第三話 真っ白いもこもこ綿菓子
暗闇が怖いはずなのになんで懐かしいんだろう。まるで温かい暗闇。トンネル…。胎内。産声をあげるのは産道を通った後…。Realって…。ツキコモリさん。いるかなぁ…。
「…」
「…」
「また、会ったね」
え?
「マッキー」
予期せぬ声に反応して振り返ると、目と鼻の先に彼女が居た。
「あっ。えっっと。ツキコモリさんも。こんばんわ。かな」
距離にして5センチ以下。
「こんばんわかな」
脳が痺れてどうかなってしまうんじゃないかと思った。
「…」
膝が本気で震えてる。小説とかアニメでよくある表現だけど、本当に笑ってるように震えてる。僕の人生、一体、どうなってしまうんだ!?
「…」
少しだけ後ずさりして、同じ方向を向いた。綺麗な黄昏に町が落ちてく。最高のロケーション。
「…」
沈黙。静かなひと時。10分は経過しただろうってところでやっと気付いた。これ。このまま終わるパターンだ。何も言わない。僕も喋らない。なんだよこれ!?前田慶次と直江兼続だってまだ喋るイメージだぞ!
「…」
沈黙が気まずい。気持ちが精神が、心臓が、この沈黙という重圧に耐えられそうにない。
「…」
わ、話題は、話題はないのか!?ちょっと考えたらとっておきの隠し玉が手元にあった。最強のカード。いいかい?切り札ってやつは最後までとっておくものなのだよ。ワトソン君。
「実は昨日シークレット賞を当ててね」
僕は本身を抜いた。後先など無い。この一瞬が全てだった。
「…」
「レベル1299のヴァミリオンドラゴン。運命の導き手」
最後のやつはいらなかったかもしれない。口から飛び出た。
「すごいね」
「まぁね…」
「…」
「…」
そして大体5分間の沈黙である。え?クラスメイトの皆はそれだけで飛び上がるような反応だったし、SNSじゃシークレット賞の話で持ち切りなのに。
「…」
普通に話そう。断腸の思いで、僕は超絶カッコいいイケメン最強ヒーローから脱却する事を決めた。
「…」
「ツキコモリさんはReal始めたのっていつ頃?」
もう格好つけようとするのはやめよう。墓穴を掘ったら後が怖い。そもそも僕は超絶イケメンキャラじゃないし、ブラッドピットにも成れやしない。僕はただひたすに僕であり続けるだけだ。自然体でいこう。このまま分かれてこれっきりじゃダメだ。多分一生、未来永劫後悔する。
「一昨日だよ」
さらりと言われた。風が心地よい。現実じゃ蒸し暑い季節だけど、ここじゃ丁度いい。何かを始めるには絶好のチャンス。例えば、友達だとか。いや。女友達とか。デスティニーとか。フェイトとか。
「僕と同じなんだ」
「…」
「良かったらこれからレベル上げやらない?もっといろんな場所に行って、いろんな絶景を探したいし」
「いろんな絶景………いいね」
彼女は立ち上がった。
「私はここに気晴らしに来てるだけだから」
「そうなんだ」
「あと少しでログアウトするけど、それでも良ければ」
「え。あっお願いします…」
きっといろいろ喋る事はあっただろう。最高の場所で最高の出来事は会話だけじゃない。もう十分。
「パーティってどうするんだっけかな…。えっと…」
端末を立ち上げてパーティの場所を見つけると、ツキコモリさんを勧誘した。するとパーティが出来上がったと表示された。瞬間、心臓が跳ねた。特別な瞬間。
「イースターヴェルに行ってみたい」
だしぬけに言われた。おそらく地名。もしかして町の名前っぽい?
「それじゃ。行こう」
「うん」
彼女は扉を開けて崩れた階段をぴょんぴょんと軽やかに、駆け下りていった。運動神経滅茶苦茶良さそうに思えた。
「あっそうだ」
灯台を降りた後に言った。
「実は僕、こういうの全然調べてなくって。イースターヴェルって町の名前?」
「そう。町の名前」
「どういうところ?」
「Realで一番大きい街。そこには王様が住んでる世界一の塔があるの」
「へぇ。そりゃ絶景だろうね…」
「そう」
「あ。えっと。そうだ。モリさんってその姿。もしかしてデフォルト?」
「そう」
「僕もなんだ。僕は高二だよ」
「私学校通ってないんだ」
「え?」
僕は憤りを覚えた。
「同い年か一つ下ぐらい」
「そ、そうなんだ」
「…」
「…」
「いろいろ、あるよね」
「そう」
「…」
聞くべきか否か。どうして学校通ってないの?もしかして不登校?いじめ?
「…」
頭が沸騰してきた。
「マッキー」
「な、なに?」
「おもしろい色してるね」
「え?」
色?ああ。なるほど。オーラの色か。分かっちゃう人には分かっちゃうんだよねぇ~。
「オーラの色?」
「マッキーってもしかして視える?」
視えないって答えたくない。でも、正直なままずっと生きていたい。
「視えない。ただ、なんとなくだよ」
「そう」
「おもしろい色って言ったけど、どういう意味?」
「説明して欲しい?」
「うん」
「ホントに?」
「うん」
「じゃあ説明する」
そう言うと、夕陽に染まる町へ彼女は降りて行った。僕もつづいてついていく。っていうか歩くの早い!オレンジの光の中で、中世の街並みを速足で。
「ちょっと待って」
アイテム屋と表示された店先で待たされた。こういうのあるんだ。ホントにファンタジーだとしみじみ感じ取れる。今も多分ある田舎の駄菓子屋風情。
「来て」
二人並んで広場のベンチに腰掛けた。週末の夜ともいうべきか、人が結構多くて賑やかだ。彼女は手のひらに何かを乗せている。
「ビー玉?」
「そう」
じゃらじゃらと手に持っているのはビー玉の袋詰めだった。わざわざ買ってくれたのか。水色、茜色、紫、夕陽に照らされ色とりどりに輝いてる。
「見てて」
彼女は一つを手のひらに乗せると、それが浮き上がった。
「すごい…」
冗談みたいに普通に浮いてる。マジックって言われた方がよほどすっきりするような自然さ。物理法則を超越してる。ヤバイよヤバいよ。ちょっと変なテンション上がってきた。
「見ててね」
そのオレンジに輝くビー玉はやがて綺麗な黒色に輝きだした。
「すご」
「これがオーラの色。マッキーもやってみて」
手のひらにビー玉を乗せてもらった。
「念じて」
言われるまま、念じた。念じるような心持に心境をもっていった。念じるってどうするんだよとは言わない。ただ、ありのままに、念じると思う心が、念じるということなのだろう。
「…」
一分以上、これ以上ないほどに念じた。相当パワーも溜まってるはずだ。僕が強化系ならこのビー玉はコンクリートに落としても割れない自負がある。
「…どう?」
彼女は僕が念じたビー玉をつまみ上げるとそのまま口の中に放り込んだ。
「え?」
そしておもむろに口からビー玉を取り出すと。
「才能無いね」
「ええっ!?」
本気で驚いた。ショックで寝込むよ。
「ビー玉が動いたり回ったり、浮いたり、色がついたり、欠けたり、味がついたりするんだけど」
「う、うん」
「真剣にやってる?」
「やってるよ!これまでの人生で一番念じたよ!そもそもこれまで念じたことがないんだけどね…!」
「じゃあもう一回」
唾液のついたビー玉は彼女のポケットに入り、また新しいビー玉を手のひらに乗せられた。
「やって」
僕は言われるまま目を閉じて念じた。
「…」
「これまでに一番怒った事を思い出して」
「…」
怒った事。凄まじい怒りが込み上げてきた。人間の持つ最後の光は、怒り。
「目を開けて」
目を開けた。
「…」
ビー玉が青い炎に包まれ、溶けているところだった。
「…すごっ………何これ?」
熱くもなんともない。
「私も初めて見る」
「あっ。思い出した」
「なに?」
「初日あの日、僕達があの灯台から落ちた時、僕って翼が生えてたよね?これもしかしてヴァミリオンドラゴンの能力かも」
「そうかもしれない」
「…」
オーラ。生命の魔力。東洋風では気、西洋では魔力の概念。ファンタジーではお馴染みの基礎用語の一つ。
「…」
「この能力ってまさか、チート級能力でぼこすかレベル上げて全世界に僕の名前を轟かして世界征服できるレベルで強いかな?」
「そんな事やって楽しいの?」
「全然つまんないよね。ごめん。言ってみたかっただけ…」
「…」
「…」
「あのさ。つまり。これってどういう事なのかな?青色の炎で燃やしたっていうのは、僕のオーラが青だったってこと?」
「わからない。ただ、火は結果や現象に過ぎないから」
「結果や現象。ああ。なかなかカッコいい言い方するね。でも全然熱く感じなかったし」
「そう。前言撤回。マッキーかなりヤバイよ」
「や、ヤバイ…の?」
出川哲郎ばりのやばいよやばいよ………的なやつだろうか。サイコパス的なやばさだろうか。かっこよすぎるヤバさだろうか。
「運に恵まれてる」
「ら、ラッキー!?」
そうきたか…!?
「私も運に恵まれてるから」
「そ、そうなんだ」
「マッキーのは、純度がとっても高い。私と一緒」
「…」
変な話だが、僕はその言葉を聞いて、胸に込み上がってくるものがあった。
「なんだか嬉しいよ」
「そう」
「…」
「…」
「えっと。ツキコモリさんって。モリ・ツキコさんってことだよね」
「違うよ」
「あっそうなんだ…」
「そんなに露骨にがっかりした顔しないで」
「露骨にがっかりした顔しちゃってごめん…」
「ツキコモリって月が隠れるってこと。新月。名前が似てるから」
「そ、そうなんだ。あの。僕はさ。なんでも全部同じで。あんまりよくVRゲームとか初めてでさ。だから。なんか。本名にしちゃったんだよね」
「リスク管理出来てないね」
「…そ、その通りだね…」
そっかぁ。僕リスク管理出来てなかったかぁ。そうだよね。そういや。僕って自分の素顔をSNS上で晒しまくってたっけ。思い出した。あ。僕って本当にリスク管理できてないや。リスク管理か。リスク管理ね。
「名前を知ると、大抵の事は出来ちゃうから」
なるほど。SNS盛んな現代では名前一つであらゆる事が分かってしまう。エシュロンシステムというものが存在している。最近米国が認めた情報収集システムで、一説には、ある単語を打ち込むと、その単語を書いたり話したりした人物の名前がリストアップされるという。もし、米国の超絶大富豪のサイコパスや超能力を持つ大統領がシークレット賞に興味を持ったのならば。国土安全保障局通称NSAに通告し、たちどころにエシュロンシステムにアクセスして僕の個人情報を入手できるだろう。僕はもう気付いちゃってるんだよね。地球規模でのマツキシノノメ争奪戦。もう始まっちゃってるってこと。信じるか信じないかはあなた次第です!
「マッキーの色は白だね。あんまり居ない。白はなんでも変わるって意味じゃなくて、単純に白い。怖いぐらいの白」
溶けたビー玉をころころしながら言われた、
「え?あっと…そうなんだ」
今なんかすごいこと言われた気がしたぞ。妄想で関の真似なんかやるんじゃなかった。僕の数少ない物まねの持ちネタの一つである。
「マッキーって彼女居ないの」
え?出し抜けに言われた。
「あっい、居ないよ!っていうかこれまでに居たことが無いよ!そもそも学生だし、学生って勉強することが仕事なんだよ!」
え?え?え?あれ?もしかして僕明日トラックに轢かれて異世界転生しちゃうパターン入っちゃってる?今日はなんて日だ。
「あ、そうだ!何かソーダ買ってくるね!ソーダがいいそうだ!なんちゃって!あははは!」
思わず口走ってその場から逃げてしまった。涙が出てきた。逃げてしまった。人生がいざ変わりそうな場面にやってくると、逃げちゃうなんて。怖い。怖い怖い。変わる事への恐怖。彼女への恐怖。さっきのパターンは『君は彼女居ないの?』って聞き返すべきだったし。ひょっとすればそのまま。『じゃあ付き合おっか!!!!!』みたいな展開も。…あったかもしれない。なきにしもあらずなのである。魂の変質が怖い。生活の変貌が怖い。脳髄の変化が怖い。少年期が終わるのが怖い。だから。彼女が出来るのが、とっても怖い。
「なにやってんだよ僕…」
このまま一生Toラブる!を本棚にしまったままの人生で終わっちゃうのか。僕の心や意志や精神が、幼過ぎるのか。未熟なのか。馬鹿なのか。どっちもなのか。
「…」
生涯に渡って後悔しちゃうターニングポイントで最悪の一手を打ち込んだ気がする。
「もしもし~?」
この世界、通念感覚、共通認識、ミーム、空気感。不釣り合いなのか。もし僕に翼があったら。あったのならば。
「もしもし~?シノノメ・マツキ君ですか~?」
あの大空に飛び立てるのに。画面の右下にはFINの三文字。ちくしょう。なんてバッドエンドだ。
「二年三組で男との絡みを盗撮されたシノノメやらないかマツキ君~?」
「なんだよそれ!?」
すげーやべー事が聞こえてきたので思わず声を荒げた。が。居ない。きょろきょろ見ても居ない。なんとなく下を向いたら、何かがいた。間延びした声の主が…。居た。
「こんにちは~」
全身がウサギみたいに白い綿みたいなので覆われたウサギみたいな顔をした小さいホビットみたいな小人が居た。それがどうやらもこもこ動いてる。真夜中のトイレから出た後にばったり遭遇したら間違いなく失神するだろう。
「僕に言ってます?」
「そうですよ~」
「僕はゲイじゃないです!あの写メ見たんですか?」
たしか小林幸子だっけ。中三の妹のために人肌脱いだ結果がこれかよ。今後道行く人にやらないかと煽られるのか。男が声をかけてきた場合は最悪だ。今僕はこれまでの間抜け顔して良かれと思ってやった行動にどれだけリスクマネジメントが出来てないのかと改めて気付かされた。小林幸子に今度SNS上で上げた画像の消去を頼む必要がある。
「そうですか~」
「そうなんだよ!じゃ。それじゃ!」
颯爽と歩きだす僕を阻むかのように、もこもこホビットは僕の前に出てきた。僕がトラックじゃなくて良かったな。今回は異世界転生は回避された。
「シークレット賞当てましたよね~」
「当ててない。別人です。同姓同名なんです。関係無いです。それじゃ」
再び歩き出す僕の前に立ちふさがりソーシャルディスタンスを潰してきた。今、流行り病が落ち着いてきて良かったな。そうじゃなかったら問題行動だぞ。
「何当てたんですか~」
「当ててないです」
「神に誓えますか~?」
「なんで神に誓わないといけないんだよ。僕は一神教じゃないんだよ。八百万の神々の世界なんだ。中には嘘つきの神様だっているんだ。許してくれる神様だっているんだ。そんなのに何の価値もありませんからね!」
「じゃあ一緒にレベル上げしましょうか~」
「お断りです。パーティはもう間に合ってます。それじゃ。失礼します」
「わかりました~」
肩を落としながら一瞥し、露店のジュース屋さんに立ち止まる。色とりどりのフルーツ味が記載された美味しそうなジュースが木の札に書かれてる。結構安い。全品50Gと書かれている。なんとか二人分買えそうだ。でも、どれにしようか?女性にジュースを奢るなんて、そういや初めての事だ。なんか緊張してきた。どれが一番喜ばれるだろうか。キウイ、イチゴ、メロン、トマト。
「うーん」
「悩みますね~」
「そうだね」
「私バナナシェイクがいいです~」
「おっけー。おじさんスゴイバナナ味ジュース三つ!って!!なにやってんだよ!もうなにやってんすか!付きまとわないでください!」
「シノノメマツキ君はヘタですね~」
「え?ヘタ?下手ってなにさ!?」
「本当は」
そう言うと、もこもこの拳を突き出し、向こう側のヴァイオリンを弾いてるお姉さんの近く露店を指した。っていうか指ないのかよ!どらえもんかよ!
「あっちのイチゴサンドを食べたい~!でもお金が無いからこのジュースで妥協しちゃう~マツキ君はヘタっぴさ~!」
「ぐっ…」
バカなっ…!どうしてそんなこと分かるっ…!?
「ここで待っててくださいね~」
「えっ?」
そう言うと白いもこもこ野郎は、あろうことか絶対食べようって決めてたイチゴサンドイッチを購入してすたすた戻ってきた。小さい両腕が抱えているプレートには、なんとも美味しそうな匂いを漂わせてる。これ、ぜったい美味いやつ。
「おじさん~バナナジュース三つお願いします~」
「あいよー」
「って!ちょっと!しかも!!三つ!?」
「ありがとうございます~。よっし~じゃあ行きますか~」
「え?」
そう言うと、すたすたと僕を気にせず、すたすたと歩いて行った。白い綿菓子野郎はあろうことか、さっきまで僕達が二人で座ってたベンチに座って、なぜかしらツキコモリさんにイチゴサンドイッチとバナナジュースを手渡してる。
「は?」
そしてベンチで二人して美味しそうにもぐもぐしながら立ち尽くしてる僕を見ている。
「え~!?」
僕はずかずかとダッシュでベンチに駆け寄った。
「ちょっと!名前も知らない人が勝手に食べ物をあげないでよ!!」
「え?一緒にレベル上げするんじゃないの?」
「しますよ~」
「そう」
そしてまた二人してぱくぱく食べてやがる。僕の中で何かが切れた。
「あのね!そういう風に他人と勝手に接触するのは止めてよ!そもそもなんだよそのアバター!ミッヒーかっての!可愛い系アバターで女受け良くしようとする出会い系目的のおじさんでしょ!そういうのって本当によろしくないからね!シークレット賞目当てだか知らないけど、付きまとわないでください!」
僕はきっぱり、もこもこ野郎に言ってやった。
「私、女ですよ~」
「ネットの女アピールぐらい信用できないのもないよ!いいからつきまわないでください!」
僕はツキコモリさんの手を引こうとした。
「行こう!」
「シークレット賞はドラゴンでしたか~?」
「マッキー教えたの?」
「教えてないよ!」
「ふーん。どうでもいいですけどそれならさっさとレベル上げしますよ~」
「私はイースターヴェルに行きたい」
「馬車を使えばすぐですよ~」
「ほんとに?」
「でもでもアドバンス領域でレベル一桁はまずいですから、最低限のレベル上げは必要ですよ~」
「そう。じゃあ上げなきゃ」
「…」
勝手に話がまとまっていった。
「…」
「どうしてレベル上げ手伝ってくれるの?」
僕はもこもこ野郎の目を見て言った。憎たらしいぐらい愛らしいぬいぐるみのようだ。
「それはマッキーのシークレット賞を奪うためですよ~」
なんでだよっ!?
「ストレート過ぎるよ!!!」
「レベル20未満はプレイヤーキルできませんからね~」
「殺して奪うのかよ!!?」
「だからさっさとレベル20まで上げてもらわないと困るんですよ~」
「あなたが困ってどーすんだよ!!」
「それならレベル19まで手伝ってくれればいいから」
ツキコモリさんが妥協案を出してくれたが、そもそも話に乗っかる自体がどうかと思うよ?
「わかりました~。レベル19までお手伝いします~」
そう言って、ツキコモリさんはあろうことか、もこもこ野郎と握手?してやがる。どうなってんだそれ。リスクマネジメントはどこへ行かれたのでしょうか。っていうかどらえもんの手でも握手はできるんだ。
「マッキー。この人かなり強いから、利用価値はあるよ」
「あなたもスゴイ事言うね!!?」
利用価値があるとか、僕、これまで生きてきて口走った事すらないよ?
「Realは別世界。ガイドが必要。現実でもそう。じゃないと、多分、到達することはできないから」
「どこへだよ!?」
「レッドライン…」
「ど……どこ!?」
「レッドラインっていうのは、現在プレイヤーの到達している領域の外ってことですよ~。前人未踏の領域って意味で使われます~」
「月刊Real、私も購読済み」
「…」
彼女が良ければ。なんでもいい。なんでもいいか。これはもう、僕だけの冒険じゃない。だとするなら、他人を受け入れたり、闘ったり、妥協したり、交渉したりも必要だろう。コイツが僕を殺しにくるその時まで、僕達はフレンドか。
「シノノメ・マツキ。マッキーって呼んで」
僕は手を伸ばした。
「バベリオット・ミルフィーです~」
中身が女だってことは絶対信じてないからな。そのもこもこの不思議な拳と拳を重ねた。
「私エキスパートだからきっとルーキーのお手伝いはできますよ~」
不思議なヤツで、マトモじゃない。僕と似てるか。まぁ…。いいさ。これも一つの縁だろう。出会いの一つ。あと、ゼッタイにリアル女性なんて信じないんだからな。そういうヤツは大抵中身はおっさんなんだ、知ってるんだからな。お見通しなんだぞ!
「東雲末樹君かぁ…」
手に入れなければならない。どんな手段を取っても。
「あは!」