第四十六話 乱戦者
心が凍り付いてる、あまりもう何も感じないし、考えたくも無い。もうこれでいいのかと頭の中で考えてる。僕はただ船の甲板デッキに据えられた高そうな椅子に座ってるだけ。ビッキーが僕の頭を撫でている。頭がぼおっとしている。そうかと思えば、変な笑いが込み上げてきてそうな。あのお茶。もしかしたら、変なクスリが入ってたのかもしれない。
「エキスパートエリアに有志が作ったなんちゃってテーマパークのデズニ―ランドがあるんですよぉ。これから二人でお楽しみですねぇ」
うふふと言って笑う顔は最高にカワイイ。でも僕は、顔が、動かせないようだ。
「どこへ行くのかも。結局尋ねてくれませんでしたねぇ。言いませんでしたけどぉ。そろそろですよお。夢と愛のテーマパークですー。楽しくなってきましたねぇ」
「…」
霧の中、暗中模索のような感じで。ただ進んでく。一等航海士のビッキーには視界が無くても楽勝なのだろう。僕はただ、ついてくだけ。付属品の一種だ。オマケのようなものだろう。
「らんらんるぅらんらんるぅらんらんるーっ!」
なんでドナルドだよってツッコム気力も無くなってる。心と魂が、縛られてるのか。
「立てます?無理なら車椅子を借りてきますけどぉ?」
「立てない…」
「しょうがないなぁ。ほらほら。おんぶっおんぶっ男をおんぶっさらっておんぶっ」
歌声とともに、僕はおぶられた。首と肩にしがみつく。こんなシチュエーションありえないし、ひょっとしたら夢かもしれない。
「ぬいぐるみぬいぐるみっでっかいぬいぐるみぃ~」
鼻歌を歌ってる。
「貸し切りにしちゃいました!ダメなら皆殺しにしてパーティしたいなっても考えたんですけど、給仕が居ないと楽しめませんもんねえ。たのしーいーばいきんぐーはっぴーなばいきんぐー」
びっけかな?
「もうこのままの状態でアトラクションとか乗っちゃいますかぁ?それもいいですねぇ。落下してぺちゃんこになったマッキーを何度も再生してあげるのも、なんかシュール?っていうんですかね?それっぽくておもしろそーですよねぇ」
「そうかも」
ぼそりと呟く。心と魂が、やっぱりダメになってる。ビッキーの、能力か。超能力。持って生まれた異能。それが、効いてるのか。
大きなお城が見えてきた。先端が尖った煙突のような避雷針みたいなものが幾つも突き出るお城、まるでピーチ姫が中に居そうだ。坂道を、登ってく。
「しーしー大丈夫ですかぁ?なんてぇ。あー。最高ですねぇ。ずっとこの瞬間が、続くといいなぁ」
ウシジマ君かな?結局バッドエンドじゃねーか!
「マッキーも楽しいでしょー?健気な女の子におんぶされ、デズニ―ランドに入城。こんなことって、ちょっとやそっとじゃありえっこないですよぉ~?」
「…」
「聞いてますかぁ?まぁ。寝ててもいいですよ。どうせ絶叫マシーンに乗るつもりですからねぇ。あはははは。ははは」
楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「右腕もいでー。左腕もー。右足もー左足残して―。頭だけー」
絶叫マシーンどころじゃない歌詞が聞こえてきた。
「ずっと。ず~っとぉ。一緒にいれますよね。そうしたら。ずっと。ずっとずっと。楽しく暮らせますよぉ」
「…」
ふと、自分の首に重さを感じた。首に、なにかが。視えてきた。
「…く」
首輪が、実態を伴って僕にはめられてる。これ。もしかして。たった今。今この瞬間発現したビッキーの能力か。えぐ。グロテスク過ぎる。
「はーい。永遠パスカード二枚ぃ~」
「お楽しみくださいませ」
「どぉもぉー」
規則的な楽しいBGMが聞こえてくる。周囲の人の影は居ない。キャストはいる。ただ、お客は僕達だけか。
「現実でも、こうなるといいですね」
「…」
丸一日。ずっと椅子に座らせて。ここにやってきて、こうなったけど。いつの間にか。僕は。僕は…。
「…」
「ベンチに休憩して、舌を使ったストレッチしますかぁ??」
めっちゃ元気な声で言われた。ビッキー。ネアカだね。
「…」
答える気にも、なれない。全てが、ぼうっと。してる。ベンチに下ろされ、歪で奇妙で軽快なファンタジーワールドの中。僕とビッキーは向かい合ってた。
「…」
目尻から涙が垂れてくる。
「…」
だれか。
「…」
だれか。
「…」
助け…。
「…あ??」
凄まじい衝撃が走って、僕は地面に突っ込んだ。顔を上げた。
「ラウンドツーーっ」
「目標を肉眼で確認、これより殲滅する!」
ハートネット・ラフィアと、真っ赤な鎧の人が、居た。
「見てマッキー。キスよりも素敵なファンタジアバトルが始まりますよぉ」
首輪が、ぎゅうぎゅうに息が詰まる程締め付けられた。
「邪魔だよねビッキー。キスはお預けだ」
僕の声じゃない声が、喉から出た。これが、支配系の奥義。僕は完全に、操られてた。
「様子がおかしい。東雲の目の焦点が合ってないぞ」
「それよりも注意して。コイツ究極闘気出してる…」