第三十四話 関西の人
女の子から言われてみたい台詞第一位。いやトップ3、いや第三位。『私の家に来ない?』大体、聞き飽きる程の体験をゲームでやってきた身として、実際耳にするとやっぱり違う訳で。
「…コぉ」
脳みそのどこかが作り替わる音が聞こえた。男の子からちょっとレベルアップしたような。もしくは大人へと階段をワンステップ上がったような。
「い、生きてて良かった…!」
全身の血流が激しくなる。脳みそからセロトニンやらノンアドレナリンやらいろいろと出てる。生きてきた中で出てこなかった脳内麻薬成分が間違いなく放出されてる。孤独では絶対に得られない人体の不思議を今、僕は体感してる。生まれ落ちてから初めての体感。喜びに満ち溢れる一瞬。
「うおおおおおお」
たった今胸にぽっかり穴が空いて死にそうっていうか死にかけたところすらも、既に過去として過ぎ去れって忘れかけてるぐらいの衝撃。
「くゥ!」
拳をぎゅっと握りしめたところで、固定電話が鳴った。
「っていうか、小林さん達居ないし、ちゃんと学校行ってるようで良かったな…」
受話器を取るとサークルのリーダーからだった。
「お!ちゃんと生きてるじゃん」
嬉しそうな声がした。
「僕が死んでたらどーすんだよ」
「一応全員分の占いはあるけどさ。予知ってのは後出しが利くもんでね。最悪起こしに行くから大丈夫」
「ゲームの床ペロ感覚で物言われちゃ、しょーがないよね。まぁとにかくありがと。いろいろと」
「感謝される事じゃないさ。仲間だろ?なんかあったらあったでちゃんと言えよ」
「死にかけたけど、なんとかなった。出しゃばらないで」
「もっと頼れよ」
「僕こそ頼られたことがあんまりないよ」
「未成年だろ」
「仲間でしょ。キッズ扱いは良してよ」
「うちはキッズしかいねーよ…」
「佐藤さん深夜僕の家の前ではらわた出てたけど?」
「たまにヒマ人とマジバトルするぐらいあるだろ」
「そーゆーとこ」
「あのな。まぁ。いいか。元気そうで良かったよ」
「あ。そうそう」
「なんだ?」
「さっき攻撃食らったんだけど」
「セントバーグの殺し手。今それどーするか会議中」
「僕独りでやりたいんだけど」
「うちでも情報収集中。ほとんど情報が無いけど、無いなら無いでマジでヤバイ感じがするんだな、これが」
「僕よりヤバイの?」
「それはねーけど、多分ヤバイ。マッキーさ。Realでどっかのギルマス殺した?例えばシスター制服のねーちゃんに手ぇ出したとか」
「ないよ。あっ。そーいや。イースターヴェルで会議があって、ファイブカラーズとクルセードが僕を現実でも殺しにかかってくるからって忠告されたっけ」
「そっちか。分かった。そっから攻めてみる。あと、0.5秒だけ青空が赤空になったけど、なんか知ってるか?」
「多分ヴィクトリア・ローゼスさんが絡んでるかも」
「ビッキー知ってんのか?」
「フレンドだよ」
「同い年だろうけど、ぜってー止めとけ。関わるな」
「そうなの?」
「あの手はマジで最悪な部類だと思う」
「サブマスぐらい?」
「それはねーよ!いや、それよりマシだけど…」
「じゃあ大丈夫!」
「大丈夫じゃねーよ!顔に騙されるナ!っつーかマッキー。タイプは薄幸美少女だったよな。処女率高いがマジでナシのなしのなしつぶて」
いらっと来たので受話器を下ろした。
「そっちこそ元気そーで安心したよ」
リュックに詰め込むもの、パンツ、シャツ、お守り、チョコバー、お泊りセット一式。財布。一応ちょっと型落ちした家族のケータイ。今ワールドツアーにくっついてるだろーし勝手にもってっても構わない。
「よし!吉幾三!」
元気に出発してケータイに暗記してる番号を打ち込む。
「マッキー?」
「うん。今から向かうけど、どこへ行ったらいいかな?」
わくわく。そわそわ。心臓がマジで早鐘を打ってる。一応お父さんとお母さんもおらっしゃるということなので。駅前の1000円カットで切ってもらってから行こうとしよう。鼻毛チェックも忘れずに。
「迎えをよこしたから、多分家の前についてるはず。外交官ナンバーのクラウン」
「そうなんだ?外交官ナンバー!?なんで!?」
「今は従って」
「分かった。挨拶には伺おうと思っていましたからね」
先ずは挨拶。挨拶超大事。うん。お付き合いうんぬんよりも、友達付き合いを男女間で始めるにあたって、ご両親の承諾は必要だ。
「それじゃ。待ってるから」
「うん」
通話を切った後、深呼吸。
「…」
玄関の前には外交と書かれたナンバープレートのクラウンが言われた通りに停まってる。重いリュックを背負って玄関を開ける。
「東雲末樹さんですね。お乗りくだりさい」
「宜しくお願いします」
「これを」
車の中はタクシーみたいな感じだ。匂いも変な感じがする。目隠しを渡された。
「これ。するんですか?」
「これからご案内する場所は保安上の秘密事項に該当しますから」
「分かりました」
目隠しをつけると車が発進した。
「…すいません」
「どうしました?」
ドライバーが一人、後ろの座席に僕の隣が一人。僕は隣の男性に言った。
「気持ち悪くなってきました…」
僕は乗り物酔いが激しいらしい。こういう目隠し状態はどうにもこうにも、気持ち悪くなってきた。
「我慢できます?」
「ちょっと無理そうです」
「困るなぁ…」
「君スーパー高校生やろ?乗り物ダメなん?」
ドライバーさんが言う。
「ダメみたいです。こういう目隠し状態は、きついです」
「どうします先輩?」
「君さ?ちょっと寝ときな。お前、助手席来い」
「え?」
「ええから。こっち来いや。末樹君はちゃんと寝とくんやで。寝やすいように取っといてやるわ」
「ありがとうございます」
そういう計らいで、なんとか進めた。首都高速に入ったところで、全く知らない場所に入ってゆく。更に地下へと進んでく。
「地下、ですか」
「そうそう。うぇるかむとーあんだーぐらうんどっちゅーとこやな」
「寒いっすよ先輩」
「笑うとこやで」
九州育ちの僕が言うのも違うかもしれないが、関西の人とは合わない気がしてきた。申し訳ないけど。佐賀県のノリとは明らかに異なるノリが、到着するまで車上で繰り広げられ、僕はただ、困惑するばかりだった。
「マッキーどうでした?」
「元気にやってるみたいだよ」
「で。どーします?」
「様子見だな。とりあえずクルセードに戦争の通達だな」