第四話 初心者ととっても上級者のパーティ
身長はおよそ僕の腰の高さ。小人というよりも珍獣といった方が正しいような全身を白いもこもこで覆われてる自称エキスパートのバベリオット・ミルフィーは僕達をじろじろと見てから、ため息一つ。
「とりあえず装備を整えるところからですね~」
このモコモコ野郎はそんなことを言い放った。
「えーっと。確かRealは基本、装備した武器にジョブを依存するんだったっけ?」
そういう初歩的なものは知ってる。
「そう」
「ですね~。だからなんでもいいので武器を買いに行きましょう~」
だからの接続詞が機能してない。Realのバグかな?
「あのね!そういう大切なことは!冒険しながらゆっくり決めてくのが大切なんだよ!人からぱっぱっぱっと急かされて決める事を強要させるもんじゃあないんだよっ!」
「サクサク決めてください~可能であれば今日中にレベル20まで上げたいです~」
「そんなに上がんの!?」
「大体1から5まで上げるのが一日で、5から15まで三日間、15から20までは一週間ぐらいかかりますね~。月刊Realの推奨冒険道中のススメでは~」
「一週間以上かかんのにそれを一日でだとかスパルタ過ぎでしょ!言っておくけど、ツキコモリさんの目的はあくまで観光なのです!レベリングじゃあないんだよ!ゆっくり流しながらロードムービーやってくのがRPGの基本でしょ!?」
「絶景ポイントを探すから、いずれにせよレベル上げは必要。それを言えるだけの算段があるの?」
「私滅茶苦茶強いですから、強制的にレベルアップさせまくれますよ~。業界用語でこれを『養殖』といいます~」
「お魚じゃないんだよ!」
そして最後に白いもこもこ野郎に食い殺されるわけか。うまいなぁ。って関心してる場合じゃない。
「わかった。マッキー。この人に提案に乗るだけ乗ろう」
「そ、そう?ツキコモリさんがそういうならいいんだけど…」
「時間が短縮できるなら、それがいい」
「じゃあ決まりですねマッキ~」
もこもこ野郎もマッキーと愛称呼ばわりか。なんか先生にあだ名で呼ばれた気分だ。まあ…。いっか。旅は道連れ。世は鬼だらけ。
「マッキーがアタッカーやってとりあえずモーリーさんはヒーラーでいいんじゃないでしょうか~」
モーリー!?
「それは嫌だから逆がいい。マッキーヒーラーはどう?」
「オッケー。ヒーラーやるよ。決まり」
「…ふ~ん。なるほどなるほどなるほどです~。なるほどな~」
口に手をやって、もこもこ野郎は僕の傍に来て、ネトゲ恋愛はキモイですよ~と耳打ちされた。ここは僕はあえてのスルー。こういう煽りは小学校の頃に鍛えられた。平然。そして平常心。心の平穏無事が大切なのである。
「ミルはジョブは何なの?」
ミルか。もこもこ野郎よりは呼び易いですね。でも僕はそんな愛称で呼んだりしない。そういうのは親しくなってからであるべきなのだ。
「弓使いのアーチャーですよ~。純火力特化ですね~。最大風速ならトップレベルだと自負してます~」
「凄いね」
「初期組ですからね~」
「ふーん。長いんだ」
「ですよ~。私クラスが直接指導となると、一時間1000ドルは下りませんからお二人はとてもラッキーですよ~」
「はいはい。でも、装備を整えるって、僕達そんなお金持って無いよ」
「どうせ私がマッキーのシークレットレアを奪うので、奢りでいいですよ~」
「前置きは置いておいて、他人に奢ってもらうっていうのは宜しくないかな」
なんか僕も大体このミルフィーなる存在とのコミュニケーションも板についてきた気がする。こんな風なのって、なんか新鮮だ。
「じゃあ貸しでいいです~。レベル上がれば低レベル帯ぐらいはすぐに稼げるようになりますよ~」
「貸しか」
「まぁ気が向いたらでいいです~」
「いいのかな…」
ツキコモリさんも貸し借りには慣れてないようだ。僕もあんまりいい気がしない。
「ジュースが切れましたね~。おかわり欲しい人~?」
僕達三人は仲良くちょっと高めの滅茶苦茶美味いジュースを飲みながら装備屋の暖簾をくぐった。奥の店主のつるぴかのスキンヘッドが見えた。しかも頭部いっぱいに入れ墨まで入ってる。おっかない。絶対一人じゃ帰ってた。かなり高確率。
「…」
武器、装備品一式を取り扱っているというだけあって、壁に立てかけられたハンマー、ソード、それに滅茶苦茶どでかいライフル銃みたいなのもある。隣の陳列棚には水晶やカード、ナイフ、使用用途の分からない金属まである。奥にはそれぞれの装備一式がマネキンに飾られてる。値札は見なかったことにした。
「RMTできるので、お金持ちは直接高級武具を購入したりするんですよ~。まぁスポーツカーより安いですからね~」
「ごめん。その感覚よくわかんない」
今なんて言った?スポーツカー?わけがわからないよ。
「とりあえず、簡単なちょっとした武器だけ購入させてもらっていいのかな?」
「別に奥のマネキン丸ごとでもかまいませんけど~」
「ないよ!他人様におんぶにだっこなんてありえないからね」
マネキンにかけられてる値札を見ながら思った。もう既に主導権を握られているかもしれないのは多分でもって気のせいである。
「私、この中古」
どこからどう見ても血がついた長剣である。刀身が黒ずんでる。ちゃんと洗って油を塗るぐらいのメンテナンスとかないのか。生々しくてぎょっとするよ。
「お目が高いですね~。それ当たりです~」
「よくわかんないし僕は安いのでいいや」
僕が言うとミルフィーは僕の前に飛び出して首を横に振った。
「装備品一つとっても奥が深いんですよ~」
「へぇ?」
「装備品にはそれぞれ耐久度、練度が存在します~。使い続ければその分、手に馴染んで強力な武器になったりするんですよ~。もちろん修理をして耐久度を常に壊れない範囲に留めます~。ずっと使い続けた武器はそれだけでも付加価値がついたりするんですよ~」
「へぇ」
基本的に初期の装備は最低限度の身だしなみってやつだ。欲しい装備品を強いて挙げるならば、世界で一つだけの伝説の装備品とかだろう。手に持って構えるだけで効果音がでてきそうなやつ。
「まぁ。次の目的地がイースターヴェルらしいので、そこで買い替えるのがベターだと思いますけどね~。ジョブも好みに合わせていろいろやってくのがいいですし~」
「なるほどね」
まぁヒーラーやるのは確定してるんだけど、ヒーラーもいろいろ種類があるみたい。
「練度は服やアクセサリーにも適用されます~。更に言うとペットや召喚獣といったものにもですね~」
ぴく。このへん当たってる。ふと目が合った。今気付いたけど、もこもこ野郎は僕の目をしっかり見ながら喋ってる。観察されてるみたいだって思ったけど、実際のところ、かなりの見当をつけられてるのかもしれない。
「ふ、ふ~ん?」
「召喚獣やペットだと、特定の練度が上がったり、また特定の練度が足りない場合は使用できなかったり、言う事きいてくれなかったりもするんですよ~。信頼度が必要なのは現実に即して面白いですね~」
「そ、そうなんだ~。ためになるなー」
ヴァミリオンドラゴンを召喚しても言う事をきいてくれないかもしれないのか。
「…」
高く積み上げられた武器の数々。すすり泣いた後の果て。闘いの本質と末路がジャンク品として売られていた。その一振りには一つの勇気が、この傷跡にも一つの勇気が。僕達現代人には決して手の届かない原始の世界が広がってた。かつての覇者は、暴力だった。今はどうだろうか?少なくともこの場所には。プレイヤーキラーも月刊Realでインタビューを受けていた。腐敗と暴力と、それから自由の世界か。
「初期装備はずっと続けて使おうと考えずに消耗品として考えた方がいいですね~。装備品には耐久度が決められてて摩耗してくんですよ~。高レベルの戦闘応酬じゃ武器破壊も戦術の一つですね~」
マンガの主人公みたいなドデカいぶっとい剣を振り回せたら気持ちいいんだろうな~。物騒極まりない長物を眺めながらそう思う。でも、こんなの人に向けて攻撃するとか僕にはムリだなぁ。う~ん。いろいろあるなぁ。どっかーん、どでーんとか、すっごい効果音つきそうな武器ばっかで心が躍るなぁ。
「目移りしちゃうなぁ~」
「そっちじゃなくてこっちですよ~。ヒーラーさんは~」
そうか。思わず、どでかい斧とか宝石のついた剣とか曲がった黒い剣とか、現実ではお目にかかれない武器を見てしまってた。これ全部人殺し用の道具だって考えると、結構すごいよな。FPS系の戦争ゲームとかやってても重火器では感じ取れない、生々しさがある。鉄と血、汗の臭い。グリップには手垢と微細な傷。よくよく考えたら、こういう大型の斧を持って、振りかぶって他人の頭にフルスイングできるって、VRMMOって凄いなぁって思う。成人指定推奨も納得だ。にしても、こういう刀剣で人間の部位を切り刻んだりって、僕にはなぁ。
「じゃあこっちで見繕いますね~」
「あっ。えーっと」
お母さんかよ!
「ありがと」
「簡易な白ローブと大きな杖ですね~。白いローブは集中力を格段に高めてスムーズな魔法の行使を可能にします~。大きな杖は持ち運びと傍目から武器が丸わかりなデメリットがありますがモンスター相手にはピカ一ですね~」
「そうなんだ。そーいや僕でも魔法使えるの?一応レベルは3になってるんだけど」
「訓練クエストをやれば詳しい事まで身に付きますけど私がいるので指導しますよ~」
「ありがとうございます」
見た目がプレイヤーキラーのよくある敵キャラで、物騒なキャラクターデザインなら要警戒はわかるんだけど。このペットみたいな見た目幼児ぐらいの身長で愛らしさが全面に押し出してるもこもこには、ちょっと気を許しちゃう。
「魔法とか使えちゃうのか…」
きょろきょろと店内を余すところ無く眺めていると、ギャグが一つ思い浮かんでしまった。
「…」
思っても実行しない。考えても発言しない。分かっても手を挙げない。これまでの僕だったけど、何かが変わるかもと思ってRealを始めたんだ。もっと仲良くなりたいし、ツキコモリさんともこもこ野郎にはお世話になるんだから…。
「一発芸いいかな?」
「どうぞ」
「かまいませんよ~」
恥を忍んでお披露目致そう。これがRealデビューの東雲末樹だ。世界よ、覚悟したまへ。ホッケーっぽいマスクとマチェーテを手に携えて。
「13日の金曜日」
渾身のギャグ。M1予選ぐらいいけるんじゃあないかっ!?
「かなりおもしろい~超うける~」
「へぇ」
ツキコモリさんスルー。無表情。顔が変わってない。まさかのスルー。ミルフィーさんにも刺さらなかったようだ。既に防具品に目をやってる。
「ちゃんと元の棚に戻しておいてくださいね~。それから支払いを済ませるので必要なものをカーゴに入れてから店先で待っててください~」
「マッキーいこ」
「うん」
何か、失ってはいけない大切な何かを失った気がする。心が、とっても痛いよ。悔しいから涙はこらえた。スルー8割9割。欲を言えば、もうちょっとリアクションして欲しかったんですけど。
「お支払いをお願いします~」
店を出てからミルフィーさんのお会計の声が聞こえてきた。会計の段階になってから、なんだか悪いナと思った。下心と今後の裏切りルートが確定しているとはいえ、お世話になってるんだからこれからはミルフィーさん付けで呼ばせて頂こう。
「ねぇ」
「なに?」
「13日の金曜日ってなに?」
「ホラー映画でフィクションのクリスタルレイク湖を舞台にした血まみれアクションサバイバルホラー。ちなみにさっきやった渾身の一発ギャグは殺人鬼のジェイソンのコスプレ」
自分でやったギャグの解説を自分で行うという悲しい業を背負いながらミルフィーさんの会計を待つ。ゲームも映画もホラーは大好き。
「ホラー映画、嫌いなんだ」
夜のとばりが降りてくる。街並みがオレンジから薄い紫になってゆく。ほんの2メートルの位置でも、ツキコモリさんの顔はもう見えなくなった。だから。だろうと思う。さっきまでのどこかテンポの外れた勢いでもって。
「今度そのシリーズの新しいのがあるんだ。フレディVSエイリアン。今度の舞台は月面だって」
「ちょっと興味があるかも」
予想を超えた反応が返ってきた。夜がやってきた。夜。どうしてだろうか。夜が僕を大胆不敵にさせた。
「今度一緒に観に行く?」
「…」
勢いのまま、言ってしまった。半ば本能的に。半ば盲目的に。後先も考えず。
「時間が合えば」
少し経ってから言われた。それを言われるまで3秒ぐらいだっただろうけど、僕にとっては五分にも十分にも感じていた。人間の持つ潜在意識。ディスティニー。ユニバース。すげぇナって思った。こんな展開ファンタジー。
「お盆前ぐらいかな」
「…いつでも時間作るからさ」
何も考えてないし、何も感じていなかった。ただ、全身で夜の到来を感じ取った矢先のワンシーン。ふとした出来事だった。静かなる静寂の衝撃が全身を駆けてゆく。
「もうすっかり暗くなってきましたね~」
ミルフィーさんが店から出てきた。もこもこの白い手には、カードの山が積まれてる。僕はまだ震えていて、ワンテンポ遅れてから生唾を飲み込んだ。
「これがマッキーの分でこっちがモーリーの分ですね~」
ありがたく頂戴したそれぞれのカードには、イラストの上に名前が書かれてレアリティ、耐久度、加算される効果などが書かれていた。心臓に痛みを感じた。早鐘を打っていたのか。僕史上最大の心象風景が、僕に痛みをもたらしてる。なんでデートの約束なんて。一体僕は。
「なんだか、悪い、かな」
ミルフィーさんにお礼を言わなきゃ。
「この人はマッキーを殺して奪おうとするのが目的。だから気兼ねなく利用する」
涼しい顔で言われた。相変わらず凄い事言ってのけてくれる。ちょっとそのライオンハート僕にも分けてくれないかな。ツッコミたかったけど、今はとてもツッコミを入れるコンディションじゃなかった。あと20秒ぐらい時間が必要だ。
「おやおや。バベリオット・ミルフィーに会えるとは。奇遇だね」
唐突に、斧を担いだ2mを超える大柄の影が僕達の前に立ちはだかった。ミルフィーさんの知り合いか?っていうか大きい。こうまで大きいとかなりの迫力がある。
「ヴィットリオ・マレーゼ君こそ、こんな初心者のお店に何の用ですか~」
「シチリアのぼっちゃんがついにRealをやるって決めてね。ドゥルーガまで一息だ。装備品を買いにだよ。まったく。青い砂浜、最高に心地よい風、美しい女、コーク!それに飽き足らず、こっちじゃクリーンだからっつってな。結局、今時のボンボンはラりる事しか能がねぇ!まぁジジイの…」
僕とツキコモリさんをそこで一瞥した。
「…」
「大変ですね~頑張ってください~。行きますよ~」
「いやいや。折角なんだ。ランカーのミルフィー。ディナーでもどうだ?ここでもVIP席じゃ舌を巻く料理が出せる。奢るぜ?連れも」
「結構ですよ~。行きますよ~」
「あっうん」
「まぁ待てって。俺はこういうもんだ。ビジネスの話ならなんでも相談してくれ。特にコークじゃ俺らの右に出るものは居ねぇ」
そう言って手を差し出された。名刺だろうか。カードが握られてる。
「あっどうも…」
「行きますよ~」
僕が名刺を受け取ろうとした瞬間、物凄い勢いでミルフィーは僕の右手を弾いた。
「時間が無いんです~それじゃあお坊ちゃんに宜しく~」
そう言うと僕達二人の手を掴んでミルフィーは凄まじくとんでもない早歩きで進んでいった。
「PKの常套手段なんですよ~。名刺を取ろうとした瞬間、無理やり握手をしてフレンドになろうってのは~。握手ぐらいの超近接まで接近するのは本当に友達になりたい人だけにしましょうね~」
「そ。そんなことなんで!?」
更に速度を上げて歩き出す。四限終わりの学食に向かう学生ぐらいの速度だ。
「一目でマッキーが東雲末樹だと予想したんですよ~。この調子だと、面倒事に巻き込まれそうですね~」
「じゃあすぐ向かお」
既に夕闇。そんなところで僕達三人は何故かしら走っていた。ファンタジーのおとぎ話の始まりの街を、今がハイライトかってぐらいの速度で走ってた。薬屋、パン屋に、アクセサリー、露店に、階段。闇に飲み込まれそうな頃合い、ぽつりぽつりと街灯が煌めき始めた。夜の時間にガラス細工の照明が煌めく。
「馬車で向かいますよ~」
町の出口には、初心者の町に不釣り合いなほど馬車が停まってる。中にはどでかい翼を持った動物の馬車すらある。どこ行く用だろうか。
「どこまでだい?」
大型のかごを背に乗せた動物が居た。デカい。馬が二匹?馬のような生物だ。これはきっと馬車なのだろう。
「イースターヴェルまでお願いします~」
夜空の星空の下で、僕達は急ぎ足で馬車に乗り込んだ。馬車で揺られて、町を脱した。
「アニメ映画じゃないんだよ」
言いたいことはため込む僕だけど、ここは言わせてもらうことにした。
「ここから乗り物を使って街へ向かうって大丈夫かな。本来なら進みながらこつこつレベル上げてくものじゃない?」
「マッキー。心配してるようだけど大丈夫。私達がレベル20にならない限りは殺されないし、イースターヴェルはスタンダードクラスだから、低レベル帯でも心配いらない」
ツキコモリさんが言ってくれた。この子、ひょっとしたら僕より頭がいいのかもしれない。
「先ほど出会ったプレイヤーは現実でもマフィアをしてる危険人物なんですよ~。そして一目で私の目的とマッキーの正体を看破されちゃいました~。粘着される前に距離を離しますよ~」
「え?」
まさか。
「ありえないよ。一目で?…ないよ」
「スターの私が初めのタウンで初期装備丸出しのルーキーに装備を買い与えていた~。それも日本人の男の子をってだけでもう決定的ですね~」
「そんなわかんの?」
「決めつけるのがマフィアですからね~。とりあえずルール作りとマウント取りが常套なんです~」
「はあ…。っていうか、そんなわかんの?かなぁ…」
「結構、こういう事には慣れておかないと~ですね~」
「そっかなぁ…」
「死にますよ~」
「…」
「こういう事初心者の方に言うのもなんなんですけど~」
「ど、どうぞ」
「これから先はこういうのが日常茶飯事なんですよ~。もっと言えば連続します~」
「そ、そうなんだ?」
「出会ったプレイヤーがどういう人物なのかを即時で判断しなければなりません~。プレイヤーキラーなのかまたそれに準じるものなのか成りえるのか~。例えばPKだった場合運良く殺せてもすぐに次の接敵を想定しなければなりませんし~。白文字のフツーでもこっちがダメージを負っていた場合、殺しに来る事も珍しい事じゃありません~。一人殺しても次が~。その次の次も~。特にダンジョンといった限定環境下では果てしなく自問自答が続く感じですね~。まぁ運よく私から逃れたとしても~。次のプレイヤーキラーが現れちゃうんですよ~」
「ゲームみたい」
「ゲームだよね!?」
「ゲームでしょうか~」
外は夜がどこまでも続く。知らない星座の星空に流れ星、流星群と続いてく。怖いぐらい。
「…」
まぁいいか。うん。オーケー。それぐらいの気持ちでやってないとVRMMOなんてやってらんないのかもしれない。元々棚からぼたもちだし。それに、一番はそっちじゃない。今はツキコモリさんの願いにかなうように行動するのが一番だ。それが一緒にパーティをしている理由なのだから。
「…」
この装備品の代金だっていつか返せばいい。本人がそれでいいって言ってるんだからいいんだろう。
「ねぇ。さっきの現実マフィアとかって、冗談だよね?」
「マジですよ~。事態は既に十代の青少年がどうこうできるものじゃなくなってますよ~」
「マジか」
「ですです~」
「でも特に問題はないかな」
「…」
もちろんLv1299のヴァミリオンドラゴンは表に出したくない。プレイヤーキラーも、強いボスキャラも、難しいクエストだって、そんな不条理に飲み込まれるのは気の毒に思うからね。
「まぁそこまで追い込まれる事もないだろうけどね」
ちょっとでも僕を追い詰めようなんて考えるやつがいるのなら、多分そいつは後悔することになるだろう。またやってやろうなんて考える事もなくなるはずだ。窮鼠猫を噛むって言葉がある。弱っちいやつが追い込まれて追い込まれて反撃に出るという言葉だ。でも、どうせ今後、僕を攻撃してくるヤツはいやおうなしに出てくるんだろうなぁ。その時、手加減できるか正直自信が無い。
「やれやれ…」
「…」
ミルフィーは僕を見て一言だけ言った。
「中二ですか~?」
「高一だよ!」
見失った…。確定的だな。
「俺だ。シークレット賞にいくら出す?」