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エピローグ 偉大なる勇者の休日

その先人類は僕たちとそう変わらない容姿と知能で、変わってる点は寿命だけ。その先人類は肉体の最盛期を境に変化を止める。寿命が無制限になったら人類はどうなるだろうか。ビッキーは多くは語らないが、死を崇拝した宗教がその先人類を飲み込んだと言った。そして絶対的観察側のデータでは、最後には、彼らは死を得たのだという。死を得る。正直言って僕にとってその言葉は理解できないし理解したくもない。その先人類は自らの生に終止符を打ったのが公式な記録だった。しかし実際のところは、別の生き残りが地球を離れて生き残っていたのだ。僕はその先人類のことを、エルフという言葉面でしか知識が無い。


「永遠を生きるっか」


ラスベガスからエルフのいる世界まで特別な飛行機でしか行けないらしい。イギリスのとある一族が脈々と受け継がれていた極秘のルートを伝って、僕たちは観光へ向かう。


「永遠を生きるねぇ」


またビッキーと王様がくだらない議論をぶつけて唾を飛ばしてる。プライベートジェット機には飲み物が完備されてあって、炭酸と原液と水の配分が奇跡的な調整をなされてる。


「美味いなぁ」


僕のフレはハリポタを何故か二作目から観てるし、マスターは舌打ちをしながらエロアニメを観てる。


「最近のはなぁ。はぁ。やっぱりヒットは搾精病」


飛行機は乱気流の中を進んでる。僕は座席のモニターで何を流してるのかというと、エルフの紙芝居である。内容はおそらくシェイクスピアをそのままパクッってる内容で、ハムレットだったりジュリオとロミエッタだったりしてる。


「うん」


愛について冗長的なセリフをこれでもかってぐらい喋り尽くす登場人物にはちょっとうんざりしてしまう。お前それ言うの何回目で何人目だよって感じだ。権力者が取っ替え引っ替え女性関係が変わってくだけのストーリーにうんざりしてしまうのだ。僕にとっては身震いするようなホラーストーリーである。


「あれ?」


そんな時、赤い稲妻が一瞬飛行機の中を真っ赤に染めた。


「あー。お客さん。これは警告だ。当機は引き返す。本当にソーリーだが引き返す。繰り返す。引き返す。申し訳ない」


エルフと人類の案内人であるパイロット、機長の声が機内中に響き渡った。


「は!?ちょっと文句言ってくる」


討論で押され気味だったビッキーがそう言ってコックピットに向かっていった。


「っち。はあ。全然ダメダメ。いや、そもそもオレこそ時代についていけないのか。むしろ老害なのか。ピンクパイナップルも変わるってことなのか…」


マスターは声を押し殺して泣いていた。それおうちでできないかな?


「マッキー!マッキーもちょっと来て!」


「はい」


コックピットから怒号のような声が聞こえてきたので返事をして立ち上がった。


「ポップコーン取って」


「はい」


「違う、キャラメルの」


「はい」


ハリポタそんなに面白いのか。今度1から最後まで見てみるのもいいかもしれない。


「原画が違うのか。絵師か。それとも塗りなのかな・・・」


マスターの席を通り過ぎて一瞥したけどティッシュを使用するようなシチュエーションにはなってなくてホッとした。コックピットに入るとビッキーはイラつきながら機長に檄を飛ばしてた。


「そんなんでどうでするんですか!」


だとか。


「気持ちが大切なんですよ!」


やら。そんな精神論で飛行機の操縦士が務まるような飛行機には乗りたくないとは思いながらも。


「ダメなんですか?」


割って入る。ビッキーは王様と出会ってから若干少し老けたような感じがする。いつも余裕で軽く、どこでもいつでも大抵なんだって受け流してどうでもいいって思ってた顔から、なんか少しばかりの情熱を感じるような顔になってる気がする。まぁ。そりゃ僕たちみたいなのが突然世界の運命とか地球だとかを背負う羽目になるとどうしたってそうならざるを得ないよね。そして似たような感じの先輩がいたら。素直に黙って頷くか、それとも反抗するか。僕は前者でビッキーは後者という感じだろうか。学校の部活に似てるのがなんとも。


「赤い稲妻は拒絶の意思さ。我々は古からそのルールを守ってきたんだ。君たちも従ってもらうぞ」


「え?なんで?ここには私とマッキーがいるんだけど」


確かにいるけど、うーん。この機長にその凄さとヤバさはあんまり伝わらないと思うなぁ。


「誰であれ。ルールには従ってもらう。その誓約書は書いてもらったはずだが?」


「このまま進んだら撃ち落とされるんですかぁ〜?」


「そうならないかもしれない。しかしながら、私たちと彼らの関係性は地に堕ちるだろうな」


「わかりましたぁ。そだ。こうしましょうか。次に赤い稲妻が見えたら引き返す。どうですか?」


機長はビッキーの言葉に眉をひそめながらもいいだろうと言った。


「警告は三回だからな」


そして遠くで稲妻が走った。


「これもカウントしますかぁ?」


「これは赤くないが・・・」


いや、今の稲妻の光なんか変だったぞ。うん、間違いない。ビッキーの魔力でこの飛行機全体を覆ってるし、さらにそこから分厚く整えてる。わずかに息苦しい感じがする。突然マスクをしたような感じだ。


「なんか嫌な感じがするな」


「へぇ。そーなんですかぁ」


僕もやばい感じがした。前方から異質な魔力を感じる。


「なんだ?計器がおかしい。飛行機が失速してるぞ」


機長が言う。なんか嫌な予感がしてきた。


「おい・・・。これはまずいぞ!くっそ!!今からでも引き返すぞ!!」


機長は叫ぶように言った。その時僕たち飛行機前面のガラスの先からローブを着込んだ人が見えた。


「停止してる・・・!あれは・・・くそ!これだからヴィクトリアの人間とは関わらないのが家訓だったんだよ!!!」


そう言われたビッキーは目の前のローブ着た人を見て唇を歪ませていた。口元だけ笑ってる。


「おもしろい」


僕もそういう厨二的なセリフを言ってみたかったけど、そう言うキャラじゃ無いんだよな。僕って。そんな考えが浮かんでしまった。僕も相当、いよいよって感じでヤバくなってるかもしれない。慣れって怖いって思う。


「まずは・・・」


一瞬で目の前が美しい白亜の円柱が並ぶゴシック調の大広間に変わった。


「紅茶で飲みましょうか」


ビッキーのアイアンフォートレス。何もないところから展開されるくろがねの古城。僕が喰らった時よりもさらに範囲が巨大になってる。静寂の中でローブを着た人が喉元を鳴らす音が聞こえた。気をつけたほうがいい。昨日ビッキーは取り返したとはいえ、パチンコで負けでガチギレしたのだから。

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