エピローグ 女王のゲーム
レベル1000規格のRealともなると、レベル1から始めたゲーム性は大きく異なってくる。そもそもがレベル1000のようなある一種の神とも呼べるような存在に対してサービスを行うわけだから当然かもしれない。レベル1000のプレイヤーに対してRealが提供する娯楽は、他のプレイヤーとの交流や死んでも復活するプレイヤーとの決闘戦にRealの作り出した様々なユニークアイテム、単純にVRMMOのワクワク感といったもののように多岐に渡る。特別な制限がかけて無ければレベル100を突破した時点でレジェンドルールが適用され死亡判定は実際の死に直結したりもする。そんな中でも人気のコンテンツとしてカジノがある。カジノ内での暴力行為は強い制限があり禁止されており、極端な例だとポーカーのテーブルでレベル1000のプレイヤーの隣でレベル100のプレイヤーがいたりもする。
「ログインはザルーンに」
女王の言葉に僕たちは同意し、同接続で同行した。
「警戒しないのね」
「まさか」
Realシステムの機械音声に僕たちは同意する。
「ウルトラ・ガール様、ヴィクトリア・ローゼス様、東雲末樹様、以上三名を転送致します」
ゾルトリアン・ジーゼスじゃないんだ。いや、それよりも今の僕は結婚して姓が変わった。婿入りで梅田末樹になったのでRealの名前登録も変更しておかないと。
「ゾルトリアン・ジーゼスじゃあないんですねぇ?」
しかもウルトラ・ガールって。うーん。何回も人類が滅亡しては繁栄していく諸行無常の世において、イキリっていうのはどこでも同じなのかもしれない。
「…」
ビッキーは嫌味たっぷりの煽りをウルトラ・ガールは華麗にスルーした。
「ウルトラ・ガールさん?」
ビッキーの更なる追撃の直後、僕たち三人はさんさんと輝く太陽が眩しい南国のビーチの船着場に立っていた。
「気が利いてますねぇ」
白い入道雲に透き通るグリーンがちょっと入ったアクアブルーの海。そしてじっとりと暑くなってくるこの気候。炭酸の聞いたソーダにたっぷりのバニラアイスを入れた飲み物が欲しくなってくる。
「こういう場面には必須でしょう」
僕たちのいる桟橋の先にはスーツを着た白いウサギが立っている。状況が状況ならこれは間違いなくバンバン人が死ぬタイプのホラーだ。絶妙に場違いの着ぐるみチックでちょっと怖い。
「お待ちしておりましたよ」
見た目とは裏腹に渋いおじさんの声でウサギは言った。どうやら着ぐるみじゃないみたいだ。
「わたくし、アーガー。Realのカジノサービス統括マネージャーをしております」
「え?」
Realのカジノサービス統括マネージャーって。
「随分大物が出てきたものですねぇ〜」
ビッキーは嬉しそうに言った。
「私も初めてですよ。今回は統括マネージャーさんが直々に私たちのゲームの立会うなんてね」
「メンツがメンツですから。現環境では通常通りの運営となっております。ご希望でしたら新たにフィールドを生成し静かな環境に整えることも可能ですよ」
「いえ。構わないわ。ヴィクトリアさん。あなたここは?」
「いえ。初めてですねぇ」
「東雲さんも?」
「ええ。初めてです。レベル高いプレイヤーの賭け事には立会人もできるんですね」
ウサギ顔はやっぱりまじまじ見るとやっぱり怖い。
「私は専属のエルナが来ると思ってましたが」
「エルナ君では東雲さん…の力を抑えきれない可能性がありましてね。私が対応に来ました。…ところで先日ご結婚されて苗字が変わりましたよね。末樹さん。変更をご希望ですか?」
「え?」
いきなり話を振られた。
「そうですね。後で変更しようって思ってましたよ」
「それなら今変えますよ」
「できるんですか?」
「私には権限が与えられてますので」
「ただのゲームマスターじゃないんですねぇ」
「プレイヤーの方にはゲームマスターは須く同じように見て頂きたいのですがね。ところで、ゲームはデュエルシステムのギャンブルマッチング、人数は二体一がご希望でしたね。これでは非常にギャンブルが限られてくるのですがもう一人お連れの方をログインされるか、梅田様がゲームから外れて頂いた方がゲームが非常に成立しやすくなるのですが」
「じゃあマッキー、観客役で。お願いしますねぇ」
にこやかな笑みで言われたが目が笑ってない。女性ってこういうとこ怖いよな。早めに結婚して良かったって思える。妻はそういうところは無いけど、こういうのを度々目にすると女性自体の信頼度が目減りしちゃうよ。
「分かったよ」
渋々承諾。
「…」
「それでは一対一のタイマン、サシでのマッチになります。ベット内容の宣言をお願いします」
「あれ?僕も血液賭けるの?」
「当然でしょう。私が負けたらマッキーの血液1リットルが付いてきます」
「通販のおまけみたいに言うのやめてよ!しかも確か人間の血液は5リットルぐらいで20%の失血は重篤な失血性ショック死の可能性もあるほどやばいんだよ!」
「アカギは2リットル抜かれたんですよぉ?我慢なさい」
「僕はアカギじゃ無いんだよ!」
「大丈夫ですよぉ。人はアカギになれる」
「…」
いきなりそんなことを言われて、返す言葉が見つからなかった。アカギに…。なれる。ちょっと考える。
「ロマンですねぇ」
ウサギはそう言った。どこにロマンを感じたのかちゃんと説明して欲しい。
「いやなれないよ!なれないでしょ!アカギには絶対になれないでしょ!!」
「じゃあ500m lのペットボトル一本分で。私の血液は2、1リットルで」
「グッド!!」
このエルフはジョジョ読んでるな?
「当然私たちはあなたに一切の見返りを求めてない。この勝負はあなたへのボーナス。慈悲。慈愛のゲームなんですからねぇ」
「…ところで。ウサギさん。ゲームは決まったのかしら」
「決めかねていますが…。椅子取りゲームなんかどうでしょうか?」
「椅子取り…」
椅子取りって何だ?僕の知ってるのは小学校のレクリエーションでやった椅子取りゲームだけだぞ。
「なるほど。この島にいる椅子に座ってるプレイヤーをどかせて制限時間にどれだけ椅子を集めることができるかの勝負ね。ふうぅん…」
「違います。よーいどんで、指定した椅子に座って頂ければ勝利になります」