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エピローグ 偉大なる勇者の冒険

妻はお義父さんとお義母さんと家族連れで天竺てんじくという異世界に渡っている。どうやらRealのつよつよプレイヤーに勝ったらしく、そこの観光チケットが手に入ったらしいのだ。地球では死亡した場合魂は地に根を下ろして、その魂は繋ぎ止められる。或いは天界に昇天する。特定の宗教が魂に染み渡ってる場合はそれに準じたりもする。死後の呪いや輪廻転生、祖霊となって家族を守護することもあるのだ。しかしながら、ここで、死んでも生きたままの記憶を持って通常の滅びを経験しないまま他の世界に移行することがある。その世界が天竺と呼ばれる世界らしい。それが過去に何度も人類が滅亡した際の何世代前かは分からないが、どうも旧人類の系譜を辿っているらしいのだ。だから観光と物見遊山と調査が重なった梅田家が人類より先んじて一歩先をいっていった。そしてその世界を踏む偉大なる一歩が妻だということだ。家の中では僕に気づかせないようにしてたらしいけど、妻は妻で、僕がいろんな場所に行っているのが羨ましいということだった。それは僕が地獄に落ちたときですらも。最悪の想定はもちろん備えてある。何かあったら僕がヴァミリオンドラゴンが気付く。特に、僕の心臓は妻の鼓動とリンクしてる。危険が差し迫った場合もすぐに対処できる。緊急事態なら僕は躊躇なくドラゴン変化を使い、膂力でもって空間をぶち壊して次元に穴を開ける。だから楽しんできてと伝えた。たまには、肉親の家族で過ごす時間だって必要だろうと思うし。夫婦で常に愛情を示し続けるのには努力がいる。自然に愛を傾けることが不自然に感じたりも。マンネリ化というか、惰性的な状況が夫婦間の悪影響にも繋がると思うし。それに、本当のお父さんとお母さんにワガママを言ったり、娘として親孝行できるのも子供がいないうちにしかできないように思う。僕も妻も半分母親と父親で、もし、それがこの世の中に産まれ落ちて母乳を飲むようになったりすると。僕はこんな遊びも自由にできないだろうし。


「はいっ。はいっ。はいっ」


「…」


「なんで外してるの?ちゃんと本気でやってるんですか?それでも王様なんですか?ビビってるんじゃないですか?大当たりにッ!!心の底では大当たりにビビってるんじゃないですか??」


「そんなことはない…」


王様はペカってから10ゲームも7図柄の目押しが出来ずにいた。マスターは言葉を荒げて怒ってる。これ、時代が時代なら不敬罪だからなと思う。


「はいっはい。ンンンンはいっ!」


「…」


「なんでミスするんですか!!肉体の動作だけじゃないですか!魔力要素ゼロですよね!ただ親指で押せばいいだけですよね!目は悪くないですよね!?」


「…そんなに言わなくてもいいだろ…」


やばい。ちょっと涙目になってる。見てらんない。そんな王様が見てらんない。人類の導き手、神にも等しい存在がまさか、目押しができないなんて、本当に見てらんない。


「ちょっと!言い過ぎですよマスター。こういうのは、慣れなんですから。いいですか。目で直視してビタ止まりさせようとするから揃えれないんです。リールの速度は一回転丸々回る速度は0.75で図柄のコマは20なんです。意外と速度が出てるんですよ。この小さい盤面の中のリールは」


「まぁ。機種によってその速度も若干のバラツキもちょっぴりあったりするけどな。中には同じ台でも製造工程で若干のばらつきがあるという噂もあるね」


「だって早いし」


拗ねた言い方をする王様は初めて見た。ちょっと安心した。ちゃんと血の通った生命体なんだって思った。


「だからですね。感覚で覚えるんです。なんとなく。これをここぐらいにって感じで。少し上を狙ってあげるのがいいんですよ」


「うん。そうそう。とりあえずもう一回やってみましょう」


「分かった」


そうすると王様はまさかの第一ボタンを左から押した。


「ちょ!ちょっと!!ブドウ抜きしないとダメじゃないですか!」


「え?」


僕はジャグラーに関してはシビアに行かせてもらってる。何せ高校の授業中や中学の授業中にもサークルの友達が高設定台に座れてて途中用事が出来て離席する際の補欠メンバーだったのだ。だからマジでいってる。バトルモードがチャンバラなら、ジャグラーは殺し合いだ。下のパネルで大口を開けて笑ってるピエロはファンシーな可愛いものではない。何人もの人生を食らってきた、人々の生き血を啜る人喰いピエロなのである。そこを履き違えてはならない。ジャグラーこそ、この人喰いピエロと食うか食われるか。高設定に座ってるのは当然として、そこから何枚ぶち抜くのか。そこが腕の見せどころなのである。休日昼過ぎに空いてるピエロに勝てるなんてまず無い。いや、確かに方法論としてはあるのだがそれは邪道なので語るに値しない。高設定に座るためには並びの多い実績のあるイベントで朝から並んで抽選を受けて、そこから抽選を突破して狙い台に座るのである。これが現代のギャンブルであるスロットの攻略にして真髄。これも横道に逸れる邪道があるが語らない。


「ブドウ抜き八枚。1ベット抜いて七枚。20円換算で140円。いいですか。これをするのとしないとでは雲泥の違いなんです」


「しまった。マッキーにジャグラーを見せるんじゃなかった…」


「いいですか。それとあと、通常時第一停止もちゃんと右から押してピエロもベルも揃えてください」


「おい…初心者にそんな…」


「ギャンブルは命と誇りの奪い合いなんです。台は元々店にあるんだから客側は必ず負けるんです。だからこそ勝てる時こそ勝っておく。ぶっこ抜く。この言葉はこの台のためのおあつらえ向きなんですから」


そもそもパチスロを打つ段階で設定が入ってる確信がなければ打つべきではないのだ。


「ベルもピエロも1000分の1程度だ。確かに私もそれは考えたが、この先生はペカって脳汁出すの優先でベルもピエロも気にしなくていいと言ってたぞ」


カチンときた。


「これはギャンブルなんですよ。しかもジャグラー。パチスロはパチンコと違って勝つべくして勝つんです。勝たなきゃダメだじゃないんです。勝つんです。そしてどれだけぶっこ抜くかが大切なんです。店のメダル全部無くす気合がなければ、高設定のジャグラーを閉店まで回せませんよ!?」


「どんだけパッションあんだよ…」


マスターの小言が飛んできたがこの際気にしない。


「分かった。分かったよ…。とりあえずこのペカリを揃えてからだな…」


「中からですよ。2コマ余裕があります。上中段に7を押すんです。いいですか。2コマあるんですからね。これ出来なきゃカバネリすら打てないんですからね!」


「いや、あれは4コマだろ」


マスターのツッコミを無視して更に続ける、


「いいですか。こういうのはやろうとした時にやるべきなんです。今やらないなら、今後将来ずっと死ぬまでブドウ抜きできない人生が待ってるんですよ!それでもいいんですか!?」


「一つ…言っていいかな…?」


王様は呟くように言った。


「全然楽しくない…」


「…」


僕は絶句した。


「そりゃそうでしょう。ギャンブルですよ?ギャンブルのどこが楽しいんですか。このジャグラーが!このジャグラーに一体どこに面白さが詰まってるって言うんですか!!」


「とらっぴタッチ…」


マスターの暴言にキレそうになるが僕が大人だから落ち着く。


「機械割が高いからってマイジャグ厨はイキんないでください」


「いやだって…。ギャンブルは楽しむためのものだと思うが…」


ここに至って、僕は気付いた。この人は王様なのだ。世界の頂点に立つ存在だ。そんな人物がギャンブルを、まして、王様が欲しいものを誰かが持ってると言うのだろうか。神にもなれる超越者なのに。つまり、生き方か。僕は庶民、この前まで学生だった。この人は、王様だったのだ。ギャンブルの本質の理解が全くもって異なるのは当然かもしれない。つまり、ギャンブルとは遊びの範疇なのだ。それは真理で、なぜなら王様には並び立つ者など存在しなかったから。同レベルの資金を持つ存在がいなかったから。王様のギャンブルは既に、血が通ってないのである。これがマスターや佐藤さんなら、全財産をパチスロで擦ってしまった場合は明日食う食べ物だって無くなるわけである。生活に切実に直結した問題へと発展する。ギャンブルが悪の証明である。王様はそんな無様な生き死にのギャンブルとは無縁なのだ。なぜなら、王様には無限の富と世界そのものすらも手中に収めているから。


「分かった。そうだね。その通りだ」


僕は一歩引いた。別種の人間であるということが歪に感じた。王様が王であるが故に、圧倒的強者を永くやってきた故に、忘れられた遠い町を見る望遠鏡にすらもなり得ないと感じた。


「王様にジャグラーは似合わない」


ブドウ抜きで喜んでる僕たちは、それはそれはなんとも馬鹿馬鹿しい話に思えてきたのだ。


「三人ともまだ遊んでたんですかぁ?飛行機の時間来ましたよぉ」


「今いくよ」


そして僕たちはラスベガスの空港を後にした。結局ベガスに一泊したっきりのまま。ビッキーの紹介で亜人の住む国でカジノをプレイすることになったのだ。

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