第二十五話 ヴァミリオンドラゴンと深紅の鎧と王女
血と肉が燃えるよう、血管から燃えて溶け、意識がカフェイン飲みすぎてるってぐらい上がってる。出鱈目な心臓の音が、僕の知らないリズムになってる。
「にじのむこうへ、ふっとばすよ」
水平線の彼方に虹がかかってる。空中に浮いて、見下ろしてる。一体どーなってんだよ。これ。ドラゴン?ひょっとして僕がドラゴンになってる?体は勝手に動いてる。翼の力強さ。この世界を鷲掴みにする巨大な翼の実感。震える程叫びあがる声。いや。叫びなのか?吠えてるのか。気合を入れてる?
「一撃で決めると…」
燃え立つ紅の鎧を見下ろす。圧倒的な力の差。戦力の差。完璧。これこそ、暴力の神髄。
「言ったはずだ」
見えなくなった。どこ!?剥き出しの荒地から居ない。
「あ」
ヴァミリオンドラゴンの、片翼が、落とされた。感覚。ずっしりとした感覚。肉体を両断された!!っという感覚。
「ッチ。硬いな」
レベル差…。レベル差?レベル差はどーした!?
「ごふんがたった」
巨体。田舎特有のショッピングモール程度の巨大な広大な駐車場を含めて圧倒的存在感。それがヴァミリオンドラゴンというシークレットに値する絶対。翼だけでもそこらへんの田舎の駐車場が併設されたコンビニよりも大きく巨大だ。それが…。斬り落とされたという事実。
「ちゃんとかぞえたから、こうげきする」
片翼だけで浮いてる。不利か。強過ぎるのか。油断なのか。鎧の右からの攻撃に視線を向ける。速さといったら、そんじゃそこらの速さじゃない。もはや人間の動きですらなかった。燃え立つ刃の攻撃を、ヴァミリオンドラゴンは簡単に腕?手?で止めて、燃やし溶かし尽くす。
「いっかいめ」
一瞬動きが止まったところを、尾で鎧を薙ぎ払う。衝撃が凄い。人間の耐えれる衝撃じゃない。ゲームや映画を見てるような感覚じゃなければ、どうにかなってしまうようなレベル。尾の攻撃は命中し、宣言通りにぶっ飛んだ。どれほどのダメージなのか。ちょっと分からない。計り知れない。
「…ッ!!」
本当に彼方まで飛んで行った。ちらりと横を見ると、盛り上がっている火山が風圧で消し飛んでる。ヴァミリオンドラゴンは落ちている翼を拾うと元の位置に戻してくっつけた。
「…」
強いだとか弱いだとかいうレベルではなかったけど、なんというか。それでも、この巨体の最強の無敵のヴァミリオンドラゴンの翼を両断できるヤツが居るなんて。世界の広さを知った。
「はい」
ドラゴンの目が、吹き飛ぶ鎧の行方を追う。相当飛んでる。まだ飛んでる。っていうか。ダメージに耐えてる。目が死んでない。吹き飛びながらも、頑張ってる。
「こうたい」
だんだんと縮んでゆく。元の通りに縮んでく。人間の姿に縮んでく。パンツ一丁の姿に戻った。
「つかれたからちょっときゅうけい」
「ありがと、ヴァミリオンドラゴン」
でも。今考えると、あんな力があるなら、一っ飛びで大空まで舞い上がって町がある港まで飛んでいけるんだ。そう考えると、なんか、変な感じになってくる。繋がってる感じがする。まだ、この見ぬこの世界の強敵と確かに繋がってる感じがして、なんだかちょっと嬉しく思える。
「そーいえばあの人、この無人島までどうやってきたんだろ」
声を掛けられた断崖まで行く。
「こわっ」
断崖絶壁の下を覗くと、小さな船が見えた。っていうか結構視力良くなってる。ヴァミリオンドラゴンの影響のせいか、目を凝らすと更によく見える。小さなちょっとした高そうな船だ。あの人の船だろう。
「港街に到着するまで借りちゃおっかな」
借りパクなんて人の道に反するので、港街のインフォメーションセンターかどこかで忘れ物受付みたいなとこがあったら、そこで申請しよう。それまでちょっぴり使わせて頂こうか。
「これ流石にジャンプして落下するか…いや。さすがに無理だな…」
迂回してどうにかこうにか船のある岸までたどり着いた。やっぱり不思議な事にモンスターには遭遇しなかった。
「うわ。高そー」
佐賀県の唐津や呼子で見たことも無いような西洋風のゴシックデザインの船だった。これ誰かがひょっとしたらマジなデザイナーが仕事して作ったデザインかってぐらい、見た目が豪華。
「土足禁止じゃないよね…」
扉を開けると中は、デザイナーズマンションの一室のような作りになってる。
「うおー。すっご」
ホテルみたいな感じがするし、何か良い匂いもしちゃってる。
「こーゆーので世界一周とかやってみたいよねー」
きょろきょろと物色してると、物音がしたので、そちらを向く。
「…」
ドアがある。中で何かが鳴ってる。動物でも飼ってるのだろうか。
「…」
天蓋付きのベッドで可愛らしい王冠被った王女が寝てた。
「ぐがあああああああ。ぐぎいいいいいいい」
歯ぎしりも立ててる。僕はそっと扉を閉めた。
「他をあたるか…」
女性への幻滅で心がやられる前にこの船から出る必要がある。こういうダメージは後々まで尾を引く気がした。