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第二十九話

「人は何故邪悪な存在に成るのか、わかりますかぁ?」


ドゥルーガ。プレイヤーキラーの島。プレイヤーキラーという、ゲームの枠組みから外れた存在。所有物。根城。根幹。ひょっとしたら罠なのかもしれない。もしかしたら救いなのかもしれない。欲望の楽園。


「いろいろじゃないかな。親の育て方とか環境とか運が悪かったりだとか、元々脳の一部の共感性が欠落してる反社会的趣向を持つサイコパスだとか、じゃないかな」


ビッキーはドゥルーガを目の前にして、僕に問いかけた。


「正解は、出会いが無かったから。ですよぉ」


「…そのこころは?」


「マッキーが仰られたような悪人になろうとしたところでも、誰かが止めていれば。誰かが側にいれば。誰かが支配していれば。誰かを崇拝していれば。誰かへの出会いによって、人は運命を決定付けられる。人の出会いこそが、生命の輪廻に織り込まれた、運命の本質なんですよぉ」


難しい事を言われちゃったな。でも、こういうマジな時はちゃんと真面目に答えようか。今は夜だ。うってつけの夜。


「それは、言えてるかもしれない。でも、他力本願なところがあるかな。邪悪はある種の脆弱さだと思う。自分が弱いから、弱さを補うために他人を頼ろうとする。他人から奪おうとする。強さって、そういうところからかけ離れてるものだと思うんだ。だから。最強は孤高。常にね」


「そこが問題なんですよぉ」


「…へぇ」


「孤高故に、出会えない。孤高故に、交わらない。孤高故に、感じない。善悪を無視した結果、邪悪だと決定づけられる。それが運命。とてつもない邪悪な力も、誰かが殺せば、誰かが支配すれば、それは素晴らしい結果になる。マッキーもですねえ。多分。優しさを与えてくれる人に出会たからこそ、そういう考え方になったんだと思うんですよぉ」


「そういう人って誰だって居るでしょ。ビッキーも」


たまに世界で一人ぽっちだと感じた時も、僕には常に心に誰かが居た。サークルの仲間。あのいかれた連中に僕は迷惑をかけられ、かけて、救われてる。


「私はいないんですよねえ」


「でも。じゃあ僕と出会ったから。言い訳は無しだ」


「すれ違っただけでは意味がありませんよぅ。声をかけただけでも。本人が、心の底から感動して生き方を変えるような想いに至らない限りですねぇ」


「…僕達友達だよね?」


「ですねえ。フレンドですねえ」


「じゃあ。家族構成とか今までどういう人生送ってきたとか、どういう風に感じてるとか、これからどうしたいとか、周囲はどうなってるとか、子供の頃の夢とか聞いちゃってもいいのかな?」


「マッキーは私は支配したいんですかあ」


「違うさ。ただ。ちょっとさ」


「なんですかぁ」


「まるで自分が絶対の強さを持ってる人間みたいじゃないか。大丈夫!ビッキーはどんなに強くても二番!僕が一番だからさ!だから安心して生きるといいよ」


どやった。


「孤高というのは比喩ででしてえ」


「うーん。ちょっとだけ違和感が分かったかもしれない。この変な感じはひょっとして僕じゃなくてビッキーの感じてる事だったのかもしれない」


「と言いますとお?」


「最初、止めて欲しいみたいな事言ってたじゃん。多分それかな。悩みがあるなら聞くよ」


「あんまりぃ。そういう事はちょっとぉですねぇ」


「最強ってのはさ、いつでもどこでもだれとでも。それを誇れるのが強さだと思うんですよ。ああいうのはちょっとだとか。こういう時はだめだとか。そういうのは弱さの表れだと思うんです。もし。もしですね。ビッキーが女性を引き合いに出して言えない事があるのだとしたら。それは…」


「そろそろ到着しますよぉ」


僕とビッキーの距離は最高潮に近いように感じた。親友のように。家族のように。夫のように。


「非常に脆弱だ。それに、僕の前だよ?王冠などとは…。おこがましい」


言った後に言ってしまったと思った。どうなってんだ!?どーなってんだよ僕!?なんでそーゆーこと言った!?言い放った!?


「この場所なら…私を殺しても次の小舟が手に入りますよぉ」


ビッキーのオーラが集約させていった。破格。だが…。


「君は強いんだろう。でもね。君より強い人を大勢知ってる。君は居の中の蛙だ。もっと世間を知った方がいいよ?」


夫として忠告する…。なんて付け加えそうになった。なんなんだこれ??心の距離が近すぎる!


「もっとも邪悪で血塗られた存在、世界の頂点に君臨するこの私を怒らせるとは…」


最高の笑顔だった。


「やりますねぇ」


手のひらを向けられた。弾かれた。


「ッッ!」


顔面に直撃し、そのまま海に直撃した。凄まじい衝撃。これ生身だったら首の骨が折れてるぞ。危ないな。…常識ないなぁこの人。


「ヴァミリオンドラゴン…!」


翼は問題なく展開出来た。海中から飛び上がり、船の二階甲板へ降りて見下ろした。


「君が勝ったら僕は奴隷でいい。僕が勝ったら君の財産没収。一からReal初めてもらう」


「私は国そのもの。天空を支配する一族ですがぁ。そういうのはありえませんねぇ」


「誰だろうと構わない。来なさい。世界を、宇宙を。僕の世界を見せてあげよう」


そんだけ戦いたかったんだろうッ!?


「君の美しさには、その価値がある」


ブスも美人も同じだけど、そういうのは好きだ。美しさは外見じゃない。


「あははははははははは!!」


お腹から声が出てきた。骨格、臓器、脳、生命の力。いずれも鍛え上げ僕に挑んでくるといいのだ。ビッキーは飛び上がり、両手に真っ黒なオーラをひねり出し、手を叩くような動作をした。同時に僕の真横から圧力を感じた。が。両翼はその程度では揺れることもしない。まるで効果がない。


「即死させてあげますよぉ」


弓矢の構えをされ、その恰好から矢が生まれ、僕の心臓目掛けて放たれた。しかし、僕の身体を纏うオーラに弾かれた。ミス!ダメージをあたえられない。


「もう休みたまへよ…」


まるで愛する妻を労うように。言う。言った後に言ってしまったと感じてしまうが。今はそれが心地よかった。


「雷の火よ…。撃ち滅ぼせ!!」


「あははは!!」


火達磨になったが。まるで効果がない。


「分かった。君はムゲンちゃんより遥か格下だ。君の持つ現実での超能力や秘跡、奇跡じゃあ…。僕を倒すどころか…」


「無制限の渦潮」


空間が捻じ曲がり、衝撃破が轟いた。目の前には、巨大な黒い何かが在り、それが放っている。


「…」


これはちょっとは効くか…?


「…」


無意識化で翼が勝手に動いてそれを弾いた。ヴァミリオンドラゴンが動いてくれたのか。食らうとやばかったのかもしれない。


「…それだけ?」


「はぁはぁ……」


ビッキーは片膝をついて汗だくのまま僕を睨みつけてる。悪くない顔。


「安心してよ。君が負けたのは君だけじゃない。皆一緒だ。特別に王冠だって許可しよう。亭主関白の僕が包容力を持って許可しようじゃあないか。…あれ?さっきよりも酷くなってるな。もしかして君の能力で心の距離がどんどん近くなってるのかな?」


「はぁはぁはぁ…」


「持てる力を、全部出し切った。その想い。その気持ちは十分伝わったよ。だから君も伝わったかな。僕という絶対の存在をさ」


目を見開いてる。まだ荒い呼吸が続いてるようだ。


「もし。僕が君の生涯の伴侶だとしたら…」


二階から一階へ降り、ビッキーに近づく。


「全てを支配するのか。やだな。僕って、そうなんだ。こういう気持ちは初めてだよ。僕ってどうやら、結婚した後の奥さんをどういう風に扱うのか。理解してしまっちゃった…。嗚呼。そうなんだ」


結婚後の事は話が早いが。例えば小林さんと結婚した場合、僕はどうやら。亭主関白になるのか。


「…」


ちょっと自分で自分自身のことを考えて、ちょっと自己嫌悪。今後。そういうところをちゃんとしっかりしよう。結婚した後も。奥さん第一で。飲み会があっても、遅くならないように…。


「飲み会はダメだ」


…。


「…え?」


「なんでもないです…」


ちょっと恥ずかしい。妄想してることが口に出てしまった。飲み会ぐらい…。飲み会…。じゃあ僕も参加すればいいじゃない!


「…」


なんで僕は今頃。こんな場面で。結婚した後の悩みを考えてるのだろうか。


「一つ言っておくけど。孤高で絶対で超越してる僕ですら…。悩み事の一つや二つは存在してるんですよ。だから…。安心してください」


「飲み会はダメだって…。私飲み会なんてやったことないのに…」


「…」


「飲み会とか。パーティとかも…。そう。心が折れちゃいますよぅ…」


「僕がついてるだろ………って!君の能力なんとかならないんですか!?」


「そういう奇跡の下に生まれたからしょうがないんですよねえ。ハァハァ…。それとも王冠による奇跡かぁ。ハァハァ。生まれて初めてですよぉ」


「何が?」


「マックスの全開を、出したのはぁ…」


なんか知らないけど、生まれて初めてとか言われて嬉しかった自分がいる。ギャルゲーにやりすぎだろうか。


「暴れたいならいつでもやればいい。プレイヤーキルもビッキーまだでしょ?いつでも受けるさ。フレンドだし」


「はぁはあ…。くそ。くそおお。はぁはぁ…」


「お茶でも入れて落ち着きます?」


「なんでそうなるんですかぁ」


「慣れてますから。あの、言っておきますけど、後ろから攻撃するとか止めてくださいよ?この船壊すとかナイですからね?ムゲンさんのだし」


「はぁはぁ…。そういぅ。はぁはぁ。癇癪かんしゃく起こす気力もありませんよお。ちょ、ちょっと待ってください」


僕はくるりとビッキーの方へ向き直した。


「こ、これ」


ビッキはよろよろと歩きながら僕に手渡した。


「さっきの賭けの分ですよぉ。全財産」


そう言われてカードを出された。プラチナに輝いてる。ぴかぴか。僕の顔が映るぐらい。


「えーっと」


「受け取らないとか…。分かってますよねぇ?」


これまでの一番の睨みだった。マジで眉間に皺を寄せてる。普通に怖いんですけど。


「…ありがと」


お礼を言うと、バインダーを取り出し仕舞った。


「いくら入ってんです?」


「100万ドル分入れてましたから、それの三分の一ぐらいでしょうかぁ?」


「…えっ?」

は?マジで言ってんの?

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