エピローグ 偉大なる勇者の休日
どれだけ仲が良かったとしても、自分の妻との夜の営みについては答えることはできない。いかに既婚者の人生がどれだけ凄いのかということも、それはとどのつまり結婚してからのお楽しみということなのである。
「ねぇ…」
まるで修学旅行の夜に始まる稀有でレアな男子会のような声色でマスターは言う。あの子が可愛いだとか、あの子は結構いいねだとか、あれだけはやめておけだとか、お前のセンスは最悪だぜ信じられええないぞだとか。詰まるところ、幻想を抱いてるのだ。僕もそうだったように、男の子はすべからく、女性という存在に幻想を抱いてるのだ。そして僕は幻想という概念だとか憧れだとかの概念をぶっちぎった。なぜなら結婚というゴールインを果たしたからに他ならない。だから…。
「ねぇ…ヤッたんだよね?」
おそらく50、60、聞くところによると異世界を彷徨った時間を加味すれば相当な年齢を言ってるマスターがそこらの男子校の高校生が話すようなそぶりで言った。
「そりゃそうでしょ!子供いるんだから!」
「あのさぁ。どうだった?」
猥談か。僕も猥談ってやつをすることになるのか。しかしながら、流石に憚られる。前述の通り、それは…。お楽しみだからである。
「結婚してからのおたのしみだよ」
「マジかよ…」
「考え方次第だね」
現在五連荘してる王様が突然正気に戻って話に入ってきてくれた。
「しかし君みたいなタイプは厄介だね。幻想が潰えて幻滅してしまった場合、これは生きる力を失うかもしれない」
「それは…よく言われますね」
そしてビッキーが喫煙所から舞い戻ってきた。
「換金終わった?」
「はい」
全員が三万負けから大勝ちのプラスに転換した。きっと日頃の行いが良かったのか、神様のおかげかどっちかだろう。多分今回の場合は後者だろう。
「ンンンンンぉおおお!」
「まだあります。まだあります」
「ンンぉぉおおおっ」
「まだワンちゃんまだワンちゃん」
「ンンンぉぉ…」
「ん〜ないっすね」
「それまだやるの?」
ビッキーの鶴の一声で王様のおかわりが終了した。結局プラスマイナスゼロぐらいである。
「そろそろ止めますか」
「で。ミスター?ギャンブルをやりたいのですか?それとも遠隔インチキイカサマゲームを続けたい?」
「ヴィクトリアさんの感想です」
マスターは神妙な面持ちで誰に告げるでもなく呟いた。
「そうだね。ギャンブルをやってみたいね。しかしながら、賭けるものがないとね」
「お小遣いの範疇で楽しみましょう。それが清く正しいギャンブルです」
いかにも物騒なことを言い出しかねない王様を僕は制した。
「ギャンブルはもういいかなって思ってる。第一めっちゃうるさいし」
「そうよね」
僕のフレの意見にビッキーが同意した。
「そもそも僕たちが何を賭けるっていうんですか。もう既に、飽きるぐらいベットし尽くしたのに。僕たちは」
「それもそうだね。今日は心ゆくまで遊べたよ、ありがたいことだ」
「でしょう?今日は宿を取ったからもう今日は解散しましょう」
そして言われるがまま出された扉をくぐるとかなり良いホテルの部屋に出た。