偉大なる勇者の休日
血液を賭けてギャンブルするハメになった。神、地球のリーダー、創造主、そして地球のCEOときた。ビッキーはそこから先へとまだ目指すというのだろうか。こんなこの世の果ての果ての果てのさらに最果ての先まできて。やることといったら結局ギャンブルなのか。正直に言うが中学生でカードゲームにハマってた時は地球征服をするんだろうなとは思ってた。それはきっと僕だけじゃない、男の子なら等しく誰もが一瞬ちょっとぐらいは血迷ってしまう白昼夢だ。それは今ではもう病として認定もされていて、厨二病というれっきとした病名だってちゃんとついてる。その時はちゃんと中学生やってたし、それこそ小学生やら中学生なんかはこの世界は無限の可能性で溢れかえっており、永遠に続くフィーバータイムのハジっけっぷりが終わるなんて思ってもしないのが普通だ。そして僕の友達は、いや、悪友のヴィクトリアさんはこんなところでも生き急いでる。
「何やってんだろ」
留まることを知らない心。無限への渇望。突き抜ける勇気。勝ち続けるために勝負を続ける日々。
「人生ってそういうものですか?」
ここに世界の神とも永劫の王様とも言える存在が隣にいるので尋ねてみる。
「そういう性格なんだよ」
その一言で、僕の先ほどの考えはぶっ飛んでしまった。そうか。性格か。
「性格だったんだ…」
なるほど。なるほどそうだったのか。性格のために人間は死ぬまで苦しみ、必死になって頑張ろうとするのか。
「でも性格って環境で変わるって思いますけど」
「食うに困らず、住む場所にも着るものにも困らない。そして目に止まるものは何一つ不自由を感じない人生で、そこから何を望むのかが本性というものだよ」
三つ子の魂百まで。バカは死んでも治らない。つまり、そういうことなのか。
「…」
バカなんですね。そう言おうとした瞬間、ビッキーと王女様はクリルと首だけ動かして僕を見た。
「…」
ちびりそう。君らひょっとしてとっても仲良しなのかな?ずっとも?ずっ友なの?
「ゲームはどうします?」
もう麻雀でいいんじゃないかな。僕はとりあえず観光にでも行こうか。良さそうだったら妻とまた来よう。今度はお忍びで。
「どうしましょう」
二人は笑ってる。とっても面白そうにしてる。楽しそうで何よりだよ。どうしてそんな無茶をやりたかがるんだろうか。性格にしたってあんまりだ。そういうものはそういうものなのかもしれない。僕には理解できない。現状に満足して心を落ち着かせる。そしてのんびりできればそれで幸せじゃないか。どうしたってもっと凄そうなものへと挑むのだろうか。それがハンターってやつなのだろうか。
「Realで決めませんかぁ?」
「うちはRealを禁じてます。一万年前からね」
「ふうん」
「ですが、折角の提案。受けざるを得ないでしょうね」
話がまとまっていった。僕はとりあえず観光かな。国賓待遇らしいのでこの世界で一番のホテルへ泊まらせてくれるという事だろう。ここまできたらしょうがない。めいいっぱいエンジョイさせて頂こう。そういえばこの世界は星空とかどうなってるんだろう。宿といったら。もちろん満天の星空を見れる露天風呂だよね。東京じゃ無理だけど、可能なんだな田舎なら。もちろん佐賀県のお宿、温泉はどれもこれも最高なのばっかりだ。
「はぁ」
果たしてこの世界は佐賀県に勝てるのか。ちょっとした見ものである。
「んじゃマッキー行きましょうかぁ」
「え?」
嬉しくないお誘いがやってきた。
「…」
ニコニコ顔である。僕はこれがこの後どういう顔になっていくのかが分かるような気がする。つまりこのニコニコ顔の状態でちゃんと良い返事をするべきなのだという事である。
「わかったよ」
ビッキーには借りがある。それは僕が死ぬまで返せないぐらいの借りだろう。僕がビッキーを生贄にして神に仕立て上げたようなものなのだから。それとも首に手をかけて殺そうとした時か。それとも…。僕が彼女と共に永遠を過ごさない選択をした時か。
「ん?」
王女は僕を見て鼻をすんすんさせた。
「貴方、まさか、ドラゴン?」
「魂の半分はそうですね」
「これまで永く生きてきて、これほどのご馳走を見たことがなかった」
王女の唇の端から涎がしたたり落ちてゆく。
「僕は既婚者なので、血の一滴も譲れませんね」
この体も魂も心も。僕一人のものではないのだ。妻と、そしてお腹にいる子供のためのもの。そして、ヴァミリオンドラゴンのものでもある。