第三十一話 早着替えくまモン
ビッキーにマジ攻撃され、くまモンの着ぐるみは壊滅し再びパンツ一丁の体だった。激しい戦闘と出鱈目なビッキーの設定と展開で自分の全裸姿にすら気付けなかった。後続のオーバードーズ野郎のダンスミュージックが聞こえてきて、僕のそういったある種の戦闘酔いが醒めた。
「もう一度聞きますけどお。皆殺しにしますかあ?」
相変わらず物騒な話が大好きだな。
「相手の出方を伺おう。最悪こっちが負けたふりとか逃げるとかで。僕が彼の応対するからビッキーは燃料と連絡手段を受け取って」
「分かりましたぁ。なんか損な性格ですねぇ」
「しょうがないでしょ。ビッキーと違ってただの調子乗った野郎なんだから」
「私が特別って意味ですかあ?」
「だよ」
「う~ん。そういう風に言われるとワルイ気はしないですねえ」
後ろの甲板に回ると、でかでかとしたダンスホールを構えた客船が後ろに泊まった。
「…」
ぴょんとダンサー風の際どい水着を着た女性が船から飛び降りると、黒服のマスクに向かってビジネスの話を始めた。
「…」
オーバードーズ野郎は大音量のクラブステージを見下ろす形のVIP席で座ってる。
「よぉ!」
凄まじい速度で飛び上がると、この船の甲板に着地した。
「腹が減ってそうな顔してんな。なんか食うか?」
「いや。別にお腹は減ってないけど」
「ならいーんだよ。ガンつけんなよ。金が必要ならバニーに言え。腹が減ってもな」
それからまた俊敏な動きで飛び上がると、元の船の椅子へと着地した。
「…」
どうやら完全に覚えてないようだ。マジキチの相手はこの辺で打ち止めにするべきだ。船を降りて黒服マスクと話してるビッキーに声をかける。
「覚えてなかったよ」
「ラッキーですね」
島への入り口は松明の明りが両隣に灯された道だった。雰囲気がある。おどろおどろしさも。
「今日はフェスティバルじゃないですから、楽しめるようなものでもないですよぉ」
ビッキーは言う。
「折角だからこのプラチナカードも使ってみたくってね」
どうやらこのカードの中身は300万円入ってるらしい。5000円ぐらいの食べ物を買って、今現在の自分の所持金を実感しておきたい。
「その前に先ず着替えとかどうですか?」
「そうかも…」
再びクローゼットへ赴き、くまモンを着用した。っていうかなんでくまモンの着ぐるみがこんなにあるんだ。ひょっとしてあの侍、熊本県出身か!?熊本県か。佐賀県で育った身としては、熊本県の最近イきり具合は目に余る。くまモンがちょっとした大ヒットしたからって調子に乗ってやしないか?誰も佐賀県のゆるキャラなんて知らないのに。っていうか僕も知らない。
「お待たせ…」
「相変わらずハロウィン仕様ですねえ」
「いや。これが元々だよ?」
「正気じゃないですねえ」
「まぁね…。ゆるキャラなんてそんなもんだよ」
冷静にゆるキャラを考えてみる自体、どうかしてる正気じゃない行為なんだとは言わない。
「ここからイースターヴェルに向かいたいんだけど、方角がどのあたりかついでに教えてもらいたいんだけど」
「どうするつもりですかあ?」
「ドラゴン変化でひとっとび」
「それは困りますねえ」
「どうして?」
「もっとお話しをしたり、冒険をしたいって思ってるからですよ」
目が合った。ヤバイ感じがするので目線をずらす。
「マッキーもそう思うでしょう?」
…。
「まぁ…。そうだよね」
僕もビッキーと多少なりともお近づきになりたいと…まぁ。多少はある。興味もあるし、なにより、僕の世界で人間牧場は許されざる行為だ。
「良かった…」
「…」
早くイースターヴェルに戻らなければならない。僕の必須事項は最高のギルドの一角であるトワイライトへの正式な加入だ。そのためにも、通信手段でギルドへの正式な加入をお願いしておきたい。最強を気取ってる僕だけど、例えばラフィアと侍が組んだら僕を倒せる攻撃力には到達するだろう。もし、ラフィアクラスが100人まとめてかかってこられたら、全力を出し切る前に殺される危険だってある。最強を自負するからには、あらゆる想定をしなければならない。そうじゃなくても僕は世界中から狙われてるのだ。最強と書いて最弱と解きます。そのこころは、どちらもとっても危険でしょう。
「このゲームってテレポーションとか瞬間移動とかありますよね」
「あるかもしれませんしい。ないかもですねえ。最寄りの街へとジャンプするジャンプカードはありますけど、瞬間移動はありませんねえ。未知のアイテムによる効果で発見される可能性もありますがあ。まぁ都合良くは無いですねぇ」
「ハートネット・ラフィアのドラゴンとかは?」
「あの辺になってくると、ぶっ壊れてますからあ。良くわかりませんねぇ。ある程度の攻撃力に到達したらあ。空間をぶち壊して空間の先へと移動するなんて馬鹿げた芸当もやってのけるヒトもいるぐらいですからねぇ」
「それは壊れてるね…」
「やろうと思えばマッキーもできると思いますよぉ」
「ちょっと予想できないから、そういう事がやれる人がいたら師事する事にするよ。基本Realのゲームシステムに則ってゲームしたいってのが本当のところだから」
「システム上問題無いとは思いますよぉ。なんでもありが売りですし」
瞬間移動か。テレポーションか。ジャンプか。いよいよ。ヴァミリオンドラゴンの力を発揮してきたら、ゲームが壊れてきそうだ。延長線上で現実もぶっ壊れそうでちょっと怖い。
「…貸し一つだからな」
「わーってますって」