第四十八話 好戦者
アイアンフォートレスと聞こえた直後。僕のぐちゃぐちゃになった肉体が単純にくっつき始め、僕のような肉塊が出来上がった。不思議な事に、意識はむしろ前よりもハッキリしてる。ただ肉体だけが崩れ落ちて死亡判定を受ける一歩手前の状態のままに維持されている。それが理解出来た時、少しだけほっとした。僕もヴァミリオンドラゴンもそうだ。女性関係のこじれでまさか本気を出すわけにもいかない。情けない話だが、女性との間で暴力で解決するようなことがあってはならない。目玉すらも耳も多分無いようなゾンビ状態で、それでも僕は生存していた。目が無い代わりに、僕の視覚はビッキーと共有していた。どうやら僕はバカでかい鉄塔のような鉄の塊の中で囚われてるらしい。こんなバカでかい鉄をどこから持ってきたのか。不思議に思うけど、これもきっとビッキーの魔法なのだろうか。それとも、秘術か。いずれにせよ。助かった。ビッキーとハートネット・ラフィア、深紅の鎧のお侍は対峙している。ぶっちゃけ僕をかばってるのがビッキーだ。僕を殺しにやってきたリベンジ野郎の二人組を相手にしてる。大空の女王とはいえ、唯一無二のドラゴンを使役しているドラゴンライダーのハートネット・ラフィアと、僕の完全なドラゴン変化になった状態でのヴァミリオンドラゴンの翼を一つ斬り落としてさえいるバカみたいな攻撃力を有するお侍だ。以前に二人合わせれば僕に太刀打ちできる攻撃力となるとか言ってたけど、これは僕相手であって、ビッキーなんて僕と同い年のいたいけな女の子相手だとたまったものじゃないと思う。現に操作されているとはいえ、僕ですら二人相手に一秒ももたなかったのだ。正直言って。ビッキーには少し、敗北の味を知ってもらった方が人生で得るものがあるのではないかと思う。彼女の生涯にも、挫折や敗北といった、ごく普通におこりえる当たり前の出来事が必要だと思う。勘違いしちゃったら大変だ。だからこんな目に僕もなってるんだろうって思う。いずれにせよ、このドゥルーガは間違いなく崩壊するだろう。ここが孤島で良かったよ。キャストの避難だってマニュアルがあって既にサイレンが鳴り響いてるだろうし。貸し切りだし。良かったね。思う存分やれる。ここなら、地球を気にせず闘える。ほら、見て見ろ。もう夢中になりだした。僕の事はもう置いておいて、もう戦いに熱中してる。楽しそうな三人を視れて、僕も悪くない気分だ。よく冷えたコーラとキャラメルフロートが食べたい。これが終わったら、レストランのアイスボックスから失敬しようか。なんて考える。それにしても楽しそうな三人だ。僕を置いておいて。ビッキー。良かったね。こんなによくしてくれる人って、そうはいないよ。
「カバネリオブザアイアンフォートレス。対象者を死の淵から蘇らせる正真正銘の暗黒魔法です。下々の愚民共には少しばかり説明が必要ですかぁ?」
ヴィクトリア・ローゼスのオーラは暗黒に暗い海を浮かべたような色合いを増し、ドレスへと形を変えて変貌した。ただの生命エネルギーが質量を帯びる奇跡。究極闘気、冒険者が到達すべき高みへと上り詰めた、価値ある証明。
「マッキー殺しに来たのにどーして占星術者兼航海士がでしゃばんだ!?それになんだあれ??邪悪過ぎるぞ…」
鎧がかつてのパートナーに言う。それほどまでに変貌を遂げた異常事態に戦慄しながら。
「マッキーは私の所有物ですからぁ。正確には、魂と精神の一部ですがねぇ。だから守護ってあげないといけないんですよぉ。私達の間柄はぁ。もうそういうものなのでぇ」
「守るっていうなら、ワルイんだけど先にアンタから倒すから。ムゲンそれでいいわね?」
「しゃーない。マトモじゃない。ここまでぶっ壊れたオーラなんて初めて見た。一度殺してすっきりさせたほーがいい。街への転送っつーことで。デスペナ(デスペナルティ、死によって大幅なレベルダウンが発生すること)は勘弁しろよ!」
既に深紅の鎧は換装され、実装され、戦闘の態勢を維持している。ラフィアもまた、末樹風に言うならドラゴン変化第二形態に既に移行していた。二人共放てば十分にヴィクトリアを殺せる攻撃は可能であったが、その夥しいカリスマに躊躇した。究極闘気と化したオーラは純粋な攻撃力、防御力が跳ね上がるだけではなく、副次的に能力が本能的に発現する。
「…」
カウンタータイプの場合。有無を言わさず致命傷と化す。そして二人の考える共通認識。シノノメマツキですら、完全に支配下に置かれたという事実。カウンタータイプが脳裏をよぎった。
「ナイトフル。確か外宇宙からやってきたぁ…。魔法少女…。という割には成人されてそうですがぁ。自身の魔力で外界を作り変えるフィールドマジックを展開する。究極闘気ではない。そうですかぁ。あなたがそうですかぁ。世界でも指折りの狩人だと聞いてましたがぁ。いやぁ、世界は狭いですねぇ」
笑いながらヴィクトリアは語る。当主の日記から克明に記録された所述に多分にあった、最強格の一つ。大空を支配しているヴィクトリアから見える大パノラマの宇宙、銀河。夜と共にやってくる星々の光の一つから本当にやってきた存在に、幾分ヴィクトリアの心が躍る。幼少の頃より思い描いてきた未知との遭遇が、こんな場面で、叶えられたのだ。
「二人とも、大空を超越してるっか。失礼。下界の下々は訂正しておきましょう。凡俗ではない、特別な方々に相違ない」
ヴィクトリアのドレスは既に異様さを湛えており、ドレスの裾は4メートル以上にも及ぶ。そして尚も…。
「攻撃したら、ヤバそうよね」
ラフィアは言う。プレイヤーキラーキラーとしての活躍からも、Realでも屈指の戦闘経験から、ヴィクトリアのカリスマを予測していた。
「ダメージが通る、イメージが浮かばない」
防衛特化と攻撃特化。二人とはいえ、明らかに分が悪いと感じたのは、意外にもラフィアとムゲンであった。
「…」
ムゲンが意識上、試しに袈裟斬りに。イメージ上では、刀剣を刃から取られて侵食されるイメージが浮かんだ。一撃必殺とは文字通り、即死を意味する。SS、ランキング十位以内同士の闘いでは、各々がそれぞれ、一撃で相手を葬れる攻撃を持っている。故に、所作、戦闘応酬の一手一手に詰碁のように慎重さを期す。最上位同士の闘いでは、一手を先に誤った方が敗れ去る。
「かと言って膠着状態でうだうだもしてられない。シノノメマツキが復活したら、今度は木偶じゃなくなるだろう。攻撃するなら今しかない。二対一の今が、絶好の好機」
ムゲンは更に刀身にオーラを注ぎ、一撃必殺に備える。勝算は九割を超えると彼女は確信している。カリスマによる刀身の攻撃は、相手のフィールドマジックを両断できる。その自信が確かにあった。しかし、それはあくまでも、99%の自信であった。1%を排除しきれない、シビアな現実主義、現場主義がそこにはあった。現実で闘う回数が1000回ならば、99%が外れる回数はおよそ10回程度。その10回が、死に直結するのならば、どうして攻撃できるだろうか。彼女はそう考える。1%でも50%でも99%でも、駄目なのである。100%の確信を持った攻撃、打算が必要なのである。現実主義、現場主義のムゲンは、それを理解しているからこそ、動けなかった。そしてオーラは、異常であればあるほどに、強大な能力へと発現しやすい傾向にもあった。ヴィクトリアの邪悪過ぎるオーラは、ムゲンはこれまで見たことも無い異質なものを感じ取っていた。
「どうしましたぁ?もう30秒はにらめっこしましたよぉ?まだ続けるのでしたらぁ。あっちでテーブルに座ってコーヒーを飲みながらでもやりませんかぁ?」
ヴィクトリア・ローゼス
究極闘気 ドレスタイプ 名前のない怪物
全ての攻撃を反転し絶対値に応じて反撃する。
フィールドマジック カバネリオブジアイアンフォートレス
対象を隔絶する空間を鉄の城の中心に設置する。対象は治療や攻撃する事もできる。
固有の奇跡 フォールン
対象を意のままに操る。