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第四十話 追いかけっ子

明らかに超人の域に到達してるご老体は、あぐらから立ち上がってひょこひょこと軽く運動した後にかなりの速度で走って黄泉比良坂、洞窟の注連縄をするりと抜けていった。


「…あ」


あっという間の出来事だった。


「マッキー!」


ツキコモリさんが僕に叫ぶように言うと、ご老体を追って駆けた。僕も同様にならう。


「おい!」


黄泉比良坂。おっかない雰囲気がヤバイ。心霊スポットの比じゃない。本能が拒絶するレベル。心がもう無理無理言ってる。それでも、意志だけが、燃えていた。真っすぐに。既に通ったツキコモリさんの後だけ見てる。スイッチが入ると、心も本能も燃え移ってゆくようにゴーサインが出る。今すべきこと、やるべきことが明確に理解出来る。そんな時、大勢の立ち尽くしているギャラリーの中で叫ぶ男性が居た。


「娘を頼む!!」


頷いた。僕も注連縄を飛び越えてゆく。


「…うッ!」


真っ暗闇。どこがどうなってるか分からない。が。しかし。


「…」


目を凝らす。オーラを頭に集中させる。五感を研ぎ澄ませる。よくよく視たら、確かにうっすらと魔力の残滓が視える。それどころか、この洞窟そのものが苔生しているせいか、オーラでその輪郭が視えてくる。この苔が、魔力を放っていた。これでほぼ、洞窟の輪郭は分かる。あとは感覚で、研ぎ澄ました五感で。


「よし!!!」


走った。オーラが拡充されてる。やる気十分。あんなファンタスティックなバトルの後だ。ウォーミングアップは十分だってわけだ。オーラが、かつてないほど、ほとばしってくる。それに伴い、洞窟の道、砂利、魔力を発しない石すらもどこに何があるのかが分かってきた。


「ツキコモリさん!」


洞窟に僕の声が響く。どこまであるのか。一番怖いのは分かれ道が出てきた場合だ。それが複数枝分かれになってた場合、怖い。最悪迷ったら出られなくなってしまう可能性だってある。それでも、走る。幸いな事に、コウモリやらモンスターやらは居ない。動物も居ない。今のところは。


「っく」


一本道を走る。途中から、下り坂になってきた。正に、黄泉への道といった感じ。


「う!」


一瞬躊躇するが、それでも走る。どれだけ走ればいい?あのご老体は体力化けモノだった。あの戦闘で息すらあがってない超人。あれぐらいになるお、丸一日ダッシュでも疲れないんじゃないか?いや。そもそも、一日二日とかかかったり、更に日数が…。


「っく!」


どこがゴールか分からない真っ暗闇の洞窟を、ただひたすらに、ノリとテンションだけで駆け抜けてく。テイルズじゃないか。半分泣きそうな気持ちの中、それでも勢いだけ。それだけで体を動かしてる。怖さもビビりも置いていこう、とりあえず。幸いなことに、これまで一本道。


「まだ二分ぐらいだってのに…」


もう、頭の中が、闇に支配されかかってる。どうかなってしまいそうだ。怖過ぎる。


「足跡!」


ツキコモリさんの足跡がかすかに見えた。というよりも、オーラの残滓か、通った後が分かった。


「ツキコモリさん!」


洞窟に僕の声が響く。


「マッキー!」


ツキコモリさんは、前を走ってる。追い付いた。


「いた!」


爺さんもダッシュで駆けてる。走り方が、近代運動のそれとは違う、独特のフォームで走ってる。


「ひょひょ~」


後ろをちらりと見る動作をしたってことはなんとなくわかった。それから更に速度を上げてく。


「ツキコモリさん大丈夫!?」


「大丈夫。お爺ちゃんの動きを見てるから」


そーゆーやり方があるんだね。


「マッキーも瘴気は大丈夫みたいだね」


「え?あっ。そーだね。全然問題無し!」


さらに突っ走る。30分ぐらいは走ったんじゃないかってところで、光が見えた。


「うっ」


大きな広間に出た。そこでは水晶やら鉱石やらがあって光り輝いてた。水の音もして、見ると地下水路が流れている。そこで小屋みたいな小さな建物があった。まばゆい光の下、小屋に近づくと、確かに本当に石造りの小屋。


「ひょ~。ひょっひょっひょ!」


爺さんはその小屋へと入ってく。僕も追って続く。


「!」


昔ながらの簡素な山小屋みたいな作りをしている中、干からびた遺体があった。


「お爺ちゃん…」


「…」


寒気を覚えた。この遺体。なんで。


「Realの端末じゃないか、これ…」


「…そうみたい」


なんでこれがこんなところに。ってゆーか電源は!?見ると輝く鉱石が複数個あってそれに繋がっている。


「私達のReal装置よりも少し形が違うね」


「ひょっひょっひょ」


「相変わらず爺ちゃん居るし、どーなってんの!?幽体離脱でもしてるの!?」


二人を比べっこする。確かに同一人物っぽい感じがする。


「ひょっひょっひょ!」


ご老体はひょこひょこ動きながら指をさした。


「紙が置いてある」


「古語だね」


「読める?」


「瘴気漏れる原因を排除すべく健闘している。後世のものが来るのなら…」


そこでツキコモリさんが言い淀んだ。


「なんて…書いてあるの?」


「これ、ラテン語かな?英語?信じられないけど」


「うん。読んで」


「Realサーバー999999、新緑の迷宮炉にて待つ。現在レベル255なり」


「えーっと」


「うん」


「サーバーって一つだよね」


「そう」


「異世界のサーバー?ってことなのかな。レッドラインの超えた先。他のサーバーへと移動できる」


鳥肌が立った。Realの正体が、なんとなくわかってたものの、一体、どれだけの宇宙があって、どれだけの世界があって、どれだけの地球外生命体が存在するのか。


「そうかも。お爺ちゃん…」


「ひょっひょー!」


「この人が、私より前の150年前の巫女なのかもしれない」


「なんだって…。今は爺さんを追おう!」


再び変な動きをして走り出した。大広間を抜け、再び暗黒。しかし、魔力を帯びた植物が更に自生しまっくてるせいか、前よりも走り易い。


「ひょっひょっひょ!」


更に追いかけっこが続く。幻影を。一体、この先に何があるのか。

「ようやく、追い抜いたか」

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