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第二十八話 暗黒のプレイヤーキラー達

王冠を乗せた女性とああでもない、こうでもないと世間話をしてる。変な感じがする。


「小学生でですかあ」


「ええ。お恥ずかしい話ですが、小学生の頃ですね」


そうして握手をする。


「ヴィクトリア・ローゼスって言います。本名ですね。ヴィッキーとかビッキーとか呼んでくださいね」


「東雲末樹です。マッキーって気楽に読んでください」


そうやって二人で仲良く滅茶苦茶美味いクッキーを食べながらテーブルを囲む。自動操縦モードで船は発進され、一路、ドゥルーガへと海上進行をしている。そんな最中。


「あら。なにかしら」


大音量の音楽が聞こえた。ユーロビート。アンダーグラウンドとかエイフェックスとかのダンスミュージック。二人で席を立って暗黒の大海原の先に、この船よりも大きなドクロマークの海賊旗を上げた大型船がいた。そこだけダンスホールみたいに色とりどりの照明が飛んでる。船の甲板がダンスホールみたいだ。


「へいゆううううううううううううううううう!!!」


明らかに正気の声じゃないボリューム最大音量の声が聞こえてきた。


「ドゥルーガへバカンスだろ?こっちこいよ!!!最高だぜ!!」


見ると、ゾウさんパンツ一丁の男が両手にワインボトルを持って踊ってる。


「楽しそうですけどお。ご遠慮致しますねえ」


どこからともなく拡声器っぽいものを取り出してビッキーが叫ぶ。叫ぶが元々の声量が小さいので相手に聞こえるか聞こえないかのラインぎりぎりをせめぎ合ってる。


「そういうなよぉおお!!!かもおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!!」


そう言うと男の両脇に三人ずつ際どい水着やらサンバカーニバルやらで着るようなド派手な水着を着たお姉ちゃん方々が一緒になって踊ってる。


「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


完全にハイになってると思われる。


「無視します?」


「無視したら攻撃してきそうなのでえ。穏便に断りいれときましょーかあ」


「あの調子で誰彼構わず誘ってて生き残ってるなら、結構強いってことだもんね」


「ですねえ。わがままを通せるだけの暴力はお持ちのようですしぃ」


「っへーーいへいへいへーーーいへいーーーへい!へい!へいいいいいへいへい!!」


チェッカーズかな?海賊船は併行する形で横づけされた。


「何かあったらあったで面白いものが見れるかもしれませんねえ」


ビッキーは僕を見て言う。


「降りかかる火の粉は払うけど、あんまりプレイヤーと関わり持ちたくないなぁ。不条理な暴力なんて振りかざすもんじゃないよ」


「ムゲンちゃんは倒したのにですかあ?」


「ぶっ飛ばしただけ。水平線の彼方まで飛ばしただけだし、あれもう多分地球で一番強いんじゃないかな」


今考えればお侍さんの格好をしていた。日本人だと思うけど。日本でああいう人の話は聞か………ないかな。アレ倒せるのうちのサークルでもいないぞ多分。深紅の鎧。いや、確かそういう魔法少女っぽい話が大分昔のアニメの付録でそういうのが載ってたような…。もう二十年も三十年もそれぐらい前のやつだったけど。


「では強気でいって、滅ぼします?」


「人の話聞いてた!?僕暴力はやだって言ったよね!?」


「そーなんですかぁ」


「露骨にがっかりしないでよ!僕みたいなのが暴れたらRealやる人いなくなるからね!?」


「そーかもしれませんねえ」


「おいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!無視すんなよおおおおおおおお!!!!


ゾウさんパンツの男に目線を向けた。相変わらずド派手だな。成金二世か?そういう勘違い野郎はうちのサークルでも居たぞ。言っとくけどなぁ。そのままずっとそうやって死ぬのって、ちょっと違うんだよ。


「俺の名前はレスナルッツォ。最高の生き方レスナルッツォ。マジイってるレスナルッツォ!ぎょんぎょんぎょんぎょんぎょんぎょんぎょ~~~~~~~~!」


そう言ってレスナルッツォさんはぱたりと倒れた。


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


風切り音が聞こえた。空を見るとワイヴァーンに乗った一人の騎士風の男がその船に飛び降り、レスナルッツォさんを蘇生させるとワイヴァーンへ飛び乗り舞い上がって行った。


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


むくりと起き上がるとレスナルッツォさんは僕達を見てから言った。


「敵襲だあああああああ!!!!総員配置につけええええええええええ」


「…皆殺しにしちゃいますかあ?」


「…」


とりあえず、こういう場合、バカを一人黙らせれば問題は無くなる。


「…」


隣の船に乗り移って、レスナルッツォさんのみぞおちに死なない程度に殴った。くの字に跳ねるとそのままころりと転がった。


「すいません。お手数かけちゃって。僕達もう行っちゃいますね」


踊り子に一言。


「え。あ。ええ。あーっと。…はい」


話がややこしくなる前に僕は元の船に戻って最高出力を出してもらった。


「いやあ。これまた会ったら絶対攻撃してきはいますよお」


「その時また改めて考えるよ。いちいちああいうの真面目に相手してたらバカ見るのはこっちだっての」


「そう言えるかもしれませんねえー」


そうしてビッキーはチラリと後ろを向いて言った。


「ついてきてるのが一人いますけどお。今度は私が力を見せてあげましょおかあ?」


「結構です。ほっとけばいいよ」


ビッキーも結構物騒な事言っちゃうんだよなぁ。


「この世の中って知らない方が幸せなこともあるからね。僕みたいなのが人生でぽっと沸いて出てきちゃったらモチベーションだって下がっちゃうだろうし」


「お優しいんですねえ」


「世の中って優しさで出来てるからさ」


「そうなんですか?」


「そういうもんだよ。まぁ日本が特別生き易いってのもあると思うけどね。少なくとも、僕はそういう優しさで救われたし、気付かないところで優しくされてるんだって思う。だから気遣いって大切だって思うんだ。この世の中、皆の協力で成り立ってるから」


「そういうもんでしょうかあ」


「そういうもんだよ。だからあっちがこの船を壊そうとしたら、とりあえず、殺さない程度に右腕を引きちぎるつもり。僕もちょっと、ああいうハイでヤバイヤツのせいでちょっと暴力的になっちゃってるところは否めないかな…」


アルコールは適量に。飲み過ぎるバカは人生も飲み込まれる。うちのサークルも何人かアル中居るから分かる。マジでシラフの時に手が震えてるの見て、傍目から見ちゃってるだけでも底知れない怖さを感じたからね。本当に。ハイになってるヤツは痛い目見ないとわかんないのだ。さっきのなんとかッォさんなんて底知れないバカを感じたからね。さっきのやつオーバードーズだろ。現実なら死んでたぞ。マジで。


「星空が出てきましたねぇ」


曇りがちな空から星の光がちらほらと。


「こういう時って、なんだか血が騒ぎますねえ」


「そうなんだ。アトランティスだからわかんないですよ…」


そんな事を言ってると。


「囲まれてますねぇ」


ボートの音が僕にも聞こえた。複数方向。確かに囲まれてる。


「今からお前らにいくつか質問する!真実のみ述べるように!不正解や沈黙は攻撃開始を意味する!」


大音量の声が聞こえてきた。


「今日は千客万来で楽しいですねえ」


「ホントだよ…」


「第一問!この世で最も最強なのは次の内どれか!!三択だ!」


「三択なんて結構お優しいんですねえ」


「…嫌な予感しかしないよ」


「一番!童貞!二番!処女!三番!老人!」


「…」


「迷いますねぇ。これは一番でしょうかあ。若さ的にそうですよねえ」


「ま。まあそうなるかな…」


「じゃあ二番にしましょうかあ」


「さっきから闘いんですよね!?ビッキー?」


「だめですかあ」


「答えは一番!童貞だよ!」


「正解!」


どこからともなく拍手が起こってる。こいつら楽しんでるなぁ。


「第二門!これも三択だ!」


「第二門まできちゃいましたねえ。何問まであるんでしょうかあ」


「さぁ。次で終わりとかじゃないかな」


「この中で最も大切なものはどれか!一番!童貞!二番!処女!三番!友情!」


…。


「ハリウッド的には二番でしょうかあ」


「多分一番って言わせたいんだよ。多分正解は一番だね」


「一番でしょうかあ」


「一番だよ!!」


「ファイナルアンサー!?」


「ファイナルアンサー!!」


「…正解ッ!」


そして拍手が起こった。腹が立ってくるなあ。煽ってんのか。


「三問目!」


僕は間髪入れずに叫ぶように言った。


「一番!」


「正解!!」


そしてこれ以上ない拍手と歓声が沸き起こってる。上からも。50人ぐらい囲まれてるのか。


「君らもヒリアに加わらないか!?君達なら即戦力だ!高収入好待遇!有給もあるし福利厚生もバッチリだ!ビラを撒いておくので確認するように!また会おう!」


そう言って囲んでいたプレイヤーキラーの気配は四方に、五方に、散っていった。


「これですねえ。皆で繋ごうヒリアの輪。童貞主義者。来たれ。ですって。あ。これヒリアってアレですねえ?」


「知ってるんですか?」


「偉大なるギルドが五本指として君臨しているのと同様に最悪のギルドというプレイヤーキラーの集団も認知されているんですよお。これは最凶のギルドで悪名を轟かせてるヒリア同盟ですねえ。確か現実でもアメリカでヤバイ事をやってる人達ですよお」


「へえ。そうなんだ」


僕は巻き散らかされたビラをほうきで掃き終えるとゴミ箱に捨てた。


「確かここのギルドがプレイやキラー第一位でしたよお。たった一人で最低のギルドを壊滅させたギルドマスターが居るらしいですよお。凄いですねえ」


「へえ。そうなんだ。たった一人で何人も倒したってこと?」


「そうみたいですねえ。尾ひれついてると思いますが、理性じゃないところで本気になってる人とは関わり合いたくないですねえ」


「…同感だよ」


「あ。見えてきましたよお。ここで燃料の補充をしないといけませんねえ」


暗黒の島が見えてきた。夜のとばりの中、色とりどりの煌めきが、人々の行き交う証だと思うと、なんだか切ない想いを感じる。小さいころ、そう。佐賀県で小さいころに育った時に見た、海を超えた先にある港町の煌めく光を思い出すのだ。


「ここの人たちはとってもいい人達ばかりなので、安心ですよお」


「そうなんだ。良かったですよ。さっきみたいな連中ばっかりだったら困り果てますから…」

レベル80 赤海 エキスパートエリア プレイヤーキラーギルド エクスターミネーション領


最悪のギルドの一角人差し指、皆殺しを冠する名のギルドである。

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