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第三十六話 導かれた男子高校生

「着いたで」


木造多層建築というのだろうか、四階以上にそびえる立派な旅館のような造りの建物。屋根は煌びやかなきらびやかな飾りつけをされた大鐘楼のようなものがある。更に先には日本庭園のようなものまで見える。


「今はシーズンオフやさかい、お客さんあんまりおらんちゃうかな」


「てっきり秘密基地みたいな秘匿性の高い場所だと思ってました」


「そやで?日本には意外とわけわからん場所みたいなのがあるんや。そこの守り人、世界基準でいうゲートキーパーっちゅうやつの保養所にもなっとる。温泉も格別でな。この湯葉や蕎麦なんて食うてみぃや。他の食べれんごてなるで」


過剰過ぎる駐車場に停める。


「ここ広いやろ?世界が終わっても、ここで再建できるようなとこやで。監視カメラに死角は無いから立ちション禁止や」


「しないですよ」


「ケータイの電波はもちろん、他の魔力感知にも引っかからない地球のダークスポットの一つです。ここまで来れば、隔絶地域になります」


「ありがとうございます」


「君は客人として迎えてくれ言われてるから運転したけど、次はないで」


どういう返事をすればいいのか分からない。やっぱりこの距離の詰め方と感覚が分からない。


「…」


「じゃ。ついてきてや。ここは地獄の一丁目やで」


地獄。ビッキーの予言はここか。この場所なのか。ここが、地の獄なのか?


「…」


駐車場から進んで小さな庭園を抜け、建物に入る。置物やら焼き物、タヌキの焼き物に立派な照明。一流旅館の玄関だった。


「そこに100円で出来るクッキー占いあるけど、賞味期限切れとるから注意してな」


「代えてくださいよ」


玄関を抜け、立派なラウンジを抜け、ダイニングを抜け、エレベーターへ。とんでもなく古そうなエレベーターに乗って、最上階のボタンが押される。


「巫女ちゃんに会うたらな」


「…」


「プロポーズしぃや」


「お付き合いさせて頂いてから考えます。離婚したら子供が不幸です」


「…言うねぇ」


エレベーターから降りると一番奥の部屋に通され、カードキーを渡された。


「冷蔵庫の中のものは好きにしてもええで。監視カメラはついとらん。やろ?」


「聞いてないっすね」


「パソコンあるけどわしらがチェックするからエロいのは止めとけよ。マスターベーションに不自由するかもせぇへんけど、こればっかりはしゃーない。どーしてもゆーたら、わしらの貸したるから言えよ」


「ツキコモリさんに会いに来たんです。遊びにきたんじゃない」


「内線の電話は出てください。番号の確認も。食事は運びにきますので。必要なものは全て用意します」


「それじゃ。ごゆっくりぃ~」


ドアが閉められた。


「はぁ…」


やっと一息ついた。やたら疲れた気がする。シャワーでも浴びようか。どうやら滅茶苦茶立派な部屋をあてがわれたようだ。壺とか床の間とか掛け軸とか生け花とかもある。立派な部屋だ。あっちは洋風か?和洋折衷か。


「うわぁ…」


こーゆー部屋には、こーゆー時じゃない時に来たかった。完全プライベートで。


「っていうか、ツキコモリさんはあの人達に何て言ったんだろ」


そして、どう思ってるのやら。ツキコモリさんはあの出鱈目な攻撃手段を用いた暗殺者から身を隠すための場所を用意してくれるという事だった。でも、あの黒服達はどうやら、僕をツキコモリさんのボーイフレンドとして捉えてるようだ。おそらく、Realで出会った恋人みたいな感覚なのかもしれない。いずれにせよ。ツキコモリさんの事が分かって良かった。暴力で解決する問題なら、僕にとって造作も無いことだ。探検?冒険?君の笑顔を救えるなら、いくらでも頑張ってやるさ、いくらでもね。そうじゃなきゃ、男に生まれた意味が無い。


「…」


目線を上げた。大きな見事な大藤棚が素晴らしく咲き誇っている。人工の照明に照らされ、美しく輝いていた。


「すっご…」


目に留まったのは、その大藤が隠すように存在してるいびつな洞窟。神社とかであるような縄が幾重にも張られている。あれが、いわゆる、黄泉と呼ばれている洞窟なのだろう。実際の黄泉の比良坂は確か鹿児島にあったと思う。日本神話における、イザナギとイザナミの物語が最も有名だ。死んだ奥さんを死後の世界から連れ戻そうとした旦那さんの物語だ。腐ってても蛆が沸いても奥さんなんだから、連れ戻すべきだと思うけど、神話の肝はそこじゃない。死者を蘇らせるべきではないという話だと思う。


「…」


それにしても、見事な大藤。っていうか藤棚ってこの時期だっけか。藤棚といえば、やっぱり河内藤園。九州の福岡県北九州市にある、大手メディアには絶対取材させない知られざる藤園だ。日本一だと思うけど、マジで知られてないせいで逆に海外の観光客の方が多いんじゃないだろうか。


「いいなあ…」


「マッキー」


「うお!」


呼ばれた声の方へ向いた。デカいテレビの置かれたデカいソファに和服の女性が座ってた。


「…ツキコモリさん?」


そのまんま。お人形さんみたいな美人に長い黒髪。マジかよ。マジか…。血圧が上がってきた。心臓が脈打ってきてる。手に汗がにじんできた。


「ここに居れば………安全だから」


「ありがと」


「…」


「…」


「…」


「…」


なんて言えばいい、どうすればいい、何を話せばいい?伝えたいことだって山ほどあるのに、言葉が出てこない。頭が真っ白になって、口が動かせないっていうか、むしろ動かないし。


「…」


「…」


男が生まれてきた理由が、誰かを愛するためだとしたら、今がその時かもしれない。


「…」


「…」


うッ。一瞬ノイズが走った。あの姉妹の顔が、脳裏をよぎった。まるで僕がこの瞬間悪い事をしているかのような錯覚に陥った。そうか。気持ち悪さ、車酔いの正体がなんとなく分かった。罪悪感。まるで、僕がモテモテの人間のような…。いや。待て。まてまて。真実から目を背けるな。僕は確実に今現在、好意を寄せられてる。彼女達の決着も無しに、ツキコモリさんとの交際が始まって良いものだろうか。一言、強い一言でもって、彼女達に対して宣言しておかなければならないのではないだろうか。宙ぶらりんのまま、好きでいてもらってる事は、罪なことだ。


「…」


だから、それまで、絶対に手を繋いじゃダメだ。ずっとそう思ってた。改めて心に刻もう。


「…」


「…」


例えそれが、どれだけドラマチックで劇的であっても、ケジメは必ず必要だ。


「あの関西の人から話は聞いた」


「…そう」


「僕がなんとかするから心配しないで」


「…」


「その後、暗殺者をなんとかしよう。それが終わったらさ」


「…」


「映画でも観に行こうよ」


「反応消失。ラグがありましたが、作戦は完了しました」


「ターゲットは直前に跳んだ。そのままで居れば、数千、数万の犠牲者が出るはずだった」


「赤い空も気にかかる。念のため引き続き監視を」

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