第二十一話 最強の男
たっぷりの動画撮影の前に。小林さんから一言。
「東雲君。なんかオーラ増えてるよ?」
そんな事を言われた。小林さんは小さい頃から人の生命エネルギーを視る事が出来ていた。そんな人から言われたのだから、間違いないだろう。
「どれぐらい?」
「最初は少し人よりも厚かったぐらいだけど、今じゃ私との位置ぐらい。東雲君が直径1メートルの円柱の水槽に入ってるような感じ。なんていうか。大丈夫?ハートネット・ラフィア戦の後からなんか増えてる感じはしてたけど」
うーん。普通。
「マジで言ってる?」
「うんうん。多分メッチャ強くなってるんじゃない?週刊少年漫画なら」
そんな事言われてもなぁ。あ。今いい事思いついた。
「元々強いんだよ…」
どや顔で言った。もちろん顔は斜めにちょっぴり傾けるのがコツだ。
「実験した方がいいかも。今どれだけヤバイのか、現実的にどれだけ強いのか。測定した方がいいよ」
スルーされた。
「私もヤバイと思うけど、私が思ってる以上に東雲君ヤバイと思う」
「そうかな」
「あっ。そうだ!トランプ!トランプ無い?」
「あるけど…」
リビングに置いてある仕込みマーキング入りのトランプを渡す。
「うん。これは丈夫そう」
「競技用のやつだからね」
仕込みマーキング入りだけど。
「はい。これ」
そう言って渡された。
「千切ってみて?」
「…」
え?
「トランプを両手で持って引きちぎるってこと?」
「違う違う。こうもって…」
小さい白い指が僕の手を取った。
「こうやって。千切る」
「…」
結構力を入れた。
「はい」
「…ドン引き」
「ええええ!?」
「じゃあさ。ちょっと外出てみようよ」
言われるまま外に出る。小雨は止んだようだ。夏の匂いが立ち込めてる。
「足にオーラを溜めて全力垂直跳びやって」
「えええ~」
「やってって」
「嫌だよ…。もし市川のあのツインタワーぐらいの高さまで飛んで着地に失敗したらどうするんだよ…。骨折しちゃうよ…」
「骨折も失敗もしないでしょ。漫画なら」
「そういうところ妹に似てるよね…」
渋々やってみようと思う。
「足に力を込めて…」
ジャンプ。
「ぉお」
ちょっと力を込めるだけで二階建ての自宅ぐらいまで飛んだ。
「はいッ!」
新体操みたいに両手を広げて着地するぐらいの余裕はあった。拍手をするリアクションをやれるぐらいの余裕を小林さんも持ってたみたいだ。
「うわ。マジか…。テレビつけて銀行強盗の立てこもりとかやってたらさ。東雲君マスクつけてマント着てから出動だよ?」
「この日本で銀行強盗なんてあってたまるかってんだ」
「マスクとマントは経費で落とすから」
…。
「そんなことしないよ!堂々とやってればいいんだよ!悪い事じゃないんだから。防犯や現行犯逮捕は普通の人間でも出来るし」
「東雲君。Realでヴァミリオンドラゴンがバレたらどうなるか。考えたよね?」
「うん」
「それ。現実でだと想像してみて」
「うーん」
…。
「普通じゃいられないね」
「でしょ。そーゆーとこ。東雲君バカなんだからもうちょっと考えなきゃいけないよ」
「バカに馬鹿って言わないでよ…傷つくでしょ……」
「あ。そういうテストもしとこうか。腹パンするから痛いなら痛いって言ってね」
「えええ!??」
ごッっと思いっきりやられた。オーラも使われたし。でも。
「全然痛くない…」
「やば。ちょっと病院行ってくる」
そう言って指を見せられた。親指以外の指の骨が出てる。
「どんだけ全力で殴ったんだよ!?」
「私が殺すつもりで殴って痛くも痒くもないってことは。相当だよ。ごめん。タクシー呼んで」
「うん」
歩いて行けとはさすがに言えない。
「僕が最強になってどーするんだよ…」
「監視外します?」
「そうしましょうか」