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エピローグ 偉大なる勇者の休日

牛丼屋で、神の如き采配を振るう超常の者二人が熱く人間を語っている。半ば哲学的だとか道徳やら倫理に次いで世界観や戦争、そして生と死から生物は単細胞から多細胞生物になっていて死を獲得した、これを進化と呼ぶのかどうとかかんとか。


「ここ脂身やっぱ多いね」


「でしょ?肉食べたかったら吉野家かな。特盛に卵落とすとすき焼き風になって美味いのは松屋ですよ」


フレとこういう会話をしていても隣では戦争やら勝負やらの強弱についての論争が巻き起こってる。ビッキーは弱点を常に狙うべきだと主張し、最も弱い部分から先に少しずつ削ってく行くのだと説いている。体ではなく家族なのだと言うと、王様は人間一人が既に独立しているのであって家族という繋がりは社会的な絆なのだという。そうするとビッキーは闘争、勝負、戦争とは、一日で終わったり自己満足して終えるものではなく、根絶やしにしてから初めて効果が出るのだと主張してる。なんというかビッキーの戦争感というのは、前時代的な世界史を踏襲した史実に即した戦争感だ。さすが一国の当主。インテリというかちゃんと大学で学んだ知識を活かしてる。王様はというと、放任主義っぽい感じでヘンテコなリアリストだ。


「戦争はあくまでも手段に過ぎないからね。私は勝った後の事も考えるし、勝った後の事の方が重要だね」


「そうですかぁ?」


残虐で冷酷の意思があるビッキーは甘くない。少なくとも、日本人の現代の価値観からすると受け入れることはできないようなとんでもないものすら引き合いに出してくる。ビッキーは基本的に人間を信じてないのだ。僕もそう。ただ、王様は人間を信じてる。それがもはや根っこの考えになっているのだ。悪く言って放任主義とはこのことなのかもしれないと思う。


「二人の話は面白いし今後の僕の子育てにも大いに参考にさせてもらいたいけど、ここは牛丼屋だよ。ご飯食べたら出てく。それが暗黙のルール。ハウスルール。マナー。それが守れないなら牛丼屋からも日本からも出てって欲しいな」


既にお客さんの待機の列が店の外にも。僕もちょっとはおしゃべりに夢中になってたけど、この二人は変なところで合ってるし、変なところで価値観が異なる。その上どっちも負けず嫌いってところが最悪だ。十分話しても十五分話しても僕が注意しても議論を止めようとしない。これが二人の争いってやつなのだろうか?僕はもう大人だ。二人とも外人だからって舐めないで欲しい。ここはRealでも宇宙でも無法地帯でもないのだ。ここは日本なのである。そんでもって牛丼屋なのだ。


「外に並んでる連中に一万円ずつ渡してって他に行けって言えばいいだけでしょ?」


ビッキーのポケットには地球で働いてる人間と同等のお金が入ってる。お札を作る機械もあるだろうし、お札を作る国や行政だって支配してるだろう。最近じゃお金を使う人間の支配権すらも手に入れた。そりゃそういう考え方だってあるだろう。なんたって神様なのだから。


「そういう話じゃないでしょ」


「そういう話でしょ」


だめだ。ビッキーの頭の方が強い。このまま引っ張られたら僕たちは朝方までこの牛丼屋の店奥のテーブルを占拠し続ける羽目になってしまう。議論したいわけではないのだ。ビッキーのずるいところは頭脳明晰というだけではない。気まぐれで時として予想すらできないことをやってのける。ビッキーとの付き合いで学んだ事は、最速で、最短で、一直線にである。


「食べたらでてく。以上。ほら。行きましょう!」


珍しくリーダーシップを発揮して店を出た。ゾロゾロと四人で牛丼屋から出たところで前に入ってたサークルのリーダーとばったり出会った。


「お。珍しい魔力に釣られてきたら、マッキーのフレ?」


「ですです」


寒くなってきたのに半袖と短パン、そこから見える筋肉質の体に、深く残る傷痕。そのTシャツには萌えんちゅTシャツをであり、いい歳の大人が着てると歌舞伎町でもすいすい泳ぐように歩けそうだ。


「ほう。ここは相当楽しそうだな」


王様が目をぎらつかせて言った。


「あら?プレイヤーキラーやんないんですかぁ?」


ビッキーは煽ってる。僕のフレはコンビニでビッグポークフランクを買ってきたところだ。さっき特盛食べてなかったっけ?毎日がエヴリデイお祭りなのかな?この人混みの中で迷うから単独行動は避けてもらいたいけど。


「パチンコだよ、パチンコ!超エロい新台が入ったんだよ!今から抜きに行くところ」


おそらく物語の登場人物のセリフとは思えないような、思い切った発言をぶっ込んでくる。


「パチンコ?」


「違法賭博ですよ。麻薬ですよ。オレにとってはオアシスですよ」


「酔ってます?」


僕は聞いた。マスターは極度に酒に弱い。薬物耐性は高いがアルコールにはめっぽう弱いのである。


「ちょっと騙されてね。久しぶりのフリーの時間だし、たまにはねぇえ」


「君もなかなか良い魔力出してるじゃないか」


「ありがとうごじゃます。四人ともヒマそうだし一緒にノリ打ちしません?一人二万円までで!」


「なんで初対面の人に違法賭博誘っちゃうんですか!」


「マッキー!」


マスターは地面に向かって叫んだ。そっちに僕はいない。


「いいか?あんたはすごい。しゅごいよ!!でもな。人間ってのはもうちょい醜悪なもんら。妬みや僻み、ずっと生きてると不平不満も溜まってくんの。それが人間なの。我慢よ我慢、ずーっと我慢。精神的ストレスでさぁ。見てみぃ!大江戸線とか銀座線使ってる中年みーーんなハゲてるから。ストレスでやられちゃってんのね。大変よ。そうでなくっても毎日大変。看護婦さんとかさぁ。めっちゃ大変そうじゃないかな。なんか大変そうだってイメージあるよね。そこら辺の新宿のショップの店員とか楽そうだけどさぁ。基本お仕事って大変なの。生きるって大変なの。マッキー。マッキー!!」


僕は地面にはいないがとりあえず返事だけはしようと思った。


「はい」


「お、おおお。そこにいたんかぁ。いいか。人間のそんな辛いことや大変なことにも耐えなきゃいかん。世の中思い通りにならないことの方が多いんだからさぁ。マッキー別よ?別格よ?でもね。そういう普通の大変さ。キッツイストレス。自分じゃどうにもできないようなどえらいこととかさぁ。学ぶべきだよねぇ!」


なんとなく言わんとすることはわかった。確かに僕は18で全てを成し遂げ、到達し、手に入れた。本当なら汗水やら涙やらを出しまくって、ようやく手に入るか入らないくらいで頑張ってるようなところを、僕はもう手に入れてしまったのだ。一般感覚の庶民感覚が骨の髄まで染み込んでると僕自身思ってるが実際のところ、それが本当に果たして普通の一般的なノーマルなのかが疑わしいところもある。自信満々に書いたテストの答えが実は見当違いのバツだったっていうのはよくあった。


「まぁ確かに。それは…課題ですね」


「それからぁ。そこの人ぉ。ビッキーもだろうけど観光だろぉ〜?」


「観光と言われればそうだな。この世界の人間の人となり、日常を知りたいと思ってる。好奇心からね」


「観光っていうかぁ。まぁ別に観光でもいいんですけどぉ」


「観光っすね」


三人が三者三様違う答えを出してきた。


「人間の人となりを知るためには先ず!率先して人々の生活を自分で体感してみないと!だろ?だろ?」


「その通りだね」


「よし。オッケー!パチンコ行こうぜえ。マッキー!」


わけがわからないよ。


「なんでだよ!?」


どうしてそうなんだよ!?


「あそこじゃないと駄目なんだよ…」


「はぁ」


「最高のマスターベーションはあそこじゃないとできないんだよ!」


「出禁まだです?」


中毒者が出来上がってしまってる。これは無料相談所のリカバリーだって無理そうだぞ。


「ギャンブルっすか?」


「ギャンブルっす」


「いいっすね」


「いや。なんでパチンコ屋なの?ラスベガスとかモンテカルロで良くない?」


「新しいマシーンが導入されてるのがここじゃないと駄目なのんな」


のんのん日和なのんか?


「その言い方軽くイラッとくるからやめてください」


「私は自分の出した金には責任を持ちたいの。パチンコは北朝鮮への、それも核兵器開発のための資金源になってるでしょ。最大手のマルハンですら北朝鮮へのあらゆる利益供与を公言してる。その行動に恥はないのですかぁ?ねぇ??」


「勝ちぁ問題無い。だろ?俺たちは遊びに行くわけじゃないんだ。勝負しに行くんだよ!!」


勝負という単語を聞いてビッキーと王様の目の色が変わった。またこの展開かよ。


「実は私はね」


王様が今にも演説しそうな声の低さで喋り出した。


「ギャンブルは嫌いじゃないんだよね」


「大体お尻の毛まで抜かれますよね」


僕は辛辣に事実を述べた。


「ねっ!?」


僕はマスターに向かってとうとうと真実に同意を求めた。

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