第二十話 追放された少年
イースターヴェル北門でラフィアに急襲を受け訳の分からない火山に移動させられ、殺されかけた。そのせいか気分が高ぶっていたのか、マグマで一っ風呂浴びてもへっちゃらだった。マグマに浸かってる時は大分県の別府地獄巡りを思い出したけど、よくよく考えれば、温泉の質は大分県の由布院のような感じの方が近かった。大分県には親戚も住んでるので、こういうところはちゃんとしなきゃなと思う。九州の人間はそういうとこは本当に大切なことだから。別府と由布院のくだりなんて多くの人はどうでもいいだろうけど、大分県民にとっては大切な事なのだ。
「そんなことはどうでもいいけど、ここどこだよ…」
火口を下って火山を降りると、そこはジャングルような密林地帯だった。軽く上空に居た時見回した時、ここって確か島だったと思うんだけど。
「端末からこの場所は死火山っていう場所らしいけど。どーなってんだよ…。メッセージの交信機能が使えないみたいだし」
おまけに翼も生えてこない。
「でも、翼以外の力はちゃんと出力してんだよなぁ…」
足元に落ちてる堅そうな石を人差し指と親指の力だけで粉々に出来てるし。明らかにヴァミリオンドラゴンの影響を受けた状態を維持してる。
「…」
ヴァミリオンドラゴンのカードを出しても、そのシークレット賞のカードには鎖が表示され、ヴァミリオンドラゴンのイラストがどこかに消えてるし。
「まさか」
ログイン不可能のデスゲームが始まったのかと思って急いでログアウトをしてみる。
「…」
ログアウトをすると、もう夜。小雨が降っているせいか、ぱらぱらという音がしてる。夏休みもそろそろで、もう夏本番。クーラーをつけてないせいか、肌が汗ばんでる。シャワーも浴びずにRealに潜ったせいだ。立ち上がってパソコンを起動し、Realのメインページに進む。しかしながら、パソコン状でもメッセージ機能が停止していた。現在のログイン状態を見ると、エキスパートクラスエリアにいるらしい。エキスパートクラスエリアを詳しく検索してみると、どうやら、Realにおける最重要区画で、最も現実に近しいエリアマップになり、そこからの端末によるメッセージ機能は使用不可との事だった。
「んー」
翼には矢が刺さってから翼が出るという肉体の形状変化が出来てない。あの矢に原因があるのかもしれない。流石にもう二度と翼が出なくなるという事は無いように思える。あるとすれば、時間による制限とか。Real第二位のハートネット・ラフィアは本気で僕を殺しにきてた。あの矢はおそらくは僕に通用するレベルの武器、アイテムになる。世界唯一無二レベルの存在ぐらいだろうと思う。ひょっとすると、召喚獣対策アイテムで飛行禁止になるぐらいの軽いアイテムぐらいかもしれないけど。
「うーん」
翼が出さえすれば、かなりの速度で移動できると思うし、死火山からの脱出も簡単だ。多分あそこ、無人島っぽい感じがするし。
「大海原を全力ダッシュなんて出来ないし…」
僕の現状がどれだけ凄いのか正確に把握してるといいんだけど。例えば、凄まじい速度で水面を駆け抜け、海面から浮上した怪物をワンパンでぶっ倒しながらむしゃむしゃ生魚で食べつつ、人気の有る港町を探したり。
「逆にレッドライン方向に行ったらそれから、船とかで迎えに来てくれなさそうだし…」
パソコンの表示に自分のキャラクターがあり、その右上にはステータス。そして。
「ギルド入ってたんだったよな…」
トワイライトのギルド。
「助けを求めるか。一応ギルドの掲示板は使えるみたいだけど」
トワイライト。偉大なるギルドの一角。ミルフィーのギルド。Realの最強格の一つ。
「…」
掲示板には凄まじいリア充アピールが貼られてる。ギルドマスターはどうやら七つの海をまたにかけるフィッシングマスターらしい。
「釣りの日記ばっかりじゃんこれ…。メンバーの皆もコメント出しにくくてイイネ!ボタンを惰性で押してるだけっぽいし…」
一応、ちょっとイイね!ボタンを押してみようと思う。
「…できないし」
どうやら掲示板もやっぱり使えないみたいだ。Real関連の連絡通信手段は完全に絶たれてるっぽい。
「にっちもさっちもいかないなー」
あのデコピン野郎。本当になんてことをしてやがりやがったんだ。絶対に地面にぶっころがしてやる。そんな事を思ってると、一階の方からだろう、美味しそうなカレーの匂いがしてきた。温めてくれてるのだ。小林さん。
「…お腹減ってきたなぁ」
小林さんにもちょっと相談してみるべきか?先ずはシャワーだ。一階へ降りると。
「東雲くーんご飯にするー?それともお風呂ー?」
「先にシャワー浴びるよ」
「お湯入れてるから」
「ありがと」
変な気分になって、その変な気分の拭い去るために風呂に頭から浸かって、ちょっと熱めのシャワーで更に汗だくになる。さっぱりしたところでキッチンにはもう最高としかいえないようなカレーが置いてある。
「じゃ。食べよっか」
カレーを食べながら一連の流れを伝える。
「…」
「かくかくしかじかで」
「何言ってんの?」
僕は一連の流れを細かく伝えた。
「殺しにかかられたわけか。あのハートネット・ラフィアが。そーゆー印象は無いんだけど、そういう事があったんだ」
「うん」
「でもさ。マグマの大分の別府とか由布院とか、それマジでどうでもいいから」
「大切な事なんだよ。温泉好きにとってはさ」
「それは分かる。でもさ。今それ必要じゃないんじゃないってことを言いたいの」
「いや。大切な事だって!他でもない。大分県の温泉に似てたんだよ」
「じゃあさ。東雲君。草津とか行ったことあるの?日光の温泉は?」
「無いよ」
「だからさ。必要じゃないって話なの」
「実家が九州なんだよ。九州の人間はそういうところを大切にするんだよ」
「じゃあ東雲君は九州の人間なの!?本州の千葉の人間なの?どっちなの!?」
半ばキレ気味に言われる。なんで怒るんだろうか。
「東京の外れって答える。どこに住んでるかって聞かれたら」
「じゃあ東京の外れの人間が九州の話を持ち込まないで!」
「…うぐぅ」
「話を戻します。現実でトワイライトに連絡を取る必要がある。正式にギルドに加入してもらうため。協力を取り付けるため。そして、救助に来てもらうためにね」
「そうなるか」
「その間はたっぷり動画撮影宜しくね」
「占いによるとこの島か…」