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第四十二話 休憩する人

凍結されていた洞窟探検作戦が、僕達の発見によって再び始動された。防護スーツを着て、ツキコモリさん達の親族は続々と洞窟へと入ってゆく。ツキコモリさん達一族の秘密、月の住人であったという事実と、それに伴う埋没された未確認飛行物体の内部調査が慌ただしく始まった。僕はツキコモリさんとは離され、旅館最上階の一番良い部屋で色々な書類にサインを書きまくった。世界が根底からひっくり返るような発見を公言しないという誓約やらもろもろ。慌ただしく時間が過ぎていった。最初に洞窟へと出て、見守っていた梅田家に説明をしてから忙しく。


「…」


一日が過ぎて、もう一日が過ぎようとしてる。もう火曜日の夜。天気予報では夏にしては大雨らしいけど、この場所では雨は降らない。


「…」


ぼんやりと、もう既に封印が切られた洞窟を眺めるばかり。全容の解明がなされた今、この洞窟を二度と黄泉への道だと呼ぶ事はないだろう。


「…」


月面内部、地球空洞説と同じように、月面内部の空洞説は元々あった。それが真実で、月の内部の文明が既にもう崩壊しているという事実が、僕にとってなんだかショックだった。一体どうして。それを大人達はこれから考えるのだろう。


「行ってみようかな」


月に行ったと仮定して、それでどうなるんだろうか。政治的な問題や環境的な問題によって崩壊したのかもしれないし。誰かに破滅されたのかもしれない。誰が敵で誰が味方なのか、そもそも外野にとっては分からないし、そもそもこれは破滅なのかもわからない。ただ、SOS信号とか言ってたからこれは外部的な攻撃によって行われたもののように感じる。


「う~ん」


Real装置はおそらく、大分昔、あの飛行船がこの地に降り立った時に持ち込まれたものだろうと思う。気付けばあの遺体も無くなってたらしいし。レベルも250ぐらいだっけか。思えば、あのご老体と闘った時、それぐらいの強さはあったように思う。ヴァミリオンドラゴン第二形態の状態で、結構僕と善戦できてる時点で、むしろ僕の第二形態状態こそが、250程度のレベルだという事なんだろうか。通常状態のヴァミリオンドラゴンのレベル1299。これが大本。僕の中に宿ってるヴァミリオンドラゴンの力は、そこから1割、10%程度の力を引き出してるという事なんじゃないか。つまり、今の僕のマックスは。やれてレベル300ぐらいという事。


「レベル300かあ」


この数字が大きいか小さいかと判断するなら、1299に比べれば、大分小さい。スケールが小さい。東京ドームと公園に付随する集会場程度の規模の違い。けどまぁ。Realのスーパーパワーを現実に持ってきてる時点で、滅茶苦茶だという事は自分でも理解できる。レベル300って考えると、最強無敵圧倒的!!!みたいな感じにはちょっと思えなくなってくる。あのご老体のコピーであの強さなら、本物は多分もっと強い。Realなら比較できないけど、現実で闘ったらいい勝負するんじゃないだろうか。ただでさえ、この世界には、太平洋を超えた銃撃で僕のお腹に穴を空けるぐらいのとんでもないのがいるってのに。そう、世界はずっと進んでる。進んでるけど、今は珍しく、旅館の最上の一間で、ゆっくりと、贅沢な一人の時間をもらってる。まぁ軟禁状態みたいなんだけど、たまには、悪くない。最近ずっと落ち着けない毎日だったから、こう、休むとか、ちゃんと本当に眠るとか、結構大切な事だと思うし。


「にしてもReal…」


現在のRealの状態はどうなってるんだろうか。僕は変わらずマフィアのぼんぼんのドゥルーガの秘密小屋でログアウトしてるし。僕もPKしたくてたまらない連中も出てきてるだろうし。そーいや、大空の女王なんかも。一緒になんだかんだで行動してるし。せわしなく、動き続いてる僕の人生。


「露店風呂いこっと」


最高の温泉にゆっくりと、貸し切り。のんびりと、たまに聞こえるししおどしの音がたまらない。風流なものだ。高校生でこーゆーことやっちゃったら、大人になったら大変だなぁ。だとか、これからの未来について思いをせたり。思わず長風呂しちゃって、サウナに行って、くだらないテレビ番組をじーっと見てから、水風呂にゆっくりと入る。それからまた露天風呂に行って、部屋に戻る。


「今日は、伊勢海老の活き造りに和牛A5のお肉少しにサラダに黒豆、和菓子…」


手を合わせて平らげて、それからごろんと布団に転がる。幸せ過ぎて何も考えられない。ちょっと休憩。


「…」


誰かがこの部屋の鍵を開けたような音がしたので、目が覚めたらしい。


「…」


暗殺者だろうが、刺客だろうが、怖いモノは無い。今は機嫌だって悪くない。こちらからお出迎えしようと電気をつけて、僕の方からドアを開ける。時計では既に夜の三時。水曜日の午前三時。


「ツキコモリさん?」


「マッキー」


一瞬で爆発するような妄想で頭がいっぱいになった。しかしながら、僕は胸に刻んだ事は忘れてない。ケジメが、まだだ。


「はい」


僕の決意の決め顔とは裏腹に、ツキコモリさんに何かを手渡された。


「待ってるから」


「…うん」


Realの端末。すぐにツキコモリさんは出て行った。


「はぁ…」


Realが僕を待ってる。


「…ぁ」


何か白いものが挟まってる。白い手紙には、ありがとうとだけ書いてあった。


「…」


マックス全開、男はげんきんなものだ。目が覚めた。生きる力が漲ってきた。まだツキコモリさんの絶景の旅は、始まったばかりだ。


「潜るか…」


再び、ネットの殺し手達の中枢へ。

「マッキーから今日の夕食の写メが送られてきました」


「なんであんたに…。どれどれ…」


「お姉ちゃん、壊さないで、握りしめないで、壊れるから」

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