
「…少し説明をしないといけないです」
「で。どーやって黙示録の使徒から逃げ切ったの?」
「かくかくしかじか」
「お前ふざけてんのか?」
「なにそれ。おもしろいとか思ってるわけ?」
僕は詳しく詳細に渡ってやりたくもない説明を行った。ちょっと二人と上手くやってけるのか、自信が無い。ギルドを抜ける第一の理由は人間関係らしい。…僕もそう思う。
「かなり強いですね~」
「かなり助かった」
「いえいえ。そうでもないですよぉ」