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第十九話 物語はいつだって急転直下な男の子

夕陽に染まる小林さんの顔が、まるで真っ赤に頭が割れて血に染まっているような感覚がした。それが怖くて歩き出す。日常が突然理不尽な暴力で壊れるように。まるで。道を歩く道路いっぱいに血で満たされるように。世界規模のかつてないほどの。


「行こう」


家に着いて、僕はそのまま二階へ向かってRealへダイヴする。小林さんは帰路の途中、僕の顔を見てから何も喋らなくなった。何かを感じ取ったのは、僕だけじゃなかったのかもしれない。何かが始まった。その何かが、僕の、僕の周りを、大きく変えるような何か。異変を感じ取ったのかもしれない。


「…」


イースターヴェルの北門へ到着すると。


「タイミングはバッチリね。ハロー?」


物々しい装備に身を包んだピンク色の髪の毛。騎士風の井出立ち。ドラゴンライダー、ハートネット・ラフィア。月刊Realのグラビアを飾る、世界最高…。


「はい…」


「握手…??」


手を握られてた。


「ちょ…」


なにやってんだよ。そう思って、口に出そうと瞬間。


「テレポーテーション」


その言葉が聞こえた途端。視界がブレ、周囲の景色が揺れて変わっていった。


「シノノメ・マツキ君…」


風景のブレが間もなく正常となってく。ここは…空中?空?視線を下げると、ぐつぐつと煮えたぎったマグマ。活性化した、火山。


「な…」


「ごめんね?」


「にいいいいいいいいいい」


握手の力がほどけ、やがて僕は少しずつ引力にひっぱられる。どんどん重力に従ってく。


「お。おおおっおおおおおおあああああああああああああ」


落下し、落ちる。落ちてく。急降下。急降下。急降下?マグマ…。死?亜熱帯?熱…。


「おおおおおおおおおお」


凄まじい風圧とともに落下してく。


「ヴァミリオンドラゴンッッ!!!」


両肩から翼が生える実感が沸く。大空を鷲掴みにする、強力無比な翼が開いた。


「敵って事でオッケーなんだろーなァ!?」


ドラゴン変化第一形態。これが二度目。


「そこまでシンクロ進んでるのか」


「あいにくだが」


怒りがふつふつ沸いてきた。万能感が世界を支配してる。全てが僕を中心に回ってる。全てが僕のために存在してる。


「僕のレベルは20未満だ!殺せない!」


ような気がしたけど、気のせいである。


「知ってる」


冷淡に美しい顔で、こともなげに言われた。ラフィアはカードを数枚取り出した。


「モンスタープレイヤーキルって知ってる?」


「知らねーよバカ!!」


思わずボケに大声で突っ込んでしまった。ギャグのつもりなのだろうとは思うけど、ちょっと恥ずかしい。カードは変化し、小さな蜂の大群と化してく。多分蜂。たぶん…。


「やってみましょうか」


その声で蜂の大群が機械音のように鋭い羽音を立てて向かって来た。


「…」


これ。なにもしなきゃ殺されるのかな?倒せばレベルアップしちゃうのかな?


「このやろーーーーっ!」


全身の力を込めて、お腹に力を入れて、大空の空中を踏み抜いて、思いっきり殴った。


「…」


殴ると蜂の大群は消えて、ラフィアも消えてた。真上の薄い雲は、水滴を垂らしたように放射状に消えてった。できるかできないかで言えば、できると思ってやったことだ。想像では、惑星を殴るイメージ。


「…」


落ちてくるのだろうか。それとも消えて僕にPKされたのだろうか。とりあえず、手ごたえは無かった。直撃ではなかったし、そもそも殴ったのは空間だし。衝撃波だけでぶっ飛んだと思う。大空での空中の踏ん張りはなんとかなった。これが大地を踏みしめてたら、たちどころに巨大な地震が発生し底まで亀裂が入ると思うし。


「これで終わりか…」


当然といえば当然だ。僕のヴァミリオンドラゴンはLv1299。このRealでは100以上のプレイヤーは存在しない。


「話し合いで解決すべきだったかな…」


可哀そうな事をしたかもしれない。でも。一方的にわけのわからない場所に移動されられた挙句、マグマに落としたり、モンスタープレイヤーキルしたりするなんて。初心者に対してマナーがなってないんじゃないか?


「…」


きらりと何かが視えた。それが光線だと理解できたのは、僕の全身の装備品がばらばらに破壊された後だった。


「…」


パンツ一丁。


「…」


パンツ一丁である。これ男なら良かったと思うけど、女性なら問題だ。どうだろうか。女性ならブラジャーとか上着とかもオッケーなのだろうか。


「ほい」


目の前に、ドラゴンのような角を生やした女がいた。血管が浮き出てるし、明らかに、パワーアップしてるような。


「っぐ」


デコピンをされた。


「…」


デコピン。


「…」


デコピンである。


「ぶっころがしてやる!!!!!!!!!!」


顔面をぶん殴ろうとしたところで、拳を止めた。僕の真下。ラフィアは異形の姿で、僕の真下に居る。そしてその下は火口が見える火山。そしてその場所には、おそらくモンスターもいるだろう。この場所で攻撃すれば、間違いなく、レベルが上がってしまうのは避けられない。


「このおお」


しかしながら、お腹から出る怒りの衝動はもう口から火となり吐き出てる。デコピンである。デコピン。デコピンされた。デコピンされて黙ってるような男の子じゃない。デコピンされて黙っていいわけがない。デコピンされたら…。


「おおおお」


ラフィアの更に下に潜って、額目掛けて、デコピンを弾く。おでこをピンと弾くから、デコピンなのだ。


「あっ…」


鼻と鼻の距離。キス出来る間合いまで近づいたのが悪かったのかもしれない。僕の翼に、矢が突き刺さっていた。


「え…」


それが見えた。突き刺されると、翼が引っ込み、無常にも重力に従って。


「落…ち」


落下してくばかり。


「あああああああああ」


怖いとかヤバイとか死ぬとか考えられない。ただ落ちてくだけ。ラフィアの姿も見れない。ただ落下するだけ。情緒的なもの、一切無し。


「うおおおおおお」


翼が開かない。その感覚が無い。ただ、落下して、マグマに落ちた。


「…」


ぬるぬるしてる温泉のようだった。大分県の別府市、地獄巡りを思い出す。最高の温泉の一つ。


「……」


点になってるラフィアを見上げた。翼を広げてどこかへ去っていった。


「………」


もうちょっとだけ、浸かっていたいような温泉だった。パンツ一丁だし、この機会に、もうちょっとだけ。ただ心残りなのは。


「絶対デコピンはやり返してやるからな…」


そして周囲を見渡した。


「ここどこだよ!?」


まぁいい。どうせすぐにミルフィーが来てくれるだろう。なんとかなるだろう。そう。いつだってなんとかなる。気負わずに。


「あ。これちょっとのぼせちゃうかも」


マグマの湯を早々に後にして、とりあえず、歩き出した。体がぽかぽかして、とっても気持ちがいいのが救いだ。

レッドライン Lv90 死火山の死香 エキスパートクラス


前人未踏。

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