第三十三話 暗殺者
プレイヤーキラーの五大ギルドのギルドマスター、暗躍する巨大マフィアのボンボン、知られざる大空の支配者、いずれもビッグネーム。僕はその三人と食卓を囲んで飲んでいた。食事は終わり、疲れも睡眠も飛んでる絶好調の状態のまま、軽くふわふわとした酩酊してる感じが心地良かった。
「良い夜だな」
「その通り」
「この夜に乾杯へとぉ。ずっと続くようにぃ」
「…」
席を立って、魔法カードを使った。高値らしいが、気にしない。今すぐ声が聞きたくなった。ツキコモリさんはまだ、ログインしてる。端末から確認が出来た。
「…」
三人の話す最中、店を出て、綺麗に照らされている洞窟を眺めながら、躊躇せずに連絡カードを使用した。
「ツキコモリさん?」
「マッキー?」
「ようやく連絡が取れた。ごめんね。いろいろあってさ」
「そう」
「まだそっちってイースターヴェルかな。もうちょっとそっちに行くまで遅くなるみたい」
「そう」
「まだミルフィーと一緒に居る?」
「マッキー。聞いて」
「なに?」
今の僕なら、何でも聞いてあげれる。どこへだって連れて行ってあげれる。なんだってできる。手を繋ぐ事以外は何だってできる。
「マッキーの処遇はキル。シークレット賞ごと葬り去ること。多分現実でも殺しにかかられる」
「…そうなんだ」
「今すぐインして。電話をかけて。私達はギルドを追放された。ミルも。なんとか逃げたけど」
「なんだってっ??」
電話番号を伝えると、復唱してと言われた。そのまま暗記したものを復唱すると、すぐに電話をかけるように言うと。
「クルセイドとファイヴ・カラーズがマッキーを狙ってる。私がこれから誘導する。すぐにログアウトして」
「分かった。信じるよ」
「良かった」
「何が?」
「元気そうで」
そして通話が終了した。酔いも醒めた。
「楽しくなりそうですかぁ?」
「その逆だよ。あんまりさ。殺しにかかってくる人を殺せる自信が無いんだよね」
「その強さを持ちながら冗談が過ぎますよぉ」
「はぁ。力を持つって。危険な事だね」
「序の口ですよぉ」
「じゃ。ちょっとログアウトするよ」
「はい~おやすみなさい~」
酩酊してるなぁ。凄く幸せそうな顔だ。ずっとそれが続けばいいって思うけど。悪人が世を跋扈していい時代なんて来やしない。生きてる限り、必ずプラスとマイナスは釣り合わせてくる。
「…」
ログアウト。既に学校の登校時間は過ぎてる。
「電話…」
心臓が跳ね上がった。
「これから」
ツキコモリさんと、マジで。リアルで。生でッ。本物の電話ッッ!この世界で、繋がる。
「まだ自立してない僕が、一人の女性に対して電話をしていいものだろうか。お父さんお母さん、爺ちゃん婆ちゃん、僕はいくよ。大人に。いくぞ。いくぞ。いくぜえええええええ!!!」
…。
五分が経過し十分が経過した頃には、鏡を見て震えてる僕に驚愕した。ビビってる。怖い。怖い。怖くて怖くてたまらない。なんてことだ。たかだか電話で世界がひっくり返ってるほどに驚いてるのに。
「…場所を変えよう」
ケータイを持ってベランダに出て、きょろきょろして、翼を出して、飛んだ。が。勢い余って家の前の道路に突っ込んだ。
「…セーフ」
ケータイは無事なようだ。そのまま。そのままのショックと衝撃とぶっ飛んでる心理状態で、電話をかける。
「もしもし」
今の僕はブラッドピット。超イケメン。超かっこいい。最強無敵。どっからどうみてもかっこよすぎる最強のイケメン。だから声もちょっぴり低い。
「マッキー。これから10秒後に攻撃が来る。それは避けられない」
「…えっ?」
「5秒。思いっきりジャンプして、回避不可の攻撃がやってくる。マッキーなら攻撃を弾けるはず。多少のダメージは覚悟して。両腕でガードする。やって!」
マジかよ。
「うおおお」
翼を出して、オーラを足に集中、頑張って頑張って、ジャンプ!
「…」
空が赤く。燃えるような光景を見た。大空まで舞い上がって見える光景は、とてつもなく、グロテスクに感じた。心臓までドラゴンになりそうな。翼の侵食が顔までのような。僕はどれだけ人間からかけ離れてゆくのだろうか。
「…」
幻覚か?ダメージは無い。地面に着地して再び空を仰いでも、青のまま。目の錯覚?いや。確かに。空の色が変わったはず。
「…ゲフっ」
胸を見た。穴が空いてた。
「…ヴァミリオンドラゴン」
死が見えた。僕の未来を全て奪う死。
「こうたい」
巨大なドラゴンへと変貌を遂げる。一瞬の内で。その後僕の人間の体に。もちろん全裸。
「…」
僕の手のひらには一発の銃弾が握られてた。
「くそ。くそったれがああああ」
言いようのない敗北感が胸いっぱいに広がっていった。根拠の無い自尊心が酷く踏みにじられるような感覚だった。殺されるという実感。殺されてたという感覚。現実で体験する殺人されるという酷い体感。
「電話…」
全裸である事よりも、ケータイをぶっ壊した事に気がいった。
「くそ!!」
翼を生やして、ダッシュで家まで戻る。固定電話でツキコモリさんに連絡した。
「マッキー。大丈夫だったみたいだね」
「全然大丈夫じゃない。防げなかった。殺されてた」
無性に腹が立ってる。こうまで純粋な怒りを覚えるなんて、小学生以来かもしれない。
「大丈夫。本当なら学校ごと壊れてたから。無事ならそれでいい」
「攻撃したヤツ、分かる?」
「分からない。ただ。その攻撃が太平洋を超えてきたって事ぐらい」
「大分スケールが大きくなってきたねぇ」
段々とハイになってくるのを感じる。
「今日一日はこれで安全。この時間を使って私に会いに来て」
「…」
「それしかマッキーを守る手段は思いつかない。信じて」
「…お父さんお母さんとか、いる?」
「セントバーグのヒットマンですかぁ」
銃弾二発を手のひらに転がしながら呟いた。
「やっぱり楽しくなってきたじゃあないですか」