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第四十五話 舌戦者

「…別に、マッキーの考えてるような事はしませんよぉ」


瞳孔が開いてる。オーラが明らかに異質な形状変化。雰囲気最悪。パチンコで大負けしたサークルのメンバーそっくりじゃあないか。世界を滅ぼしかねない。


「ビッキーがどうして何も喋らないのか。甘えてるだけ。ビッキーがどうしてこんなくだらない質問状を書いたのか。八つ当たりの矛先を探してるだけじゃないか。そりゃそうだろうさ。ビッキーの支配下は大空の下。僕はそんなところに留まってはしない。僕だぞ?僕。僕なんだぞ。君の遥か目上を行ってる僕。手に入らないのも当然だ。それだけじゃない。ビッキーは子供で、僕もそう。ずっと子供だった。これからは違う。ただ勘違いしてるだけ。同い年だよね?」


「ええ」


オーラが揺れない。動揺もしない。メンタル強いな。


「子供が恋愛とかどうかしてる。ヒトラーが言ってたよ。子供が子供を作るような腐敗した世界がやってくるってね。こーゆーこと。どーかしてる。寝てるビッキーに僕がムラムラきてから何かする事を期待してた?」


オーラが激しく波打ってる。すっご。こ。こ。こえええええええええEEEEEEE。


「普通だとか一般人の話なんかすることじゃない。死の五を言わず、この私に平伏せっ!」


凄まじい声量。声優になれる。唾もかかったし、怖い顔だし。


「人間そう都合の良いことばっかりじゃないんだよ。壁があったり、できないことがあったり、我慢しなくちゃいけないこともある。そもそもどうして僕なんだよ?普通の高校生がラッキーマンになっただけだってのに。生涯を共に過ごす伴侶はそんなんじゃ決められないでしょ!そこのところどうなの?」


「くだらない。欲しいか欲しくないか。物事で決めるのは、それだけ。シンプルなものなんですよぉ」


更に、オーラが重さを伴うように、色に濃淡が浮き彫りになってきた。


「できない事、したいけど出来ない事もあるんだよ。それを人生で学ばないといけない。トモダチだろ!!僕が教えてやるよ。そういうのは、違う。出来ない事だらけの人生なんだよ。人間はそういうものだ。我がままになっちゃいけない」


「そういうの、押し付けないでくださいよぉ。弱者の言い分です」


「違う。人生っていうのはそういうものなんだ。僕だけじゃないと思う。大勢が。そういう風にして生きてる。好きな人がいても、決して手に入ることなんてないんだ。そういうものなんだよ」


「手段を問わずに奪い取る。そのための人生でしょう?勘違いしてるのはマッキーです」


「そういうのもあるけど、人間は一人じゃ生きられないんだ。誰かの手が、必要なんだよ!!ずっとそうやって一人で生きていくつもり?」


「これまでもそうでした。これからもです」


「違う。そうじゃない。お父さんがいて、お母さんがいたでしょ。両親にそんな風に習ったの?」


「うちの家系の当主は日記を記します。当主は日記を書き、読む義務を負うんですよぉ。つまり、命の連鎖も、記憶の連鎖も繋がってる。私こそが、ヴィクトリア。貴方たちの言う人間社会とは隔絶し、超越している存在なんですけどぉ?」


「そうなんだ。でも。僕の前ではそういうふるまいは止めてよね」


「どうして?」


「もし。今後。脅すような事をしたら。ビッキーを殺す。それはどういうことだと思う?」


「…」


「最悪の事だ。ビッキー。死ぬってどうなると思う?殺すってどういう事だと思う?殺される立場になったことはある?」


僕も気付けばオーラを展開してた。結構。感情を剥き出してる。


「死ぬ?ありえない。殺す?強者の務め。殺される立場?弱者のことですかぁ?」


「全部君に当てはまる事なんだよ。ビッキー。この世の中には、言っちゃいけない言葉もある。しちゃいけない事だってある。やろうとすべきじゃないことだってあるんだ。人として最低限のルールを破ろうと企てる事すら。ビッキーは恐怖で僕を支配しようとした。僕は同じようにはしない。ただ、理解して欲しいんだ。今のビッキーは、正に、虎の尾を踏んでいるということにね」


「…それならそれで、きっとワルイ死に方じゃないかなぁ。精一杯生きるって、そういうことじゃあないですかぁ?」


「そうかも…」


絶対に納得しちゃいけない場面で、納得してしまった。男と女の違いかもしれない。


「現実で私はあの兵器の銃撃二発を引き受けました。知ってましたか?感謝されたくって、ずっとここで待ってたんですよ。二日間。ずっと。拷問にも近い。それでいて、他の女のため?冗談じゃない。本当に、冗談じゃない…!!!!」


オーラが爆発的に膨れ上がった。コーヒーカップが弾け飛んだ。


「この私を。この私を。ここまで虚仮にするとは。到底許されるものでは、ない」


「だったら僕を殴ればいいだろ。気の済むまで。いや。…ごめん。その償いは、する。銃撃二発も受け持ってくれたなんて、知れなかった。二日間はずっと追跡不可能な場所に隠れてた」


「一発を魂。一発を精神。一発を肉体。セントバーグのヒットマンの正体が分かりました。熾天使。合衆国の地下深くに封印された、正真正銘の神の子。どんな契約が行われたか分かりませんが、相当グロテスクなものが為されたでしょうねぇ。私が。守ってあげた」


「…」


死んでたのか?あの場面で。助けられたのか?ドラゴン変化状態でも。


「私が、マッキーを。救ってあげた。魂を。精神を。よって、私こそが、魂と精神を。その魂と精神は、私によって救われた。これは正真正銘の紛れも無い事実。おかげで、私の魂が半分。精神の三分の一を持っていかれましたよ。超過ダメージ。トランプルによって私が肩代わりした。マッキー。あなたは、この事実にどう向かい合いますか?」


オーラがぴたりと止まった。じっと僕の目を見てる。美しい顔だった。僕にはもったない。肖像画をずっと飾っていたいぐらい。


「…」


どうしようか。本当に。どうしようか。


「魂が半分になるって、どういうこと?」


「生きる気力が半分。少しずつ回復できればいいんですがねぇ。脳が上手に作動せず、憂鬱な気持ちになり易くなります。先ほどマッキーが仰られた通り、自分の意志がはっきりしない。何がしたかったのか。何をすべきなのか。時々分からなくなることがある。ボケてしまうような、怖さもある。当然あったものが、なくなった。心にぽっかりと穴が空いてしまったような。そんな気持ち」


男がここまでされたのなら。僕も覚悟を決めなきゃいけないだろう。


「本当に?」


「嘘とは弱者の持ち物。強者には不必要なもの」


「でも。どうして僕にそこまでしてくれたの?だって出会って、そう日も経ってない」


「…ディスティニー感じたんです」


初めて目をそらして、そう言われた。不覚にも、ちょっとカワイイなって思った僕がいた。


「僕を手に入れたとして、どうするつもり?ヴァミリオンドラゴンの力を使って世界を滅ぼすつもりなのかな?」


「まさか。そんな事いつだってやろうと思えばできます。そんなことより、デートがしたいです」


「えっ?」


「デズニ―ランドに行ってみたいです。Realにもあるみたいですよぉ」


「…行こうか」


船は進路のまま、進んでく。気が付かない内に借金してしまったような気分だ。気の遠くなるような返済期間に、僕は天を仰いだ。デッキの上に立って大海原を眺めてると、ビッキーが隣に立って指を絡めてきた。僕はなすがままだった。ちょっぴり興奮してしまった僕自身がなんだか情けなく、涙が出てきた。


「気分がとっても良くなってきましたよぉ…!」


僕は囚人の気分だ。僕の魂と心は、文字通りビッキーが握っていた。


「僕もだよ………」


声にならない声が、喉の奥から僕の意志とは無関係に出てきた。

「東雲末樹は今日も休みか。夏休み間近だってのに。はい。ホームルーム始めま~っす!」

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