第二十七話 最強無敵の着ぐるみ
くまモンの被り物を着用…。正直に言ってしまって、縁もゆかりも無い熊本県のマスコットキャラを被ってしまってやっちまってるという感覚はある。
「音楽でもかけますかー」
そう言ってレコードみたいな機器を操作し、音が鳴る。妙なエキゾチックなインストゥルメンタルが流れる。ひと昔前のヒッピーのサイケデリックミュージックみたいな感じだ。趣味がちょっとワルイ。
「シークレット賞って何だったんですか?」
そう尋ねられた。
「…」
なんか妙な感じがする。違和感が少し。
「ヴァミリオンドラゴンという召喚獣ですよ」
なんか。質問をさせてはいけないような気がする。小さな王冠を被った目の前の女性が、妙な感じに思えるのだ。そう。
「…」
一瞬、小林さんの姿がダブった。
「もしかして…」
言ってしまおう。
「なんか魔法使ってます?」
相手のオーラは視えない。魔法を使ってる様子はない。ただ…何かおかしい。ただの女性じゃない。
「いえいえ。なるほど…。そうですか。私生まれつき、人との距離を縮めるのが得意なんです」
にっこりと微笑みながら言われた。
「…」
一流客室の中で大理石でこしらえた大きなテーブルで向かい合ってお茶してる。この王女風の女性は…。
「なんといいますか、いわゆる、一つの特徴ですね。ごめんなさいねぇ。もしかして、変な感じがします?」
「いえ………不思議と親近感が沸いて」
「そうなんですよぉ」
二人してちょっと笑って、滅茶苦茶美味しい濃ゆい紅茶を一すすり。
「それにしても、どうしてここに僕がいるって分かったんですか?」
「簡単ですよぉ。私、占星術師なんです。こうやって、タロットを作って…」
王女からオーラが噴き出し、人差し指からオーラが出て、カード状に固定化される。片手でテーブルをなぞるように触れると、テーブルの上にはタロットカードが置かれていた。
「星読みの末裔っていうのが、現実での私の立ち位置でしてぇ。いつか帰る月の住人というものですねぇ。日本でしたらぁ。アトランティスですからぁ。分かりにくいかもしれませんねぇ」
話がぶっ飛んでムーっぽい感じが沸いてきてる。が。アトランティスの住人だっていうのは、前にも確かに聞いたことがある。大昔に存在したかつての大陸。
「そ、そうなんですか…」
あんまり深く話題に掘るとヤバイ感じになりそうなので、あえてスルー。
「星の煌めきはずーっと流れていてぇ。この流れを辿るとですねぇ。未来もなんとなく分かっちゃうんですよぉ」」
「そ。そうなんですか。僕の未来とか。分かりますか?」
「占いますかぁ?」
なんとなく適当に口からぽっと出た言葉だったけど。
「そ、そうですね…」
この人が、僕のこの無人島に飛ばされるという事を占ったのだとしたのなら、間違いなくそれは占いなんてものじゃなく、予知に近いものがあるだろう。そしてその予知を有益に使って、僕と会敵した。
「お願いします」
「いきますよー」
タロットが凄い速さで並べられた。
「うーん。ものスゴイ天変地異みたいな感じの衝撃を東雲君が感じた後に、とっても辛い事があって、とっても幸せになるみたいですねー」
「えええ?そ。それは…いい事?なのかな。ハッピーエンドならいいのかな」
「いいと思いますよー。私なんて逆に大切なものを失った後に世界の罪悪人になるってでてましたからあー」
「えええー!罪悪人ですか…」
「そうなんですよぉ。困った困った…」
そう言ってお茶を一すすり。僕も一すすり。
「それは大変ですね…」
「そうなる前になんとかしなくちゃいけませんよねえ」
「…ですね」
「その前に誰かが私を殺してくれるといいんですけどねぇ。その度にですねぇ。死んじゃうんですよねぇ」
「ええっ!?」
怖い事をぶっこんできたなぁ!
「それも魔法ですか?」
「いろいろ調べたんですけどねぇ。カウンター型の奇跡みたいでしてねー。ひょっとしたらあなたなら私を殺せるかもしれませんねぇ」
不気味の象徴かもしれない。
「例えば…。このエキスパートエリアだとしても…」
「…」
「奇跡や超能力、法力も持ち込める…。試してみますかぁ?」
「え?いや。遠慮しときます」
「そうなんですかぁ?」
「僕は別に誰かに対してそこまで価値があるって思ってせんし、未来の事は不確定でも、ただ今は頑張らなきゃいけない。災厄が訪れるなら、その時あらためてあなたを殺せばいいわけですし…。別にそれは今でもその時でもかまわないし、そう大差ないですから」
「そうかもしれませんねぇ」
「それに、気付いてないかもしれませんけど、世界って何度も何度も危機だったり危ない時が訪れてるんですよ。頑張って、そういう事を食い込めてる人達がいる。だから、そう悲観せずに頑張ればいいと思いますよ」
「そうかもしれませんねえー」
上の空のように、あっちを向いて窓を見てる。結構本気なんだけどね。例えあなたがどれほどの存在になろうとしても。
どれだけのおおきさもちいささも、ぼくにとっては、ぜーんぶ。いみがない。
「僕ってどうやら、最強らしいですからね」
「すごいんですねぇ」
「あなたの思ってる100倍すごいですよ」
なんだろう。僕は誰と話してるんだろうか。お母さん?そう錯覚するような。
「ちょっとだけ。救われてる感じがしてむかっときますねぇ」
「真実をストレートに伝えちゃいました」
「ムゲンちゃんが倒されちゃったってことはぁ。つまりそういうことなんですよねぇ。大変ですよぉ」
ムゲン。あの深紅の鎧。お侍さん。うーん。自分で言うのもなんだけど、滅茶苦茶強かった。
「あの人なんなんですか?」
「それって職業を聞いてるんですか?」
「いえ。いや。そういうことかも。あの人ってなにものなんだろうかって。めちゃくちゃ強かったから」
「フリーターですよ」
「そういう話じゃないんですよねぇ」
「あんまりお話したことはないんですよねぇ。フレンドですけど。ただ、少しだけ占わせて貰ったら生涯無敗と出たんですよねぇ。とってもお強い方だと思ったんですよ」
確かに化け物染みたというよりも、むしろ人間じゃなかったのかもしれない。フィールドマジックとか言ってたし。自分の魔力を展開して現実を塗り替えたり侵食したりするアニメ的な必殺技も使えてたし。
「負けましたけどね。フツーに」
「負けの観念が少し違うのかもしれませんねぇ」
「あー。そういう事かもですね。あの。その王冠って何なんです?」
寝てるときもちゃんと被れてたし。気になっちゃって。そう言おうとしたが、それは止めておいた。親しき仲にも礼儀あり。
「これ見えるんですか?」
ぼんやりと窓を見ながら喋ってるところ、突然顔を真正面にして目を見て言われた。整ってるなぁ。これデフォルトなら相当だ。っていうか食いつくところそこなのか。
「ええ。小さいですけど」
「これは血族に伝わる秘伝の一種でして。当主になると受け継がれる象徴なんですよぉ」
リッチな一族の匂いがする。ピーンときた。
「へぇ凄いですね。お金持ちなんですか?」
「お金はあんまりないですねぇ」
「そうなんですか」
貧乏貴族ってやつなのかもしれない。イギリスとかに多いと聞いたことがある。日本の旧家だってお金の無いところはバイトしてたって言うし。なんだか親近感が更に沸いてきた。
「良かったらもっとお話したいのでフレンドになりませんか?」
「いいですね。宜しくお願いします。東雲末樹です。最強の高校生です」
「ヴィクトリア・ローゼスです。職業はニートですねぇ」
…。
「だ、大丈夫です!ニートの知り合いいっぱいいますから!」
サークルの友達は大抵そう。っていうかうちって30代以上も多いし。いや。ニートって確か30未満の無職だったな。うーん。うちのサークルのメンバー、好き勝手ばっかやってるからなぁ。40、50代とかも………。下手したら100歳超えてる人も居るし…。そもそも超越種って後期高齢者の類じゃないのか?ひょっとして…。
「自由人だから」
にこやかな笑顔で言われたけど、同じセリフを何度も言われた事がある。暗澹たる気分になるよ。
「さて。最寄りの港町へ案内しましょう」
そう言って立ち上がる。
「ドゥルーガですね」
「ドゥルーガっていうんですか」
「ええ。最寄りですねぇ。丁度燃料も補充しなければなりませんのでぇ」
どこかで聞いたような名前である。確かプレイヤーキラー達が作り上げてる街がそういう名前だったような。まぁ。いずれにせよ問題はない。
「ありがとうございます」
かつてないほど。僕は自分の自信に満ち溢れてる。最強、無敵のくまモンなのである。
ヴィクトリア・ローゼス Lv79 占星術師、邪術師 ヒーラー兼アタッカー